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福野礼一郎のTOKYO中古車研究所™ 第168回 | 1965年型セブンS2⑦ 綿引スペシャルの顔:微妙な表情が作る微妙な感情

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福野礼一郎のTOKYO中古車研究所™ 第168回 | 1965年型セブンS2⑦ 綿引スペシャルの顔:微妙な表情が作る微妙な感情

「TOKYO中古車研究所」などと大袈裟なタイトルですが、私=福野礼一郎が1993年から2012年まで自動車雑誌3誌で152回連載し、多くの方に読んでいただいた連載記事のタイトルの復刻です。TOPPER編集部の依頼で11年ぶりに連載再開しますが、内容的には単なる「私的ブログ」です。TOPPERのコンテンツの中では一人浮いてると思いますが、どうぞよろしくお願いいたします。
(このコンテンツは著者の希望でTOPPERの「総合人気ランキング」には反映されません)

(本文文字量11700字) *通常は雑誌1ページで2000〜2500字


2023年4月~9月に行った本稿のセブンS2=HYW334Cのノーズコーン/クラムシェルフェンダー/リヤフェンダーのアルミ化板金加工の作業の様子を記録した動画が、YouTube「CBR WATAHIKI」チャンネルで10本アップされています。ぜひご覧になってみてください。チェンネル登録と高評価もおねがいします! 木型も作らず、当て金とハンマー1本とイングリッシュローラーだけ使ってフェンダーやカウルを作り出していく綿引名人の魔術的技法は必見です。動画#10では、もともとついていたレストア済みFRPパネルと綿引さん製作のアルミパネルの重量比較もやっておられます。

(Photo:YouTube「CBR WATAHIKI」チャンネル)

365BB

荒井 オートモビルカウンシルに出品された365BB、写真拝見しましたがすごいですね。現地に行って直接見たかったです。

福野 いやいやほんとうに素晴らしい。よもや自分が生きているうちにあれが完成する日が来るとは思ってませんでした。最初聞いたときはデマかと思いました。当時エンジンはレストアしたあと部品がなくなっちゃうのが嫌だったのと写真集の撮影のために、とりあえず仮組みまではしてあったんですが、車体関係は本当にボルト1本までばらばらで、レストア済みの部品は棚の上に、レストア前の部品は段ボール30箱くらいに入ったままという状態だったので、あの状態から最後まで組み立てるのは地獄のように大変だったと思います。本当にお疲れ様でございました。私はお礼を言う立場ですらありませんが、心の中では感謝の気持ちでいっぱいです。

荒井 荒井もばらばらの部品の状態の73年マスタング・マッハ1を買ってきて、丸3年かけて完成車に組み立てたという経験がありますから(雑誌A-Cars連載「晴れた日にはアメリカで行こう」2017年11月号~2021年1月号に連載)ご苦労の片鱗くらいならわかります。マッハ1の場合とくに難関だったのはワイヤハーネスの再組込みでした。配線図だけを頼りに元通りに結線していくのは本当に根気の作業で、TACの斉藤さんが頑張ってくれなかったら到底できませんでした。こう言っちゃなんですが、ばらすのは簡単なんですよ。ただはずしていけばいいだけだから。でも「自分で分解したのではないクルマ」を組み立てるというのは本当に大変です。

福野 実際にやった荒井さんが言うと説得力がありますね。いま思うと私には結局あのクルマを最後まで組み立てるのは無理だったと思います。車体関係のレストアに手間取って、ばらしてから4年が経過しちゃってたんで、どのパーツがどこにあるのかもだんだんわからなくなってきてましたし、あのときはもう自分ができるレストアに関するパーツの管理だけでもおかしくなりそうでした。引き取っていただけたときは本音言ってもう「開放感」しかなかった。だから仮に環境や状況がゆるして、あのままずっと持っていることができたとしても、きっと今でもできあがらずにばらばらの状態のままだったと思います。あれは「楽になるために責任放棄した」に限りなく近かった。

荒井 当時の読者のみなさんもきっとこれで「めでたしめでたし」の気分でしょう。映画のラストシーンをやっと見れたみたいな。スーパーカー世代の方にとってあのころのスーパーカーはカウンタックもBBも、誰のものでもなくみんなの思い出ですからね。

福野 おっしゃる通りです。とにかく晴れて完成してよかったです。おめでとうございます。

荒井 というわけでセブンは敵前逃亡しないで最後まで頑張ってくださいね。

著者
福野礼一郎
自動車評論家

東京都生まれ。自動車評論家。自動車の特質を慣例や風評に頼らず、材質や構造から冷静に分析し論評。自動車に限らない機械に対する旺盛な知識欲が緻密な取材を呼び、積み重ねてきた経験と相乗し、独自の世界を築くに至っている。著書は『クルマはかくして作られる』シリーズ(二玄社、カーグラフィック)、『スポーツカー論』『人とものの讃歌』(三栄)など多数。

福野礼一郎のTOKYO中古車研究所™

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