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モビリティ業界の将来を担うエンジニアを育成!サーキットで繰り広げられる「自動運転AIチャレンジ」の勝敗を左右するのは?

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モビリティ業界の将来を担うエンジニアを育成!サーキットで繰り広げられる「自動運転AIチャレンジ」の勝敗を左右するのは?

「自動運転AIチャレンジ」(以下AIチャレンジ)の決勝大会が11月8日~9日の2日間、東京・お台場にある「シティサーキット東京ベイ」で行われた。サーキットを舞台にした大会の勝敗のカギとは?

AIチャレンジは、自動車技術会がエンジニア育成のための取り組みとして、2019年から開催している競技イベント。今回で9回目を迎える。

競技に用いられた電動レーシングカートには、GNSS(※)受信機と加速度センサーが装着されている。さらに「TIER Ⅳ」(ティア フォー)が提供する自動運転用OSS(オープンソースソフトウェア)である「Autoware」(オートウェア)を搭載。社会人や学生による16チーム(合計397名)が、このカートに独自の制御プログラムを組み込んで自律走行によるラップタイムを競った。

チームの制御プログラムをAutowareに組み込む作業はTIER Ⅳのエンジニアがサポート

予選はシミュレーターで

AIチャレンジは2つのクラスに分かれて順位を競う。誰でも参加できる「チャレンジクラス」では、シミュレーションによる予選で上位に入った10チームがこの日の決勝に進んだ。過去の大会における実績が認められたチームは「アドバンストクラス」にエントリー。予選が免除されるが、実車両を利用する機会を多く与えられ高度な自動運転走行を目指すことが求められる。

予選では、TIER Ⅳが提供するデジタルツイン志向の自動運転シミュレーター「AWSIM」(オーシム)を使用し、バーチャルのコースを走行してタイムを競った。チームはシミュレーター上の電動レーシングカートに装備されたAutowareの構造を学びながら、“行動”や“判断”などに関するパラメーター調整を行う。必要に応じて新しいアルゴリズム開発も行い、自動運転制御のレベルをライバルと競った。

(画像提供:TIER Ⅳ)

決勝は実走行!勝敗のカギはパラメーター調整やアルゴリズム開発

決勝大会では実走行が行われる。過去の大会では、電動ゴルフカートにプログラムを組み込み、一般道を再現したコースで障害物回避、歩行者の認識、横断歩道手前での一時停止といった自律走行プログラムの正確さを競った。

今回はサーキットという舞台で障害物は存在しない一方、正確な“ライン取り”(= コース上で最も効率の良い走行ルート)などが求められる。これまでとは味付けの異なる決勝大会となった。

電動レーシングカート場のシティサーキット東京ベイ
新鮮な印象を受ける無人で走行するレーシングカート

基本的には、車両が自身の位置を認識し、加速度を解析してどこに進むかを判断して自律走行する。ポイントとなるのは、シミュレーションで得た知見を生かしつつも、AWSIMでは再現できない実車ならではの課題を解決することだという。制御を実際の車両に適用するためのパラメーター調整やノイズ処理、遅延対策のアルゴリズム開発などが勝敗を分けるようだ。そのあたりを専門家に聞いてみた。

実車の限界内で最善のバランス

「実際のハードウェア(=クルマ)には、加速力や減速力、操舵性能に限界があります。シミュレーションは、それらを“突破した形”で結果が出てしまうことがあります。“論理的には動いたのに、実車に組み込んでみると作動しない”といったケースがあります。そのギャップを埋める技術力が重要だと思います」と話すのは、日立産業制御ソリューションズの上田周平主任技師。シミュレーションとリアルワールドの融合が重要なようだ。

AIにとっても、「初めて出ていく"リアルワールド"に関しては経験がありません。ヒトが教えてあげる必要があります」と語る上田エンジニア。新天地を人間が開拓し、それをAIが追いかけてくるのが理想の姿のようだ。

OEMや一次サプライヤーによる自動運転システムの開発に技術協力を行う同社は、今回のAIチャレンジに「HiICS」(Hitachi Industry & Control Solutions)チームとして参加した。上田氏によれば、シミュレーションで得られた結果を基にしながらも、実際の使用環境を念頭に置いてベストな制御を考えるのが重要だそうだ。

「実車に搭載した場合、“大体これぐらいズレるだろう”とか、“この程度は遅れるだろう”ということは事前にわかります。それを考慮して、少し早めにステアリングを操作したり速度を落としたりといった制御を行っています。」

初挑戦でチャレンジクラス4位入賞を果たした鍵は、「加速力と操舵力の限界を超えない範囲でバランスをとる設定を施した」(同氏)ところにあるようだ。

予選シミュレーションが優位に働いた?

当然のことながら、シミュレーションにもメリットは多いだろう。決勝大会で最速タイムを記録したのは、ロボット開発に携わる2名のエンジニア(所属は非公開)が結成したチーム「Roborovsky(ロボロフスキー)」。2番手に東京大学のロボットサークル「SNE」が続いた。興味深いのは、両チームがチャレンジクラスからのエントリーということだ。ロボフスキーが52秒01、SNEが54秒215と、アドバンストクラスのトップタイム56秒08を大きく上回った。

初参加の場合、実績のあるチームよりもシミュレーション段階からデータを詳細に積み上げていく必要があったと想像する。筆者の個人的な感想だが、初めての車両で初めての場所を実走行するにあたっても、こうしたプロセスが優位に働いたのではないだろうか?AIの行動や判断などに関するパラメーター調整に関しても、デジタルツインが有効なことが改めて実証された印象を受けた。

モビリティ産業の将来を担うエンジニアの育成に貢献

自動車技術会が掲げるように、AIチャレンジはエンジニアの育成に有効と言えるだろう。HiICSを取りまとめた柿崎順チーフプロジェクトマネージャによると、Autowareを活用できる技術者を増やしたいというのが参加の目的だという。また、オーダーを受けて技術サポートを行う業務の性格上、同社では「若手(エンジニア)が部分的な開発を受け持つことが多く、形になった成果が見える点でこのイベントは良い機会。ある期間内に目標を達成するという競争の中で、シミュレーションと実機を通じて“キチンと動く”ことが確認できるのは、モチベーションの向上にもつながるはず」と、AIチャレンジには大きな意味を感じているようだ。

TIER Ⅳが取り組む路線バスのレベル4実証実験にもエンジニアリングサポートを行っている同社。柿崎氏は「社会に価値を提供するお手伝いをしたい」と話す。

モビリティ産業においては、CASEに代表される新しい領域の技術やMaaSなど新しいサービスに対するニーズが加速度的に増している。一方で、ソフトウェアやAI、情報処理などに関わる専門家の不足が叫ばれている。そうした環境下、自動運転という比較的わかりやすいテーマを使い、学生や自動車以外の産業にも門戸を開いているAIチャレンジは、自動車業界の将来に重要な取り組みと言えるだろう。

※GNSS:複数の衛星を使って位置を特定するシステムでGPSよりも測位精度が高い

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