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イスラエルの自動運転分野を支えるのは600社を超えるスタートアップ、政府と連携し自動運転の実用化を目指す

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イスラエルの自動運転分野を支えるのは600社を超えるスタートアップ、政府と連携し自動運転の実用化を目指す

スタートアップやテクノロジー企業が続々と参入する自動運転分野。最先端技術を有するアメリカや中国系企業の台頭が目覚ましいが、イスラエルの動向も見逃せない。

同国には自動車メーカーが存在しない。

国内には自動車の生産工場がないため、イスラエルで販売される自動車は全て輸入車という状況だ。

そんな中でも自動車技術の開発が盛んに行われており、自動車業界大手企業やGoogle、UberなどがイスラエルにR&Dセンターを開設している。

政府としても自動運転の開発・実用化に前向きで、自動車技術への投資金額が急増している点が特徴だ。2021年12月には同国運輸省・道路安全省が自動運転タクシー法案を議会に提出。2022年内にイスラエル内で計400台の運用を認める方針だ。

そのような背景も手伝い、首都エルサレムやテルアビブに自動車メーカーや、そこに素材や製品を供給するティアワンサプライヤーが進出。

そもそもイスラエルは軍事産業が盛んで、AIやセンサー、サイバーセキュリティ技術などの領域が特に進んでいる。これらの技術は自動運転開発に大いに貢献するものが多く、次世代自動車の中核技術を担う企業が続々と誕生している。

特にAI車載カメラ開発企業の「Mobileye(モービルアイ)」が自動車業界のスーパーサプライヤーとしての地位を築いたのは言うまでもないだろう。

また、LiDARセンサー開発企業「Innoviz Technologies(イノヴィズ・テクノロジーズ)」や、車載通信用半導体メーカー「Valens(バレンス)」といった企業が一大エコシステムを構築している。

イスラエルは自動運転分野の中でもシステム開発に注力し、テクノロジー部門で世界を牽引。その背景にはスタートアップの躍進が鍵を握っているようだ。

各社の取り組み事例や、政府が推し進める自動運転施策などについて眺めていこう。

目次

イスラエルの自動運転分野を支える600社を超えるスタートアップ企業、政府は制度や資金調達で側面支援し実用化に向け後押し

イスラエルの自動運転分野を支えるのはスタートアップ企業だ。

繰り返しとなるが、そもそもイスラエルには自動車メーカーは存在しない。現在、イスラエルにおける自動車製造業は、主に軍事的な目的とされているのが現状だ。

同国は半世紀以上にわたり、世界で最も技術系スタートアップが誕生してきた。その数は約6,000を超え、技術革新に関してはシリコンバレーに次ぐ規模を誇る。

スマート交通の分野に目を向けると、スタートアップの数は2020年時点で600社を超える。その中でも最も伸長しているのが自律走行車のスタートアップの設立数であり、年平均26%の増加となっている。

その背景には、スタートアップを支え意欲を引き出すイスラエルの政策が関係しているようだ。

創業初期は補助金で支援し、事業性が見込めれば民間投資家の関与を増やして成長を促す。有望企業を発掘して投資するベンチャーキャピタルが多数あり、起業立国の素地をつくっている。

このように政府としても力を入れており自動運転タクシーを認める法整備に乗り出すなど、実用化に向けた後押しも進む。政府が制度や資金調達で側面支援し、テック企業が経済を牽引する好循環が構築できているようだ。

2022年3月に完全自動運転による旅客移動サービスの試験展開を可能にする法案が可決された。

この法案により、自動運転車を開発する企業や事業者は、運輸省から特別なライセンスを取得することで、運転手に代わる自動運転システムを搭載した車両で旅客を有料で輸送するための試験走行が可能となった。

モービルアイ、Innoviz Technologies、BWV、Cybellum、Arilou、Cognataなど、自動運転関連企業が多数参画している。国内の関連産業でスタートアップ企業640社が活動し、経済成長の成長を加速させる狙いだ。

一方、自動運転実現に向け解決しなければならない課題も残る。

それは交通渋滞とバスの運転手不足だ。そこで導入を検討されているのが自律走行バスだ。政府が6,100万NISの資金の半分を提供し、2022年にプロジェクトを開始。イスラエル・イノベーション庁や複数のバス会社が参加しており、実証実験を行った上で商業運転が開始される見込みだ。

当プロジェクトを実現することで、公共交通機関を効率化し交通渋滞の緩和につなげたい考えだ。また自律走行バスが導入されれば、深刻なバス運転手不足に対応することも可能となるだろう。

まだ先の話となりそうだが、この取り組みをきっかけに国内の公共交通を改善し、最終的にはイスラエルを自律走行公共交通パイロットにおけるグローバルリーダーに押し上げたい考えだ。

それを支えるのが自動運転に関わる豊富なスタートアップ企業だ。

代表的なのがLiDAR技術で世界をリードするモービルアイ。2017年にアメリカの半導体メーカー最大手「インテル」が、約150億ドル(約1兆7,205億円)で買収したことは記憶に新しい。

その影響は大きくフォード、ルノー、日産、ジェネラルモータースといった複数の大手自動車メーカーがイスラエルをリサーチセンターに選び、次世代車の開発を加速してきた。

またBMWやHyundaiなどの自動車メーカーだけではなく、BOSCHやLearなどの自動車部品メーカーも研究開発センターをイスラエルに開設。さらにFacebook、Microsoft、Google、Samsungなどのグローバル・テクノロジー企業も、自動車分野の中でも自律走行やコネクテッドカー技術に直接または間接的に取り組んでいるイスラエル企業に投資している。

