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リフトアップで何がおきるのか?~スズキ・ジムニー ③旋回時の挙動[クルマの運動学講座・その3]

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リフトアップで何がおきるのか?~スズキ・ジムニー ③旋回時の挙動[クルマの運動学講座・その3]

ジムニーのサスペンションは、本格的クロカン四駆でよくみられるパナールロッド(ラテラルロッド)で横方向を位置決めされたリジッドアクスルです。
リジッドアクスルのコーナリング時の力の釣り合いを講義すると共に、カスタマイズでよくおこなわれる「リフトアップ」の課題にもふれてみます。
TEXT:J.J.Kinetickler

第3回は旋回(コーナリング)時の力の釣り合いについて学びます。

この図は右旋回をしているクルマを正面からみた図です。クルマの左右はドライバーの目線を基準にしています。そのためこの図のようにクルマを前からみた場合は左右が逆になるので注意してください。

この図のように旋回中はタイヤに横力(コーナリングフォース)が働きます。その反力として車体に慣性力(遠心力)が働きます。横力が発生する路面と重心は上下で高さが違うので、それを補うために荷重移動が発生します。この横力と慣性力と荷重移動の3つの力が重心で一点に集まり釣り合っています。

荷重移動の大きさは 荷重移動量(ΔRR、ΔRL)=重心高(H)÷トレッド(T)×横力(左右合計) になります。

加減速時の挙動でも述べましたが「ロールするから荷重移動する」のではなく、ロールしようがしまいが、重心が路面より高ければ荷重移動します。厳密にいえばロールして重心が左右に移動すればその分は荷重移動が増えるのでロールが大きければ荷重移動が増えますが、その割合は0.5Gの旋回時に3°ロールしたとしても荷重移動全体の5%程度です。

この横力がどうやって釣り合うのか?順を追ってみていきましょう。

独立懸架の場合、横力が左右別々で車体に伝わるのですが、リジッドアクスルの場合は左右輪がアクスルハウジングでつながっているのでシンプルです。またパナールロッドで横力を伝えるタイプでは横力はこの一本のリンクだけでばね上(車体)からばね下(アクスル)に伝えられます。

この図は説明をシンプルにするためパナールロッドは水平としています。荷重移動は、ばねとパナールロッドの2系統で伝わるのですが、そのひとつがこの図のコイルばね経由です。

慣性力はパナールロッドの反力と左右で釣り合いますが重心とパナールロッドはロールモーメント高(H-h)だけ上下にずれているため荷重移動がおこり、コイルばねがたわんでロールします。

この荷重移動の大きさはロールモーメント高(H-h)の大きさに比例します。もしパナールロッドが重心と同じ高さにあればロールモーメント高(H-h)がゼロになってロールしなくなります。またパナールロッドが路面の高さにあれば(実際には無理ですが…)全ての荷重移動がコイルばね経由となって大きくロールします。

ばねによる荷重移動(ΔRS)=ロールモーメント高(H-h)÷トレッド(T)×横力(左右合計)で表せます。

荷重移動のもうひとつの経路がこの図のパナールロッド経由です。リンク(パナールロッド)の高さをロールセンター高(h)といいます。パナールロッドが慣性力をアクスルハウジングに伝えますが、パナールロッドが路面より上にあればその高さ分だけ荷重移動が起こります。

パナールロッドによる荷重移動(ΔRL)=ロールセンター高さ(h)÷ホイールベース(T)×横力(左右合計) で表せます。

著者
J.J.Kinetickler

日本国籍の機械工学エンジニア。 長らくカーメーカー開発部門に在籍し、ボディー設計、サスペンション設計、車両企画部門を経験。 退職後、モデルベース開発会社顧問を経て、現在は精密農業関連ベンチャー企業の技術顧問。
「物理を超える技術はない」を信条に、読者に技術をわかりやすく伝えます。

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