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ばね鋼:コイルスプリングに求められる性質と構造

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ばね鋼:コイルスプリングに求められる性質と構造
コイルスプリングの成形
棒材を加熱し、らせん状に巻き、形状を安定させるためのセッチングを行なう。この製造工程はばねメーカーでのもの。鉄鋼メーカーがばね鋼を生産してコイルに巻き、コイル業者が卸を行ない、ばねメーカーが成形する。これが一般的な手順だ。

近年、サスペンション用のばねにはふたつの変化が見られる。さまざまな要件からの「巻き数減少」と「軌跡の制御」という要求である。これを実現したのが、素材であるばね鋼の進歩だった。

TEXT:牧野茂雄(Shigeo MAKINO) PHOTO:瀬谷正弘(Masahiro SEYA)/新日本製鐵/KYB ILLUSTRATION:萬澤琴美(Kotomi MANZAWA)

現在の乗用車のサスペンションにはらせん状に巻いた巻きばね=コイルスプリングがつかわれている。ダンパーとの共同作業でサスペンションの伸び/縮みをコントロールする部品である。その意味ではサスペンションを構成する重要な部品なのだが、アーム/リンク類の配置およびダンパー減衰力特性の決定に注意を払っても「ばねは無関心」という傾向が日本にはある。ばねとダンパーをセットで発注する例は少ない。だから、ダンパーメーカーは「どんなばねが付いてくるのか」を想像しながら開発を行なう。最終的にダンパーの仕様が決定しても、それと組み合わせる本番仕様のばねとセットで走行実験が行なわれるケースは意外に少ない。

また、近年は、このばねにはふたつの変化を見て取れる。ひとつは「巻き数の減少」である。巻き数を減らし、ばね自体を軽くつくるという目的もあるが、巻き数を減らさないと収容できないというケースもある。フロントのストラットでこの傾向が顕著だ。タイヤの直径が大きくなる傾向にあるため、そのタイヤの上にばねを配置するストラット式だとばねの巻き数を減らさなければ物理的に収容できない。

もうひとつは「軌跡の制御」である。サスペンションのためのスペースがほかの要件によって制約を受け、ばねの「伸び」と「縮み」で軌跡を変えることでやっと収容するという例が増えた。これもフロントのストラット式サスペンションで顕著である。


巻き数を減らし、伸び/縮みで軌跡を変える。こうした巻きばねは、以前は不可能だった。可能
にしたのが素材である「ばね鋼」の進歩だ。

著者
牧野 茂雄
テクニカルライター

1958年東京生まれ。新聞記者、雑誌編集長を経てフリーに。技術解説から企業経営、行政まで幅広く自動車産業界を取材してきた。中国やシンガポールなどの海外媒体にも寄稿。オーディオ誌「ステレオ時代」主筆としとてオーディオ・音楽関係の執筆にも携わる。

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