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コネクテッドカー製造の先駆者「ワイヤレスカー」が日本法人を設立。CEOが日本の市場や開発メーカーに伝えたいこと

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コネクテッドカー製造の先駆者「ワイヤレスカー」が日本法人を設立。CEOが日本の市場や開発メーカーに伝えたいこと

2024年11月7日、世界的なコネクテッドカーサービス企業であるWirelessCar(ワイヤレスカー)が、日本法人設立を記念した事業説明会を行った。コネクテッドカー分野のマーケットリーダーである同社は、これまでに総数1400万台以上のコネクテッドカーを支え、日産やスバルといった日本の自動車メーカーとも長年にわたりOEM提携を行っている。事業説明会のために来日したCEO二クラス・フローレン氏に、日本の市場や開発メーカーへの思いをうかがった。
TEXT&PHOTO:石原健児(Kenji Ishihara)

世界ナンバーワンのコネクテッドカー先駆者

画像はワイヤレスカー記者会見資料より

コネクテッドカーサービスやモビリティ向けデジタルサービスの開発・運用を手掛けるスウェーデンの企業「ワイヤレスカー」は、1999年の創業以来、ボルボやBMWといった大手自動車会社と長年にわたり協働し、コネクテッドカーの進化を支えてきた。同社は、自動車ユーザー向けのネット会員サービスをクラウドを通じて提供するために、テレコムのソフトウェア技術とオートモーティブインダストリーのベンチャー企業として設立された。

「BMW、ボルボ、そしてGEとともに始めたサービスは、当初、新しいフィーチャーとして車に付加価値を持たせるラグジュアリーなサービスと考えられていました」とCEOの二クラス氏は語る。顧客の利便性を第一に、車とクラウドをつなぐための基盤構築を行い、通信技術を車両に組み込むという新しい取り組みを打ち出した。

こうした取り組みが広がるにつれ、ワイヤレスカーのサービスは拡大し、2024年には同社が支援するコネクティッドカーの総数は1400万台を突破。OEM先は25社を数えるまでとなった。従業員は750人に増え、サービス提供先は全世界105か所に及ぶ。1つの企業がこれほどのコネクテッドカーを世に送り出している例は他に見当たらない。

創業から25年、競合先は変化

画像はワイヤレスカー記者会見資料より

ワイヤレスカーが創業した当時、自動車向けデジタルサービスを提供する企業は少なくなかった。しかし現在、それらの企業はほとんど姿を消している。

「顧客であるメーカーからのニーズに応えることができなかったのです。私どもはパートナーオリエンテッド(パートナー志向)のサプライヤーとして、メーカーとのパートナーシップを重視し、密接に協力しながらサービスを展開をしていく戦略をとってきました」

こうした柔軟な対応と協力姿勢が、ワイヤレスカーが業界で生き残り、成長する要因となった。

近年では自動車のEV化など業界の変化を背景に、自動車ユーザー向けのデジタルサービスを提供する新たな企業も台頭している。MicrosoftやGoogle、AWSといった大手IT企業も新たな競合先だ。

「長年の経験や知見を武器に、こうしたIT企業とも競争しながら、顧客の期待を超えるサービスを提供していきます。現在ではヨーロッパや北米ではほぼ全ての車が何らかの形でコネクテッドカー機能を搭載しており、こうした動きは他の地域にも広がっていくでしょう」とニクラス氏は今後の展望について語った。

柔軟な開発力で、ニーズに合わせサービスをカスタマイズ

「当社のユニークな点は、フレキシブルかつ柔軟性の高いソフトウェア開発力です」。ニクラス氏は自社の強みを分析する。混雑状況を知りたい、安全面の通知をしてほしいといったメーカーのニーズにきめ細かく応えるのだ。例えば、既存の緊急コールサービスに加え、子供が誤って自動車の操作をした場合に保護者へ自動通知するといったような特定のニーズに応じたカスタマイズも可能であるという。

「必要に応じて当社側で独自のモジュールを構築することも可能ですし、API経由でお客様のシステムにデータを提供し、既存基盤に我々のサービスを追加することも可能です」。実際、各社のニーズにカスタマイズされたサービスをスバル、ボルボ、日産などに提供している。

日本市場へ寄せる大きな期待

画像はワイヤレスカー記者会見資料より

ワイヤレスカーが日本のメーカーと協働を始めたのは15年以上前に遡る。現在、同社の売上全体に占める日本のOEMからの収益は売上の10%から20%を占めるに至っているが、アジア地域を担当するスタッフは依然として限られている。そこで今回、日本支社の設立に踏み切ったのは、現地に法人を置くことで社内リソースを効率的に活用し、メーカーとの関係をさらに深める狙いがある。

ただ、日本メーカーは、EV化への対応、新興市場における競争、といった課題に直面している。というのがワイヤレスカーの見解だ。現地でのサポートを強化することが日本法人の役目となる。日本メーカーには乗り越える壁が1つあるとニクラス氏は語る。「どうしてもソフトをハードウェアのように扱ってしまう。そのマインドセットを切り替えてほしいです。ソフトウェアに対するアプローチはハードウェアとは全く異なるのです」。

画像はワイヤレスカー記者会見資料より

日本法人の設立を機に、ワイヤレスカーは、これまで培ってきた経験を活かし、日本の自動車メーカーに対するサポートを強化していく意向だ。自動運転の普及や次世代モビリティの発展に伴い、環境が大菊変化している現在、日本国内メーカーとパートナーシップを強め、事業の拡大を図っていく。日本での収益を現在の倍に延ばすのが目標だ。

「日本のOEM様がますますグローバル市場において、コネクテッドカーをさらに広げていくために、そのサポートを進めていきたいと考えています。最終的には、エンドユーザーであるドライバーにとって利便性が高いサービスを提供することで付加価値をもたらしたいですね」とニクラス氏。既に日本市場とも深いかかわりがあるワイヤレスカー、市場のニーズにどのように応えていくか今後の動向に注目したい。

著者
石原健児

取材ライター。
1966年東京生まれの北海道育ち。大学卒業後、イベント関連企業、不動産業を経て印刷業へ。勤務先のM&A・倒産をきっかけに2016年からライター業を始める。医療系WEB媒体、ビジネス誌「クオリタス」などで活動。医師、弁護士、企業経営者、エンドユーザーなどを対象に取材してきた。総取材人数はだいたい1500人。就学前までに自動車や転落事故で「九死に二生」位は得ていると思う。最近好きな言葉は「生きてるだけで丸儲け」。

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