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1965年型セブンS2④ 名人によるボディ全合金化プロジェクト(前編)

福野礼一郎のTOKYO中古車研究所™ 第164回

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1965年型セブンS2④ 名人によるボディ全合金化プロジェクト(前編)

「TOKYO中古車研究所」などと大袈裟なタイトルですが、私=福野礼一郎が1993年から2012年まで自動車雑誌3誌で152回連載し、多くの方に読んでいただいた連載記事のタイトルの復刻です。TOPPER編集部の依頼で11年ぶりに連載再開しますが、内容的には単なる「私的ブログ」です。TOPPERのコンテンツの中では一人浮いてると思いますが、どうぞよろしくお願いいたします。
(このコンテンツは著者の希望でTOPPERの「総合人気ランキング」には反映されません)

(本文文字量11900字) *通常は雑誌1ページで2000〜2500字

ロータス・スーパーセブンS2 HYW334C購入に至るタイムライン(再録)

① 2021年11月5日  イギリスPJS Sports carsにレストアの可否打診
② 2021年11月6日  PJSポールさんより返答「セブンはフェイクが多いので注意」「候補さがしてみる」
③ 2021年11月7日  PJS「現状では売りに出ているクルマがない」
④ 2021年12月2日  PJS「候補がみつかった(バーンファインド車の写真添付)」「他にも数台可能性あり」
⑤ 2022年1月11日  PJS「HYW334Cのオーナーが売ってもいいと言ってきたんだがどうする」
⑥ 2022年1月13日  HYW334Cオーナーから過去写真、車台番号、ヒストリー、V5C(車検証)のコピーが送られてくる
⑦ 2022年1月14日  先方の提示価格で購入する旨を打診
⑧ 2022年1月26日  代金を先方指定の銀行へ送金
⑨ 2022年2月10日  銀行間送金業務の手違いと業務怠慢で着金せず、全額が行方不明に
⑩ 2022年3月20日  みずほ銀行に送金の差し戻しを請求
⑪ 2022年3月28日  手数料を引いた全額がようやくみずほ銀行から返金
⑫ 2022年4月5日  ダイナーズカードにて即日送金完了
⑬ 2022年4月23日  車両がロンドン在住のオーナーからPJSに回送・到着 
⑭ 2022年5月4日  整備一式発注 特に機械式回転計と速度計の装着
⑮ 2022年5月6日  ボンネットとシート一式の製作を追加発注/無水クーラントへの交換発注
⑯ 2022年5月7日  輸送費見積もり 20ft.コンテナ占有保険込み運賃2380GBP(+陸送費465GBP)
⑰ 2022年7月5日  PJS「作業が(コロナ禍のせいで)すべて遅れている」
⑱ 2022年7月20日  PJS「機械式タコの装着に手こずっている」
⑲ 2022年10月25日  ボンネットが到着
⑳ 2022年10月29日  追加整備費一式をカードで送金
㉑ 2022年11月30日  機械式タコメーターの装着完了
㉒ 2022年12月8日  トランポでサフォーク州Felixstowe港に輸送 輸送業者RJJ Freightに引き渡し
㉓ 2022年12月12日  ロータス社に「Certificate of vehicle provenance(車両生産証明書)」の発行を申請
㉔ 2022年12月31日  20ft.コンテナにバンニング ベッセルEVER GOLDEN 1219-020Eにローディング
㉕ 2023年1月2日  EVER GOLDEN 1219-020E Felixstowe港出航 1月17日スエズ運河通過
㉖ 2023年2月5日  ロータス社から「Certificate of vehicle provenance(車両生産証明書)」到着
㉗ 2023年2月8日  EVER GOLDEN 1219-020E 台湾・高尾港到着 
㉘ 2023年2月12日  ベッセルEVER BUILD 1018-045Bに積み替え、高尾港出航
㉙ 2023年2月18日  EVER BUILD 1018-045B 東京港青海コンテナ埠頭第4バースに接岸、荷役
㉚ 2023年2月20日  本牧の(株)CARS JAPANを通関業者に指定、横浜港山下埠頭にコンテナ回送 7号上屋でデバン
㉛ 2023年2月24日  通関検査/諸費用および取得税支払いをへて福野個人名で通関
㉜ 2023年2月28日  横浜港山下埠頭 保税倉庫7号上屋にて車両受領 トランポで品川の(有)スティックシフトへ。
㉝ 2023年3月17日  多摩川TACに回送 ナンバーステー製作/シートベルト装着など改善作業
㉞ 2023年4月4日  関東運輸局神奈川運輸支局(横浜陸事)にて予備検査合格
㉟ 2023年4月9日  エンジンを初始動し仮ナンバーでステイックシフトへ回送
㊱ 2023年4月28日  水戸・巴自動車商会=CBR WATAHIKIへ入庫

ブリティッシュ・レーシング・グリーン

2022年9月22日(木)午前9時。

前日青森市のジープ・ディーラーで福野が購入した2年落ち新古車のジュリア・スプリントを引き取った二人は、朝食をすませてから福野の運転で東北自動車道に乗り、一路自走で東京へ向かっている。その道中での会話。

