生成AIはCADによる自動車設計を効率化できるのか?|元設計エンジニアがその可能性について探る(前編)
生成AIは、自動車設計の現場にどのような変化をもたらすのか?
設計エンジニアが手作業で行う業務には、多くの反復的なプロセスが含まれる。その代表例がCAD(Computer-Aided Design)を用いた設計作業だ。
自動車設計では、部品や構造のモデリング、干渉チェック、シミュレーション、図面作成など、細かい作業を一つひとつ積み上げながら進めていく。これらの作業は設計者にとって多くの時間を要し、手作業であるがゆえにミスが発生するリスクも高い。
こうした課題を解決する手段として注目されているのが生成AIである。膨大なデータを学習したAIが、設計条件を満たす複数のデザイン案を瞬時に生成し、最適解を提案する。このプロセスにより、設計のスピードと精度が飛躍的に向上する可能性があるとされている。
本記事では、元設計エンジニアである著者が、生成AIが自動車CAD設計に与える影響とその可能性について探ってみようと思う。
TEXT:庭野 ほたる(Hotaru Niwano)
目次
生成AIの登場でCAD設計はどう変わる?
そもそも生成AI(Generative AI)とは何なのか。簡単にいうと、膨大なデータを学習することで、新しいアイデアやデザインを生み出す人工知能技術である。
通常のAIが過去のデータから予測や分類を行うのに対し、生成AIはデータをもとに「創造的な」アウトプットを生成する点が特徴だ。これにより、従来では人間の発想や手作業が必要だった領域にもAIが活用できるようになり、新しいアイデアを次々と提案できるようになった。特に近年では、ChatGPTの登場により多くの人が生成AIに触れる機会を得ている。すでに文章作成や質問応答といった分野での利用も一般化しつつある状況だ。
この生成AIが自動車設計にも革新をもたらそうとしている。
特に注目されているのが、CADとの統合による設計プロセスの効率化だ。
自動車設計におけるCADの役割
自動車業界に限った話ではないが、通常、製品設計とは構造や機能、性能、安全性の要件を満たすために、精密な設計が求められる。これを実現する中核的なツールがCADであるが、主に次のような役割を果たしている。
・3Dモデリング
車両や部品を三次元および二次元で可視化(モデリング)する。これにより、設計者は車両全体の構造を正確に把握し、複雑な部品の相互関係を確認できる。
・干渉チェックと解析シミュレーション
部品同士の干渉や不整合を検出するための機能を持つ。また、耐久性や流動性、剛性などを仮想環境でシミュレーションし、設計段階での問題を早期発見する。
・製造工程への活用
CADで作成された設計データは、製造工程にも直接活用される。たとえば、NC加工や3Dプリンターのデータとして利用し、製品開発のサイクルを短縮する。
実際に生成AIがCADに組み込まれると、どのような効果をもたらすのだろうか。
最も期待される効果は、設計者にとって最も負担の大きい「反復作業」の効率化だ。従来の設計プロセスでは、設計者が複数のデザイン案を手作業で試行錯誤し、その中から最適なものを選び出していた。モデルを一つひとつ作成し、それぞれを評価する膨大な時間と労力を費やしてきた。
生成AIは膨大なデータをもとに、何百、何千もの設計パターンを短時間で生成する能力を持つ。さらに、性能、コスト、材料の利用可能性といった複数の要因を同時に考慮し、最適な選択肢を提案することが可能だ。
このような機能により、手作業で行っていたデザイン案の検証や微調整にかかる時間が大幅に短縮できる。単純作業から解放されれば、より付加価値の高い業務に集中することが可能となり、プロジェクト全体の効率も向上するはずだ。
しかし、ここで大きな疑問が浮かぶ。「本当に生成AIがそこまで万能なのか?」手のひら返しになってしまうが、元設計エンジニアだったからこそ言わずにはいられない。「そんな簡単なものじゃないはずだ」と。