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再エネ発電が大量に普及した場合のCO2排出量は?[MFi年頭所感2024:後編]
電気自動車のCO2排出量とマージナル電源論


横軸が時刻、縦軸が発電量を示す。下からベースロード電源、火力発電、太陽光を示している。火力発電を最低出力に絞って太陽光発電を陽水動力で吸収しても余剰電力が出るので、日中(矢印の時間帯)は太陽光発電を抑制して需給調整している。蓄電(揚水)した余剰電力は火力発電を抑制しているので、その電力をBEVの充電に使うと水位が低下して他の時間帯の揚水発電が減少する。減少分は火力が補うのでカーボンニュートラルにはならない。
長山浩章:揚水発電所の現状と今後のあり方、京都大学大学院再生可能エネルギー口座No.384、2023

左の計算モデルを使って、年間を通して電力需要が1%増加した場合のCO2排出量の増加を算出している。それを発電量の増加で割るとマージナル電源の年間平均排出係数が求まる。右図は、横軸2020年~2050年、縦軸に全電源平均とマージナル電源の排出係数と、それらの乖離の計算結果を示す。マージナル電源の2020→2035年の低下は石炭火力の廃止によるものだ。
Felix Böing et al. : Hourly CO2 Emission Factors and Marginal Costs of Energy Carriers in Future Multi-Energy Systems, Energies 2019, 12, 2260; doi:10.3390/en12122260

横軸が時刻、縦軸が発電量を示す。上は成り行き充電の場合、下は需要が少ない早朝に充電を誘導した場合だ。マージナル電源のほとんどはガス発電(CC、CT)になることが示されている。また、水力発電と蓄電した電力を利用すると、それ以外の時間帯の発電が減少しそれを火力発電が補うので、水力と蓄電はマージナル電源にならないことも分かる。表はそれぞれの電源の寄与率を数値化したものだ。
M. Kintner-Meyer et al . : Electric Vehicles at Scale – Phase I Analysis: High EV Adoption Impacts on the Western U.S. Power Grid, PNNL Report July 2020

左から帰宅後即充電、充電時間の最適化を実施、V2Gで充放電を最適化した場合。充電時間制御がない場合、マージナル電源の構成はほとんど火力発電になる。充電時間制御を導入することで黄色の再エネが増加する。V2Gではさらに再エネが増える。比較のため、エンジン車とHEVのCO2排出量を二点鎖線で追記した。参考に全電源平均の計算値も追加した。
本田敦夫ほか:カーボンニュートラル実現に向けた需要の最適化の分析、第38回エネルギーシステム・経済・環境コンファレンス5-1、(2022)

再エネ発電所の電力でクルマを動かすまでの流れを示す。上から、再エネ電力を直接使うBEVの経路、再エネ電力を水素に変えて使う燃料電池車(FCV)と水素エンジン車の経路、水素を炭化水素に変えて使うHEVとエンジン車の経路を示す。BEVは総合効率が高いが、電力需要の場所と時間はユーザーの都合で決まる。FCVとエンジン車に使う水素製造は、総合効率が低いが電力を使う場所と時間を自由に設定できる。
Richard Backhaus : Alternative Fuels CO2-neutral into the Future, MTZ2017/06

太陽光発電所からクルマまでの総合効率”Power to Wheel”を算出してe-Fuelの効率がBEVに比べて大幅に劣ることを示している。□の枠外に筆者が追記したように、チリに設置した風力発電機はドイツに設置した場合の4倍の電力を発電(効率4倍)するので、気象を含めた総合効率”Sun to Wheel”では大差はない。
Stephanie Searle ; e-fuels won’t save the internal combustion engine, ICCT , JUNE 23, 2020

現場は南米チリのマガジャネス州、2022年から生産を開始、2026年には5.5億L/年のe-Fuel(ガソリン)を生産する計画で、価格は$2/L程度と予測されている。生産量は、110万台のHEVがカーボンニュートラル走行できる量に相当する。チリ以外に、北アフリカ、中東、オーストラリアほか適地は世界中にある。
Jonathan M. Gitlin : Porsche and Siemens Energy break ground on low-carbon e-fuel plant in Chile_ 9/11/2021

