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1965年型セブンS2⑤ 綿引名人によるボディ全合金化計画(後編)

福野礼一郎のTOKYO中古車研究所™ 第165回

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1965年型セブンS2⑤ 綿引名人によるボディ全合金化計画(後編)

「TOKYO中古車研究所」などと大袈裟なタイトルですが、私=福野礼一郎が1993年から2012年まで自動車雑誌3誌で152回連載し、多くの方に読んでいただいた連載記事のタイトルの復刻です。TOPPER編集部の依頼で11年ぶりに連載再開しますが、内容的には単なる「私的ブログ」です。TOPPERのコンテンツの中では一人浮いてると思いますが、どうぞよろしくお願いいたします。
(このコンテンツは著者の希望でTOPPERの「総合人気ランキング」には反映されません)

(本文文字量15700字) *通常は雑誌1ページで2000~2500字

このたびの石川県能登地方を震源とする大規模な地震によりお亡くなりになられた方々に謹んでお悔やみを申し上げますとともに、被災されました皆様に心からお見舞い申し上げます。被災地皆様の安全と一日も早い復興を衷心よりお祈り申し上げております。本稿連載の原稿料の一部をAmazon Payを通じて日本赤十字社に義援金として寄付させていただきました。

2Kの質感とカラーに悩んだ末に出た総合金化案

YouTube「CBR WATAHIKI」チャンネルで、2023年4月~9月に行った本稿のセブンS2=HYW334Cのノーズコーン/クラムシェルフェンダー/リヤフェンダーのアルミ化板金加工の作業の様子が、順次動画でアップされています。「CBR WATAHIKI」チェンネルにご登録いただいて、ぜひご覧になってください。木型も作らず、当て金とハンマー1本とイングリッシュローラーだけ使ってフェンダーやカウルを作り出していく魔術的技法は必見です。名人は「これからアルミ加工に挑戦しようと思ってる方にもぜひ見ていただきたい」そうです。

(Photo:YouTube「CBR WATAHIKI」チャンネル)

2023年4月14日(金)。

エバラプランニングの下村さんが品川・天王洲の(有)スティックシフトの車庫までトランポで来てくれてロータス・セブンS2を積載、ここから水戸市にある巴自動車商会=CBR WATAHIKIへと出発する。

良心的中古車屋スティックシフト荒井克尚社長 それじゃよろしくお願いしまーす。

エバラプランニング下村さん 到着したら写真撮ってすぐ送ります。

荒井(出発を見送って)福野さんは結局、仮ナンバーをつけてここまで回送するときに3kmほど試走しただけですが、走った感じの剛性感は前のケーター(=1992年型ショートシャシ/ライブアクスル)と変わらないか少しいいくらいって感じたという話でしたが、それはやっぱりフレーム強化の効能がはっきり現れていたということですよね。

福野 いろいろ考えてみるに、外板の全交換もかなり効いてるんじゃないかと思いました。レストア時にいくら強化したといっても、所詮フレーム構造は92年時点でのケーターハムのフレーム剛性にすらおよんでいませんからね。とくにラジエーターが干渉するフロントサス周りは、ケーターは92年の時点ですでにラジエーターをフレームの外側に出して内側にトラスを組んで強化してるし、フロアトンネル周りも床面だけじゃなくてトンネル内部に立体的なトラスを作ってます。ただしあのケーターは30年前に製造してからノンレストア。ロータスの方はフルレストアのときに外板のアルミパネルをすべて貼り直した際にリベットを全部打ち直しています。ブラインドリベットのかしめ効果というのは長年走ってるうちにやっぱり多少は緩んでくるはずですから、その差が結構効いているのかもです。

インパネは4年前にレストア済みだが、1965年当時の広報車(「KAR120C」)を参考に、右端にウインドウオッシャーのポンプスイッチ(LUCAS 155496)を装着、また中央のウインカーユニットをLUCAS 31250に変更した。50φメーターはすべて当時のAC製で、とくに右端の水温計が生きたままついているセブンS2は非常に珍しい。80φメーターは両方とも当時のSMITHのクロノメトリックに交換。タコはスパイ針つきでレッドが赤表示のもの。ステアリングは非常に脆弱なことで有名なSpringallで、当時ものを名人級のプロがレストアしている。センターキャップは写真ではリプロをつけてある。シフトノブはウッドに交換予定。この種のクルマには消火器は必需品で、車載しているのはH3R HaiGuard HG100Cハロトロン消火器

荒井 アルミパネル自体は経年で弱くならないんでしょうか。

福野 経年で金属のヤング率が変化するということはありませんが、電食してたりする箇所があれば当然強度も剛性も低下します。

荒井 なんかあのおおきなクラムシェルフェンダーをアルミにしたら、風圧でパタパタしちゃって取り付け部とかにクラックとかが入っちゃわないかってなんとなく不安なんですが。

福野 ロータス時代はフェンダーの途中にステーが入ってそこでも支持してるので大丈夫だろうと踏んでいます(ケーターハムは途中からステーを廃止し、フェンダーの肉厚をあげて自重を支える設計に変更した)。ただアルミというのは確かに疲労強度に関して信用ならない金属ですね。綿引名人が外板造形に使っているのはJIS規格A1050Pの圧延材1.5mm厚だと聞いています。シリコン0.25%以下のいわゆる純アルミに近い板材で、一般に出回っているのは圧延時に生じた加工硬化をH24(焼鈍)したものです。引張強さ95~125N/m㎡だから2000系や7000系合金に比べたらヤング率は高くないんですがが、伸びが少ないため加工性がいいのが特徴です。純アルミの最大の魅力は耐食性が高いことですね。アルミ合金系板材の中では純アルミはもっとも耐食性が高い。

荒井 ジュラルミンとかの方が耐食性は高い気がしちゃいますね。

福野 ジュラは逆に最悪です。

荒井 フロントフェンダーは現状FRPにポリパテが1cm以上は盛ってあるという惨状なので、アルミ化したら軽くなりますよね。

福野 かなり軽くなると思います。そこは期待できますね。ゲンロクの連載(「昭和元禄Universe)で取材に行ったときから、綿引さんのような名人に、いつか何か作ってもらうことができたらいいのになあって、心のどこかで思ってたんです。それでポールさんが穴だらけのスタンチョンを英国から送ってきたときに迷うことなく綿引さんに頼んだんですが、そしたらあの仕上がりでしょ。「やっぱ半端ねえな」と。

ボローニャ近郊フノにあるMuseo Ferruccio Lamborghiniが保管している綿引雄司さん作のランボルギーニ「J」のオブジェ。1年を費やしてたった一人で手作り製作した。ランボルギーニ社側から特に資料や図面が提供されたわけではなく、実車のミウラを取材して簡易な型紙を作成・収集した以外は、ネット情報と写真を元にすべて推定で作ったというからなおさらすごい。(Photo:綿引雄司)
ドアやカウルは開閉式で、インテリアもアルミ板金で再現している。YouTube「CBR WATAHIKI」チャンネルでその試行錯誤の制作工程が詳細に公開されているので、ぜひご覧いただきたい。驚異的な技術と根気だ(Photo:綿引雄司)
著者
福野礼一郎
自動車評論家

東京都生まれ。自動車評論家。自動車の特質を慣例や風評に頼らず、材質や構造から冷静に分析し論評。自動車に限らない機械に対する旺盛な知識欲が緻密な取材を呼び、積み重ねてきた経験と相乗し、独自の世界を築くに至っている。著書は『クルマはかくして作られる』シリーズ(二玄社、カーグラフィック)、『スポーツカー論』『人とものの讃歌』(三栄)など多数。

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