4つのキャリパーを別々に動かす:ブレーキ・バイ・ワイヤの威力[ブレンボ・SENSIFY]
ビークルダイナミクスを高めるためにブレーキをバイワイヤ化する。その効果をテストコースで存分に確かめる機会を得た。ブレーキサプライヤーの雄・ブレンボによるシステムである。SENSIFYと称するこのシステムの特質と狙いをご紹介しよう。
油圧というシステムはすばらしく、ご存じパスカルの原理を用いることで、小入力を大出力に変換できる。一方で作動油の劣化や漏れ、配管取り回しの難しさなどの難点があり、しかし長所が短所を大きく上回ることから、自動車用のブレーキシステムにはこれが今なお主流として採用されている。近年はABS/ESCによってタイヤ/ロックスリップを最小限に抑えることが可能となっているが、これらも油圧の高精度なコントロールである。
これをさらにシンプルかつ自在にしたい。その解決手段のひとつがブレーキ・バイ・ワイヤ:BbWである。ワイヤ=信号線によってブレーキ=キャリパーを動かす仕組みで、ビークルダイナミクスに著しい伸長が期待されている。ESCとは桁違いの反応速度による四輪独立制動制御が可能になることで、センシングの能力を高めるほど即座にクルマの動きを自在にするためだ。「とめる」に限らず「走る」においてもこれまでにない性能が見込めるだろう。
ブレンボ・SENSIFYはまさにBbWの提唱で、ブレーキを得意とする同社らしい技術である。フルードをなくす=ドライ化という言い方をしていて、欧州では一般化しつつあるか。前後制動配分は、油圧式であればディストリビュータバルブが担っていたが、SENSIFYならコントロールユニットからの指令でリアルタイムかつ即座に4つのキャリパー制動配分を変更可能。イニシャルに、ペダルフィーリングの設定、ロックまでの作動速度なども自在に調整できる。このほか、ばね下重量の削減と回生協調の効果をうたっていたが、これらはそれぞれ配管がなくなること、車輪の回転状況をそれぞれ把握することで極限まで回生ブレーキに繋げるということだろう。
招かれた試乗会では、テスラ・モデル3にSENSIFYのシステムが組み込まれていた。ストック車との乗り比べができたおかげでその利得が鮮明に感じ取れたが、欲を言えば協調回生ブレーキを基本とする電動車よりも、通常の摩擦ブレーキのみの車両との比較のほうがより効果を確かめられたように思う。一方で、普段の運転状況ではまず遭遇することのない走行条件での極限ブレーキ状態での比較ができたことで、SENSIFYの存在をありがたく感じられた次第。課題は「決して失陥してはならない」ということか。市販車への適用と公道での試走を楽しみに待ちたい。