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日産、自己放射冷却塗装の実証実験を公開。ボディは最大12度、運転席は最大5度低下

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日産、自己放射冷却塗装の実証実験を公開。ボディは最大12度、運転席は最大5度低下

日産自動車は8月6日、自動車用自己放射冷却塗装の実証実験を公開した。

開発した塗装は、物体の温度上昇を引き起こす太陽光(近赤外線)を反射し、メタマテリアル技術の活用により熱エネルギーを放射するもの。夏場の直射日光による車室内温度の過度な上昇を防ぐことで、エアコン使用時のエネルギー消費を減らし、燃費や電費の向上に貢献する。

開発段階の塗料を塗布した車両と通常塗料を塗布した車両での比較時は、外部表面で最大12度、運転席頭部空間で最大5度の温度低下を確認したという。

開発者は、同社の総合研究所で先端材料・プロセス研究を担当する主任研究員の三浦進氏。アメリカの科学雑誌『ポピュラーサイエンス』の2020年「Best of What’s New Award in the auto category」を受賞した「音響メタマテリアル」の開発も担当しており、効率的に車内の静粛性を向上させる方法を研究してきた。

2018年から、放射冷却製品の開発を専門としたラディクールとの共同開発の可能性を探り、2019年にフィルムによる冷却効果を確認した。自動車への適用を考慮し、2021年から塗装の共同開発を進め、今回の実証実験に至った。

メタマテリアルは、電磁波、振動、音などの性質に対し、自然界では通常見られない特性を持つ人工物質。今回は「熱のメタマテリアル」として塗料に採用した。晴れた冬の夜間から早朝にかけて起きる「放射冷却」と同じ現象を人工的に引き起こし、太陽光を反射する。クルマの屋根やフード、ドアなどの塗装面からも熱エネルギーを大気圏外に放出することが可能となり、車内の温度上昇を抑制する効果がある。

メタマテリアルの技術を利用した放射冷却塗料は、建築用途に使用されているが、自動車用と比較すると塗膜が非常に厚く、ローラーでの塗布が前提となり、自動車の塗装に必要なクリアトップコートの使用も想定されていない。自動車に適用できるよう、エアスプレーでの塗布や、クリアトップコートとの親和性、品質基準を満たすなど、さまざまな条件に取り組んだ。

約3年の開発期間のうち、100以上のサンプルを作製し、一般的な自動車塗装に用いられるエアスプレーでの塗装に成功。今回の実証実験において、塗装の欠けや剥がれ、傷、塩害などの化学反応に対する耐性、色の一貫性、修復性も現時点では問題ないことを確認したという。

塗装膜厚においては、同等の冷却性能を確保しつつ開発当初の120マイクロメートル(0.12ミリメートル)から大幅に薄膜化させた。

日産は2023年11月から、開発した塗装の効果と耐久性を検証するため、羽田空港で1年間の実証実験を実施している。日本空港ビルデングの協力により、ANAエアポートサービスが空港で日常的に使用している軽商用バン「NV100クリッパーバン」に塗料を塗装し、評価を行っている。

今後は、トラックや救急車など、炎天下での頻繁な走行が予想される商用車への特装架装としての採用を検討している。商品化に向けさらなる薄膜化に取り組んでいく。

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