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リジッドアクスルのロール| ロールとロールセンターの真実:基礎編 ②

[クルマの運動学講座・その11]

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リジッドアクスルのロール| ロールとロールセンターの真実:基礎編 ②

第2回の講義は、基礎編②「リジッドアクスルのロール」です。

TEXT&FIGURE:J.J.Kinetickler

前回の講義では、サスペンションやロールセンターを、あえて無視して説明してきました。サスペンションやロールセンターを考えなくても重心とタイヤ接地点の力の釣り合いだけで説明できるからです。

ここからは、サスペンションやロールセンターを加えて解説します。この図はリジッドアクスルの例です。リジッドアクスルは旋回するときに内外輪の横力が異なっても左右が繋がっているので横力が足し合わされ、力が車体にシンプルに伝わるので理解が容易です。

車両の旋回に伴ない、発生する慣性力(遠心力)とタイヤが発生する横力が釣り合いますが、重心は路面にないため荷重移動が発生します。この場合、これらの力は重心にある合力点で釣り合います。

これらはサスペンションの形式やロールセンター高さ、ばねの固さには無関係です。前回講義した通り、これらはサスペンションの有無にすら関係なく決まります。

このリジッドアクスルサスペンションは、車体の中央にピンがあり、アクスル(車軸)側に設けられた長穴に嵌(はま)って横力を伝えます。 また左右のばねは、それとは無関係に上下方向に車体を支える設計になっています。 この場合、中央のピンの中心が「ロールセンター」です。

旋回してタイヤに横力が発生し重心に慣性力が生じると、その力はふたつの経路でタイヤに伝わります。

ひとつ目の経路は、慣性力によりロールセンターを支点として車体が傾き、ばねがたわんでタイヤに荷重を伝える経路です。この経路による力の伝達は上下方向だけで左右方向には力を伝えません。

重心に働く慣性力(F)はロールセンターのピンの部分で同じ大きさの反力(赤矢印)を受けます。ふたつの力は上下にロールモーメント高(H-HRCだけ上下にずれているので、これと釣り合うためのばねによる荷重移動(ΔRSが接地点に生じます。

ばねによる荷重移動(ΔRS )は、ばねを介して伝わりますが、その荷重移動量は、ばねの取付スパンやばね定数には無関係で、ロールモーメント高(H-HRCトレッド(T)だけで決まります。

式で表すと…  ΔRS=(H-HRC)/T×F となります。

ふたつ目の経路がロールセンター(この場合はピン)からアクスルに横力(=慣性力)を伝える経路です。ばねは横力を伝えることができないので、横力は全てロールセンターのピンを介して伝えられます。この経路ではロールセンターが路面より上にある場合は、その高さの分だけ荷重移動も発生します。

ここではそれを「リンクによる荷重移動(ΔRL)」と名付けます。この大きさは次の式であらわせます。

 ΔRL=HRC/T×F

ロールセンターというのは車体(ばね上)とアクスル(ばね下)の間で「リンクにより横力を伝える点」です。

このふたつの経路による荷重移動を足し合わせると、この図のようになります。ふたつの荷重移動を合わせたものは慣性力(F)と重心高(H)、トレッド(T)から計算される荷重移動(ΔR)と同じです。

 ΔR=ΔRS+ΔRL=H/T×F

 ここで注意してほしいのは車体をロールさせる力は、ばねによる荷重移動だけだということです。したがって同じ重心高でもロールセンターが高ければ高いほどリンクによる荷重移動の割合が大きく、ばねによる荷重移動の割合が小さくなり、同じばねを付けていてもロールが減るわけです。

 逆にロールセンターが低くなると、ばねによる荷重移動の割合が増えます。

実際にロールし荷重移動している場合は路面反力に内外輪で差が発生し、それにしたがって横力にも内外輪差が発生します。

この場合は釣り合いの合力点が旋回内側に移動し図のような力の釣り合いになりますが荷重移動の大きさは変わりません。

極端な例で考えるとわかりやすいです。ロールセンターをどんどん高くし、重心と同じ高さになった場合を考えてみましょう。例えばこの場合は車体とアクスルを横方向に支えるピンの位置を重心の高さまで持ち上げています。

著者
J.J.Kinetickler

日本国籍の機械工学エンジニア。 長らくカーメーカー開発部門に在籍し、ボディー設計、サスペンション設計、車両企画部門を経験。 退職後、モデルベース開発会社顧問を経て、現在は精密農業関連ベンチャー企業の技術顧問。
「物理を超える技術はない」を信条に、読者に技術をわかりやすく伝えます。

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