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『トラクション』 ってなんだ? 『パワー』ってなんだ? | ③スタンバイは「なんちゃって四駆」?(スタンバイ式4WD)

[クルマの運動学講座・その7]

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『トラクション』 ってなんだ? 『パワー』ってなんだ? | ③スタンバイは「なんちゃって四駆」?(スタンバイ式4WD)

第3回目の講義は「スタンバイ式4WD」です。

ファミリーカーに多く採用されているスタンバイ式4WDは「なんちゃって四駆」とも揶揄(やゆ)されますが、実際はどうなのでしょう。今回はそのあたりを講義します。

TEXT:J.J.Kinetickler

最初は、もっとも一般的なFFベース・スタンバイ式4WDです。基本的には図の赤い部分だけが駆動され緑色のリヤは切り離されています。トランスファーとリヤデフの間に設けられた4WDカップリング(継手) 機構は、それを断続する方法で大別すると2種類、パッシブ制御式アクティブ制御式に分けられます。

パッシブ制御式は前輪がスリップして前後輪に回転差が生じた場合に前輪側から後輪側に回転差に応じてトルクを伝える方式です。この方式は後輪に伝えられるトルクが比較的小さいのと前輪がスリップを始めないとリヤにトルクが分配されないためレスポンスが悪いという欠点があります。

パッシブ制御式でトルクを伝えるカップリング(継手)機構はオイルの粘性(せん断力)を使った「ビスカスカップリング式」や前後の回転差でポンプを回し、その油圧でクラッチを押し付けてトルクを伝える「デュアルポンプ式」などがあります。

アクティブ制御式は湿式多板クラッチの押付け力を油圧や電磁ソレノイド等で制御するのですが、前後の回転差だけではなく車速やハンドル舵角、スロットル開度、加速度センサー等からの情報で、ある程度予測しながら後輪へのトルクを制御する方式です。この方式はパッシブ式よりレスポンスがいいのですが、そもそもスタンバイ式は後輪に配分するトルクの上限を低く設定する場合が多いので、有用な路面はもっぱら雪道までです。

ただし、トヨタGRヤリス4WDのように、基本的にはFFベースのアクティブ制御式にもかかわらず、前後トルク配分を100:0から30:70まで可変できるクルマもあります。このクルマは前後のギヤ比をわずかに変えてクラッチに常に負荷をかけながら駆動させる面白いシステムです。(詳しくは次の講義で解説します)

少し違うようにみえて、アクティブ制御式スタンバイ4WDの一種といえるのが、ハイブリッド車にみられるe-4WDなどと呼ばれる後輪をモーターのみでアシストするタイプの4WDです。これも必要に応じて後輪を駆動しますが、駆動トルクはさほど大きくないのが一般的です。

著者
J.J.Kinetickler

日本国籍の機械工学エンジニア。 長らくカーメーカー開発部門に在籍し、ボディー設計、サスペンション設計、車両企画部門を経験。 退職後、モデルベース開発会社顧問を経て、現在は精密農業関連ベンチャー企業の技術顧問。
「物理を超える技術はない」を信条に、読者に技術をわかりやすく伝えます。

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