『トラクション』 ってなんだ? 『パワー』ってなんだ? | ④こまったクルマと、かわったクルマ(FF超コンパクト、FFミニバン、GRヤリス)
[クルマの運動学講座・その8]
FRでもFFでも、確立されたレイアウトや諸元のクルマはトラクション性能も破綻なくまとまっていることが多いのですが、時としてこまったクルマも登場します。
今回、第4回目の講義ではその例を2つ紹介します。いずれも実在する(した)クルマです。一台はFF超コンパクト、もうひとつはFFミニバンです。
また、基本はFFベースのスタンバイ式4WDでありながら前後駆動力配分を100:0から30:70まで可変できるユニークなトヨタ・GRヤリスの4WDシステムについても講義します。
TEXT:J.J.Kinetickler
やたらに大きいクルマと、これでもかと小さいクルマ、どちらも前輪駆動車(FF)です。共通していることは静止時の前輪荷重が少なく、ホイールベースに対して重心高が高いことです。
FF超コンパクトは特定の車両ですが、FFミニバンは「前輪駆動(FF)のミニバン」というジャンル全体の傾向をある車種で代表させたとお考え下さい。どのミニバンも同じ傾向です。
この図がこのFF超コンパクトとFFミニバンの「μ-α線図」です。どちらもFFなのでグラフは上に凸の線を描きます。しかし一般的なFF車に比べるとかなりの低空飛行です。この理由はシンプルで前輪荷重配分(Lr/L)が少なく、重心高/ホイールベース比(H/L)が大きいからです。
FF超コンパクトはホイールベースを極端に切り詰め、エンジンのフロント・ミドシップという特殊なレイアウトにしたため、平均的な前輪駆動車(FF)に比べて前輪荷重配分が小さく(Lr/L=0.6)、重心高/ホイールベース比が大きく(H/L=0.29)なってしまったこと。
FFミニバンは3列シートや室内装備で前輪荷重配分が、かなり小さく(Lr/L=0.55)、ホイールベースが3メートルあっても重心が高く、重心高/ホイールベース比も小さくはない(H/L=0.23)というのが、それぞれのダメな理由です。
上記の数字は1-2名乗車をイメージしていますが、FFミニバンは乗車定員が6-8人もあり、フルに乗車した場合、前後荷重配分がさらにリヤ寄りになり、重心高がもっと高くなって、さらに悪い方向になってしまいます。