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防衛装備庁に聞く自衛隊最新「10式戦車」。開発における5つの技術的課題とは

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防衛装備庁に聞く自衛隊最新「10式戦車」。開発における5つの技術的課題とは

総重量44トン、1200馬力の出力を誇る「10(ヒトマル)式戦車」は、陸上自衛隊の最新鋭主力戦車として配備が進んでいる。一世代前のの90(キュウマル)式戦車に比べ、小型・軽量化、ネットワーク戦対応、火力、機動力、防護力の向上が図られた。これらの性能を支えるのが、1200馬力と、無段変速機構を備えたパワーパックと呼ばれる動力装置である。開発の経緯やこだわりについて、防衛装備庁技術計画調整官1等陸佐の井上 義宏氏と事業監理官補佐の長倉 将太郎氏に話を聞いた。

TEXT:石原健児(Kenji Ishihara)
協力:防衛装備庁(画像は防衛装備庁提供)

陸上自衛隊4世代目の国産戦車「10式戦車」

防衛装備庁は2002年度から「新戦車の開発事業」としてスタートさせ各国の戦車を徹底的に調査した。米国M1A2戦車、ドイツのレオパルトⅡ、フランスのルクレールなど、 さまざまな戦車を比較した結果、当時は「我が国が求める水準の軽量でコンパクト、かつネットワーク戦闘に対応できるような戦車が存在しなかった」という。こう語るのは、プロジェクト管理部事業監理官(宇宙・地上装備担当)付の事業監理官補佐である長倉 将太郎氏だ。

防衛のため、国内での運用を想定する自衛隊にとって、小型・軽量化は重要な課題の一つだ。「国内の道路交通法やトレーラー積載時の重量制限を考慮しなければなりません。また、当時はコンピューターやネットワーク技術の進展も始まっていたので、ネットワーク戦闘に強い戦車であることも開発条件の一つでした」(長倉氏)

自衛隊がそれまでに保有してきた戦車は「61式戦車」「74式戦車」「90式戦車」の3世代。次期戦車には火力・機動力・防護力に加え、小型軽量化とネットワーク戦闘対応が求められ、国内での独自開発が決定した。

総重量44t、1200馬力を動かす油圧式トランスミッション

1200馬力、44tの車両をトルクレス&高レスポンスで動かす

開発まで8年の歳月をかけ完成した新型戦車は「10式戦車」と命名された。全長9.4m、全幅3.2m、全高2.3m、総出力は1200馬力。前主力戦車の90式と比べると出力は300馬力減少したものの、総重量は90式の50tから44tへと、1割以上の軽量化を実現した。大幅な軽量化によって、10式戦車は極めて高い機動力を誇る。

「動力部分はエンジンとトランスミッションから構成される動力装置である『パワーパック』で高い機動性能を実現しています」と語るのは防衛装備庁技術戦略部 技術計画官付技術計画調整官(陸上)1等陸佐の井上 義宏氏。10式戦車の開発に携わった人物だ。

「乗用車などでは、トルクコンバーターとプーリーを使って無段階変速を行っていますが、10式戦車では油圧ポンプモーターと4段階変速機を遊星歯車機構で連結し、正転~0~逆転と無段階で連続的に変化させることが可能で構造的には、前進と同じ速度で後退できます。この無段階変速の機構によりトルクロスを防ぎ、すべての車体速度で高いレスポンスと高いトルクの維持が可能となりました」

このパワーパックにより44tの車体に対応する高トルクを発揮できる設計となっており、砲塔の動力にはエンジンから発電した電力を利用。車体には巨大なバッテリーも搭載されており、この電力供給が10式戦車の高度な機能を支えている。

10式戦車開発における5つの技術的課題

著者
石原健児

取材ライター。
1966年東京生まれの北海道育ち。大学卒業後、イベント関連企業、不動産業を経て印刷業へ。勤務先のM&A・倒産をきっかけに2016年からライター業を始める。医療系WEB媒体、ビジネス誌「クオリタス」などで活動。医師、弁護士、企業経営者、エンドユーザーなどを対象に取材してきた。総取材人数はだいたい1500人。就学前までに自動車や転落事故で「九死に二生」位は得ていると思う。最近好きな言葉は「生きてるだけで丸儲け」。

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