自動車ソリューションに携わるイスラエル企業

ADASの分野でメガサプライヤーとして成長を遂げた「Mobileye(モービルアイ)」

自動運転技術とADASの分野で世界をリードする「モービルアイ」。創業されたのは1999年のことで創業者はアムノン・シャシュア氏。

2017年にはアメリカ「インテル」傘下に収まったことで開発力は一層強化され、2022年にナスダック市場で上場を果たしている。その勢力はイスラエルにとどまらずドバイ、ドイツ、日本など世界各地のモビリティプロバイダーらと協働を果たしてきた。

自動運転やADASを実現するための半導体チップ「EyeQシリーズ」や、カメラによる自動運転システムとLiDARによる自動運転システムで冗長性を高めた「MobileyeDrive」を武器に世界の覇権を狙う。

多くの自動車メーカーのADAS技術を水面下で支えており、日産のプロパイロットをはじめとした25を超えるOEMと手を結び、6,000万台以上の車両にモービルアイのソリューションが搭載されている。

2024年にはADASの開発で長年協力してきた、ドイツの自動車メーカー「Volkswagen(VW)」との協業を強化すると発表。

自動運転機能の開発を加速することが目的で、両社は協力して量産車に「レベル2+」と「レベル3」の自動運転機能の導入を目指す。

具体的には、モービルアイが提供するプラットフォーム「Mobileye SuperVision」「Mobileye Chauffeur」の搭載を予定しており、Audi、Bentley、Lamborghini、Porscheの各ブランド車への導入を計画している。

また量産車だけではなく、商用車向けにも「レベル4」の自動運転用ソフトウエアおよびハードウエアを供給するようだ。

LiDARセンサーを軸に世界をリードする「Innoviz Technologies(イノヴィズ・テクノロジーズ)」

イノヴィズ・テクノロジーズは、特に自動運転車向けのLiDARセンサーを強みとしている企業だ。

2016年に設立され、自動運転レベル3~5の一般乗用車の大量生産向けに優れた3D知覚を提供する「InnovizOne」や、自動運転レベル3~4に対応した測距性能と、効率のよい独自スキャン構造を実現した「InnovizTwo」といったLiDARを発表。どちらも多くの自動運転の実証実験にも参画し、BMWなどの大手自動車メーカーに導入されている実績を持つ。

また2022年には「Innoviz360」を発表。360度の視界を確保し、既存ソリューションと比較して10倍のパフォーマンスを実現した。

これまでカナダの「マグナ」やアメリカ「アプティブ」などの自動車部品メーカー大手や日本のソフトバンクグループ、韓国の「サムスン」などから出資を受け、2021年4月にナスダック上場を果たしている。

シリーズCラウンドの2019年には、InnovizOneの商用化を加速させ、世界に商圏を拡大させるために1億3,200万ドルを調達。また、同年にはさらに1億7,000万ドルの資金調達を実施。これはセンサーの認識能力や計測ソフトの性能をされに向上させるためのものだ。

2021年にナスダック上場を果たした際は、量産体制の構築や新たな製品開発に向け約3億7,100万ドルを調達した。

LiDAR開発において、世界をリードする企業へと成長してきたイノヴィズ・テクノロジーズは、今後も技術革新を続け自動運転社会の実現を目指す。

10,000万個以上の出荷実績を有する車載通信用半導体メーカー「Valens(バレンス)」

バレンスは2006年に設立し、2021年にニューヨーク証券取引所にて上場を果たしている。

同社はHDbaseT通信技術を開発し、業務用AV機器を中心に2010年より10,000万個以上の出荷実績を持つ。

優れたPHYテクノロジーで、自動車向けのイノベータとして最先端の高速車載接続ソリューションを提供している点が特徴だ。

非圧縮映像信号、音声、データ、制御信号を一本のケーブルで遅延なく伝送することに成功し、ケーブルが一本のみなので、シンプルで低コストの有線接続ソリューションを実現した。

2019年5月、MiPi A-PHY High Profileとして同社の技術が選定され、ADAS、TCU、Infotainment向けなどの次世代車載高速通信技術として、今後も更に用途拡大が見込まれている。

250件を超える特許を持ちLiquid AIを提供する「Autobrains(オートブレインズ)」

2019年に設立された自動運転向けのAIを開発する「オートブレインズ」。

250件を超える特許を有しており、最先端の人工知能を活用するLiquid AIを提供している。モービルアイの対抗馬として呼び声が高い企業だ。

同社の自己学習型AIは、人間の脳のような学習・情報処理モデルを採用しており、リアルタイムに様々な意思決定ができるよう設計されている。高度な知覚機能が必要な複雑なシナリオにも対応でき、「自動運転レベル4」の技術水準にも耐えうる実力を持つ。

BMWやToyota Ventures、コンチネンタルなどの企業が出資しており、2022年3月末時点で1億2,000万ドルの資金調達を行ったと発表している。商圏を世界市場へ拡大し乗用車はもちろんだが、商用車への導入も検討している。

具体的な企業名は非公開となっているが、2024年第4四半期に中国の大手電気自動車メーカーが発表する新車種に搭載されるとのことだ。

設立から僅か2年でナスダック上場を果たしたLiDARセンサー開発企業「Foresight Autonomous(フォレサイト・オートノマス)」

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