福野礼一郎 排気温度警告灯、いつの間にか消えてるよ。いま気がついた。

良心的中古車屋スティックシフト荒井克尚社長 (メーターを横から覗き込んで)そうだと思いました。イタ車あるあるです。このまま様子見ながらゆっくり行きましょう。

福野 加速感なかなかいいなあ。2ℓ4気筒の高性能版の「ヴェローチェ」の280PS/400Nmに対してこのクルマ(「スプリント」)は200PS/330Nmしかないんだけど、320i(以前乗っていた2013年型のF30=184PS/270Nm)よりぜんぜんパワフルに感じる。

荒井 遠くから結構いい感じの上品な排気音が響いてますね。

福野 やっぱZF8HP、最高だな~。神変速制御してくれるから、アクセル回度が低い領域からの踏み込み加速で、キックダウンからの加速レスポンスが死ぬほど気持ちいいよ。これならもうぜんぜん十分。100万も高いヴェローチェなんかにしなくてよかった。

荒井 やっと福野さん、自分でも8HPに乗れましたね。

福野 まったくなあ。F30に試乗して「8HPすげえ」って感心してから丸々10年経ってやっと自分のを買った。いまだこれを超える変速機は世界にない。ベンツやGM/フォードの10速AT、アイシン横置き8速AT、各社製DCT、束になってかかってもこの変速制御の速さとショックレスとプログラミングにはおよばない。これ乗ったらDCTなんかもう、どうでもいいもんな。マニュアルなんか存在自体を忘れ去る。まさに変速機の王様神様です。

荒井 変速のキレと排気音のトーンの組み合わせがたまらないですね。

しばしジュリアの加速感と変速感を堪能。

荒井 その後ポールからはまったく音沙汰がないですねえ。どうしたんだろ。

福野 イギリスはもう全島機能停止してますな。だめだねもうありゃ。沈没してるよ。

荒井 福野さんは最初から「ノーズのグリルの中にナンバーの文字を並べるのは嫌いだ」「黄色いノーズコーンはいやだ」っていってましたが、HYW334Cはまさにいまその仕様になってますよね。日本にきたらどうする予定ですか。

福野 グリルにくくりつけてあった数字とアルファベットはポールに頼んでもう外してもらいました。代わりにノーズにデカール貼ってもらった。

荒井 デカール?

福野 シールですね。英国のナンバーはフロントはシールでいいので。

荒井 印刷したものでしょうか。

福野 いや切り貼りもんです。専門の業者にV5C(英国の車検証)のコピーを送ると、黒いフィルムベースにレーザーカットした白文字を並べて貼って作ってくれる。標準料金だと中華シールだけど、追加料金払うと3Mのラッピングフィルムを使ってくれます。

荒井 それはいいですね。3Mのラップフィルムなら糊残りもないし。ということはノーズは黄色のままでいくんですか。

福野 いやいやナンバーのステッカーを貼ったのはとりあえず臨時ですよ。黄色のノーズコーンはいやですね。日本に来たら速攻塗り替えます。

荒井 .......まあどのみち4年前のレストアのときに、前のオーナーの趣味で勝手にペイントしたカラーリングなわけですから、それにこだわっても意味ないですね。London Concours 2021に出品したクルマで、そのときの写真が英語版Wikipediaに載ってるから、塗り替えちゃうのが若干もったいない感じもしてましたけど。日本に着いたらじゃ前後フェンダーに合わせてノーズもグリーンに塗るってことでしょうかね。TACに待機させとかないと(笑)。

福野 あのグリーンもちょっとかなりへんだよねえ。あんな明るいグリーンは当時のゲルコートにはなかったはずです。

写真では暗く写っているが、実車はもっと明るいアップルグリーンである

荒井 セブンというと車体全部がBRG(ブリティッシュ・レーシング・グリーン)というイメージが強いですけど、HYW334CのグリーンはBRGとはぜんぜん違いますよね。

福野 ぜんぜん違います。いまのクルマがレストアで塗装してるBRGは、50~60年代のジャガーDタイプなんかのBRGに比べたらどれも明るすぎます。ブリティッシュ・レーシング・グリーンっていうのはもっと沈んだ暗い色ですよ。ロータス・グリーンにしても60年代のF1やF2のフォーミュラカーのチームロータスカラーは、タミヤの1/12の作例やそれをコピーしたメーカーの1967年ロータス49などが塗ってるアップルグリーンよりずっと暗い色です。当時の写真と見比べれば分かります。

タミヤ1/12ロータス49 メーカー作例 これが一般のロータスグリーンのイメージ(Photo:株式会社タミヤ)
1967年ジム・クラーク駆るロータス49
ロータス49のロータスグリーンは一般にイメージされている色よりずっと暗い
著者
福野礼一郎
自動車評論家

東京都生まれ。自動車評論家。自動車の特質を慣例や風評に頼らず、材質や構造から冷静に分析し論評。自動車に限らない機械に対する旺盛な知識欲が緻密な取材を呼び、積み重ねてきた経験と相乗し、独自の世界を築くに至っている。著書は『クルマはかくして作られる』シリーズ(二玄社、カーグラフィック)、『スポーツカー論』『人とものの讃歌』(三栄)など多数。

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