自動車メーカーの株価指標(投資指標)を投資ストラテジスト望月純夫が紐解く
投資家目線からみた自動車業界(その2)テスラ、BYD EVへの期待値
株価は、技術的達成度だけではなく社会実装がなされる可能性と期待度などの社会的要因によって大きく変動する。例えばロシアのウクライナ侵攻の影響でレアメタル株、そこから繋がってEVに必須のバッテリー関連市場への影響が出る、といった具合だ。本連載記事では、大変革期にある自動車業界の現状を、株価指標(投資指標)というエンジニアリングとは異なる視点から俯瞰し、今日の自動車市場から電子化、電動化技術によって拡大している周辺市場へと広げて分析、考察をしていく。
電気自動車は環境性能に優れ、加速も快適であることから、新しい市場をけん引する次世代のモビリティとして注目されている。しかし、実は電気自動車はガソリン車より先に商品化されていたという面白い事実もある。
今から遡る150年前の1873年、イギリスのロバート・ダビットソンが人類初のEVを完成させている。ガソリン車が完成したのは1885年、つまり、EVの方が12年先行していることになる。また、EVの販売が始まったのは1891年で、これはガソリン車の販売よりも5年先行し、EVが初めて時速100㌔に達したのは1899年で、これもガソリン車より先行している。にもかかわらずガソリン車が世界中を席捲したのは電気に比べ、ガソリン(液体)はエネルギー密度が高く、燃料供給が簡単なことも大きな要因なのであろう。
世界情勢により価格が大きく変動する化石燃料に対して電力供給は安定しているとされていたが、現状でのロシア・ウクライナ戦争の影響を見ると必ずしも楽観視できないというのがEU各国の認識であろう。これらの背景を意識しつつ、EVの2大メーカーである米国テスラ、中国BYDの概況を中心にEV市場の株の動向に注目してみよう。
世界の自動車販売数に占めるEVの割合
2022年の各国の自動車販売全体に占めるEVの割合は、
と日本が大きく出遅れている。
この出遅れが、中国BYDにとっては絶好のシェア拡大のチャンスと捉えられているようだ。日本での高い評価が得られることになれば、現行の自動車市場では日本が優勢な東南アジアでのシェア拡大に貢献するとの狙いも感じられる。日本政府は、基幹産業で自動車産業に対する方向性や支援を明確にする必要性が迫られているといえるだろう。
中国BYDの台頭
BYDのブランドの起源は2003年に遡り、倒産した天川汽車有限公示が携帯電話バッテリーを生産する小さな会社に買収された時から始まる。エンブレム自体は、同社がまだバッテリーを製造されていた2005年に設定された。
2004年にスズキ車で以前使用されていた新しいエンジンを備えたモデルのスタイル変更がリリースされた。2004年以降BYD AUTOは、研究のため車輌の耐久性の改善、新しい特性、テストのための大規模な科学センターを開設し、開発に力点を置いた。2005年以来、BYD車はウクライナとロシアに展開し1.5リッターのF3セダンを発売、2007年にはF6およびF8も投入した。F6は、F3の一種のモデルチェンジであったが、F8は同社の革新的な開発で、2リッター140馬力のエンジンを搭載したコンバーチブルで、人間工学に基づいたデザインとなっている。2008年にはBYDF450DMが投入され約97万台を販売し、南アメリカ、アフリカ、中東などの新しい国に販路を広げた。
BYDの設立当初から目標は電気自動車の製造にあり、軽電気車の開発、電気バスの導入に力を注力し、2012年以降、Bulmineralと共同で電気バスを製造する会社を設立し、2013年には欧州連合向け電気自動車の販売ライセンスを取得した。同社はEVを推進する中国政府の後押しもあり、急速に販売を伸ばしていく。
同社の強みは祖業のバッテリー関連技術で、希少金属の使用を抑えたバッテリーを独自開発し、自前で生産することでコストを削減、性能面でも一定の評価を受け、中国ではトヨタとEV開発で協力関連にあり、中国で発売したトヨタの新型EVにはBYDのバッテリーが使用されている。日本車が9割程度のシェアを持つ東南アジアのタイにも新工場を建設し、EV販売の拡大を見込んでいる。日本市場にも2023年に参入し、3年後には全国100ヵ所以上の店舗を構える計画で、日本での販売経験が豊富な輸入ディーラーとの提携も進めている。
ただし投資の神様と言われたバフェット氏はBYDの株を10年以上持ち続けていたが、今は少しずつ利益確定(売却)に動いている。EV市場での優位性の低下、そしてチャイナリスクの高まりも考慮しての判断ではないだろうか。
比亜迪股份有限公司 BYD Company Limited
香港証券取引所H株 1211
略称:比亜迪 / BYD
本社所在地:広東省深圳市坪山区比亜迪路3009号
設立:1995年
業種:電気機器
