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全樹脂電池、世界へ。二次電池のゲームチェンジャーとして秘める可能性は?

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全樹脂電池、世界へ。二次電池のゲームチェンジャーとして秘める可能性は?
全樹脂電池

2023年3月、サウジアラムコが全樹脂電池の量産化に向けてAPBと提携することが発表された。原油生産能力で世界一のサウジアラビア国営石油企業は、日本のスタートアップ企業が取り組む次世代電池にどんな未来を見たのか。このネオ電池の秘める可能性は?

世界最大石油会社との提携で世界へ

サウジアラムコ社

APBは、日産で電気自動車(EV)の研究開発に携わった堀江英明氏が、2018年に設立した福井県のスタートアップ企業。ポリマー電解質を適用したバイポーラ電池の構想をもとに、三洋化成工業との共同による研究開発を経て製造技術を構築し、全樹脂電池の量産化に向けて2021年、福井県越前市に第一工場を開所した。

2023年3月、APBはサウジアラビア国営石油企業のサウジアラムコと全樹脂電池の共同開発に向けて連携することで基本合意した。サウジアラムコは主力事業である石油生産のほか脱炭素化にも積極的で、太陽光や風力などの再生エネルギー事業、水素エネルギー事業への投資やカーボンニュートラル燃料の開発などに取り組み、2050年までにカーボンニュートラルを達成することを目指している。

世界展開を視野に入れているAPBは、全樹脂電池を全自動で生産できる工場をフランチャイズ形式で提供し、樹脂素材も同時供給していきたいと考えている。APBは既に全樹脂電池の高速大量生産における技術的な課題を解決しており、1年以内に技術を確立させる予定。2026年の稼働開始を目標に、新たな工場も建設しており、年間8GWh(ギガワットアワー)の蓄電池に相当する全樹脂電池を製造できる見込み。サウジアラムコと本格的な提携が進めば、石油由来の素材の供給源確保にもつながるため、さらなる量産化も現実味を帯びる。

全樹脂電池でなにが変わる?

全樹脂電池

軽量化・小型化による高エネルギー密度を実現

全樹脂電池は、基本原理は現行のリチウムイオン電池と同じであり、この特徴からリチウムイオン二次電池に分類されるが、両者の構造には大きな違いがある。

リチウムイオン電池は、正極にリチウム含有金属酸化物、負極に炭素材、電解液に有機電解液が使用されるのが一般的だ。一方、全樹脂電池は正極と負極ともに樹脂でできており、電解液はゲル状の樹脂に置き換えられている。また、リチウムイオン電池では集電体の横からタブを出すことで電極とするが、全樹脂電池はセルの表面が電極となるバイポーラ構造になっている。

集電帯の表と裏が正極と負極になるバイポーラ構造は、セパレーターを挟むことで何枚も積み重ねることが可能。厚みを増すことで、リチウムイオン電池と同じ容積でも高いエネルギー密度を実現できる。

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