世界初の予混合圧縮着火ガソリンエンジン
SKYACTIV-X 2.0[ HF-VPH ]
世界が畏敬の念をもって迎えた次世代エンジン、SKYACTIV-X。そのカギとなったのはマツダ独自のSPCCI燃焼技術だが、なんといっても注目すべきは、世界初のブレークスルーを現実のものとすべく投入された怒涛ともいえる技術とデバイスの数々である。
PHOTO&FIGURE:MAZDA
TEXT:髙橋一平(Ippey TAKAHASHI)
目次
ガソリンエンジンの“悲願”ともいわれた予混合圧縮着火、HCCI(Homogeneous Charged Compression Ignition)。ガソリンエンジンの予混合燃焼とディーゼルエンジンの圧縮着火、双方の優れた要素を組み合わせるというこの技術を、量産市販車用エンジンとして世界で初めて採用したのがSKYACTIV-X(HF-VPH型)だ。
もともと、HCCIの実用化については世界中のさまざまなメーカーが挑んでいたが、高負荷高出力の運転が難しく、安定的に(エンジンを)運転するには混合気温度を、わずか数℃ほどの範囲内(マツダによれば約3℃)に制御する必要があるなど、解決の難しい問題に行手を阻まれ、“足踏み状態”が長らく続いていた。思い返せば2010年代の半ばに差し掛かる頃には、“当面の実用化は不可能”という、諦めの空気すら漂っているようにも見えたほどである。
そうしたなか、突如先頭へと躍り出たのがマツダ。じつは多くを知り得なかった我々からすると、同社はさながら(HCCI技術については)ダークホース的存在だったのだが、その後(マツダが市販を前提にSKYACTIV-Xの開発を進めていることを発表してから)、火花点火(SI= Spark Ignition)も併用することで圧縮着火の制御を手の内に収めるという独自技術、SPCCI(Spark Controlled Compression Ignition)をはじめ、その内容が徐々に明かされていくなか、マツダがこの技術の開発にモデルベース技術をフル活用していることが見えてくる。
同技術はマツダがそれまでのSKYACTIVで培ってきた、モデルベース開発技術の集大成であり、長い時間をかけて温めてきたものだったのだ。
SKYACTIV-XのSPCCI燃焼実現の背景において大きいのは、モデルベース開発だが、実際の動作を支えているのは、最大噴射圧力70MPaという超高圧のガソリン直噴システムや、各気筒の燃焼圧力を直接観測する筒内圧センサーなどといった、高応答の制御デバイスやセンサーだ。
決して安いとはいえないこうした“飛び道具”の存在は、いまだ追従するものが現れない理由のひとつでもあるが、これらによる飛躍的なまでの制御性向上は、2021年の商品改良において、ソフトウェア変更のみでの大幅なパフォーマンスアップという、新しいアップデートのかたちをもたらすことにもなっている。ハードウェアの変更が一切なかったということで、同様のアップデートは商品改良前の初期モデルでも可能という点も興味深いところだ。