事業内容 :二次電池、携帯電話、自動車
代表者:王伝福(総裁)
資本金:22億7,510万元
発行済株式総数:22億7,510万株
うち香港H株:7億9,310万株
売上高 連結:212億1,121万元
営業利益 連結:20億8,506万元
純利益 連結:16億1,171万元
純資産 連結:107億811万元
総資産 連結:292億8,849万元
従業員数 グループ計:約120,000人
決算期:毎年12月31日
主要株主:王傳福、波克夏·哈薩威能源、Lu Xiang-yang、Himalaya Capital Management、摩根士丹利 编辑维基数据
主要子会社:Byd IT 比亜迪電子 67.35% 比亜迪汽車:99.00%
米国EV市場シェア65% EV業界の巨人テスラ
2022年度第3四半期の生産台数が過去最高の36万台以上となったEV業界の巨人、テスラのEV開発の歴史と同社の動向にも触れて行こう。同社は2003年、アメリカ人の二人の起業家マーティン・エバハード、マーク・ターペニングにより、テスラが創設される。名前は創業者ではなく発明家二コラ・テスラに由来する。2004年、イーロン・マスクが3000万ドル(420億円)の投資をし、会長に就任。2008年にテスラが初の電気自動車のスポーツタイプ「ロードスター」をリリースする。メインボディアは、カーボンファイバーで制作され、一充電辺りの走行距離が394キロメートルと電気自動車としては類のない走行距離を達成した。2008年にテスラの創設者の一人エバーハードと当時の電気システムの副プレジデントのターペニングが会社を去り、イーロンマスクがCEOに就任。2010年に株式公開を行い、2億2600万ドルの資金を調達した。
2016年には、リチウムイオン電池と電気自動車を大量生産するための工場「ギガファクトリー」ネバタ州に建設を開始し、ニューヨークや上海にギガファクトリーを建設していく。
このようにしてテスラはユニークな構造設計や電気制御によって長い走行距離を実現しながら、独自の充電施設「テスラスーパーチャージャー」を数多く設置していくなど、ユニークな目線での開発と市場開拓を行ったことで、電気自動車市場を大きくすることに成功した。この一連の流れ、2008年にロードスターが世に出てからわずか14年の間に、2022年の年間台数は131万3851台(前年比40%増)となっている。
テスラ Tesla, Inc.
市場情報 NASDAQ: TSLA
S&P-500 Component
S&P-100 Component
NASDAQ-100 Component
本社所在地:アメリカ合衆国 テキサス州オースティン
設立:2003年7月1日 (20年前)
業種:輸送用機器
代表者:
ロビン・デンホルム(会長)
イーロン・マスク(CEO)
ドリュー・バグリーノ(CTO)
ザック・カークホーン(CFO)
売上高:538億(2021年)
営業利益:65億2000万(2021年)
純利益:55億2000万(2021年)
純資産:521億4800万ドル(2018年)
総資産:621億(2021年)
従業員数:99,290(2021年)
主要株主:イーロン・マスク(21.9%)
主要部門 :電気自動車 ソーラーパネル
主要子会社: DeepScale Tesla Energy Tesla Grohmann Automation
EV市場概況:テスラ、BYDにみる近年の市場動向と展望
少し前まではテスラ、BYDともほぼ独走状態で、非常に利益率の高い業績であったが、自動車メーカー各社が参入することで売上高利益率は下落傾向となり、過去のような高いPER(Price Earnings Ratio:株価収益率)を維持するのは難しくなってきている。
その際参考とするのは、PEGレシオ(Price Earnings Growth Ratio:予想株価収益率(PER)を一株当たりの予想利益成長率で割って算出する企業の中期的な利益成長率を加味して株価の水準を測る指標)で、PER÷年間EPS成長率=0.5倍は割安(買い得)、3倍は割高とされ、成長株は一時的に10倍まで買われその後倍率は減少に転じる事が多い。いわゆる株価の先取り現象である。
テスラは2021年に高値を付け、その後大幅に下落し、現在戻り過程にある。下落幅に対する戻り率はフィボナッチ指数(※)で米国株の場合は考えると。0.618%、0.382%の戻りがテクニカル的に計算出来る。6月20日現在ナスダック指数は、61.8%の戻りを達成しており、連動性が高いと判断できる。
※※数学者フィボナッチが発見した数列から主に23.6%、38.2%、50%、61.8%、76.4%などを指数として計算する心理的な理論
次回はEV市場についてさらに範囲を広げ、EVに関してはまだ「眠れる巨人」と評されるビッグメーカー、トヨタについて分析をすすめていく。