サスペンションをめぐる、12の素朴な疑問
Ask for engineer
多くの部品が組み合わさり、システムとして作動しているサスペンション。
“変数”が多いため解答も見えづらい。
ここでは訊けそうで訊けなかった素朴な疑問を晴らすべく
某社のエンジニアに質問してみた。
TEXT:高橋一平(Ippey TAKAHASHI)PHOTO:GM/FORD/SUBARU
目次
- Q1:アームやリンクを支えるブッシュの容量はどのように決めているのでしょうか。容量が大きい方が振動の吸収など、性能が高そうに見えます。やはりできる限り容量を稼ぐ方向で設計されるのですか?
- Q2:フロントサスペンションのロワーアームのピボットには、前後ブッシュの配置に縦置き/横置きの2種類が見られます。ブッシュの軸とピボットの軸が一致する横置きは直感的に理解できるのですが、縦置きには少々無理があるように見えます。それぞれはどのように使い分けられているのでしょうか?
- Q3:サスペンションアームの長さはどのように決めるのでしょうか? できるだけ長くした方が良さそうに思えるのですが。
- Q4:アームのピボットスパンは広いほうが高い支持剛性が得られると思うのですが、この部分の寸法はどのように決めるのでしょうか。
- Q5:アフターマーケットホイールの解説などで、タイヤ&ホイールが重いと路面追従性の確保に不利、軽量化こそ最良の選択─というような記載を見ますが、そんなに単純なものなのでしょうか? むしろ重量がある方が、動きが落ち着いていそうで、振動にも有利なようにも思えるのですが……
- Q6:サスペンションまわりに用いられているブッシュを、ピローボールなどの固定軸に置き換えた場合、市販乗用車の使用条件ではどのような長短所が考えられますか。
- Q7:アフターマーケットパーツの市場では、ストラットタワーバーとかロワーバーなど、補強を目的とした部品が数多く販売されています。多くがボルトオンで比較的容易に装着できますが、効果はあるのでしょうか。もしくは効果を引き出すために必要なことはありますか?また、もともと装着されていないのはなぜですか。
- Q8:右ハンドルと左ハンドルで、サスペンションのセッティングは違いますか。
- Q9:ストラット式の場合、スプリングの受け方の違いで、トップマウントの形式が主にふたつあるようですが、シンプルな構造ゆえにスプリングの扱い方で作動性にも大きく影響すると思います。それぞれの特徴との働き方の違いを教えてください。
- Q10:スタビライザーは、実際に所期の性能を発揮できているのでしょうか。屈曲点が多く、取り付け部位はブッシュに守られていて、ばねとしての性能はなかなか発揮しにくいのではないかと思えます。
- Q11:サブフレームの取り付け剛性は、乗り心地にどのように影響しますか? ブッシュを介してマウントされるものと、ダイレクトにボルトで締結されるものがありますが、どちらが良いのでしょうか? また、近年ではリジッドカラーという、ブッシュマウントをリジッド化するアフターマーケットパーツが見られますが、効果はあるのでしょうか?
- Q12:ステアリングラックの取り付け剛性は、フィーリングのみならず乗り心地にも影響はありますか。サイズも決して小さくなく、左右にわたって伸びている部品だけに、構造部材としての期待もあるのでしょうか。また、タイロッドにはサスアームとしての機能はありますか。実際のタイロッドはキャリパーやハブを避けて複雑なカーブを描いていますが、やはり直線構造のものと比較すると剛性的に不利なのでしょうか?
- 098号|12の素朴な疑問
Q1:アームやリンクを支えるブッシュの容量はどのように決めているのでしょうか。容量が大きい方が振動の吸収など、性能が高そうに見えます。やはりできる限り容量を稼ぐ方向で設計されるのですか?
アームやリンクなどのサスペンションまわりに用いられるブッシュには振動や衝撃を吸収、減衰するだけでなく、その動きをコントロールするという役割がある。容量(ゴム部分が)大きければ振動などの吸収性は確保しやすい半面、軸の位置を保持するという意味ではデメリットを生みやすく、これに対し容量が小さい場合はその逆となるというのが一般的な傾向だ。
とはいえ、ゴム部分の強度やスグリの有無やその形状、方向などで大きく変化するので、一慨には言えるものではない。少なくとも容量が大きければ良いというものではないことは確か。また、ブッシュにはその性格上、ゴムを用いながらも自動車のライフと同等の耐久性、もしくはある程度の性能維持が求められるため、それを確保するための技術的なハードルが存在するということも忘れてはならない要素だ。
■Answer
基本的には必要なばね特性・減衰特性と強度耐久性を確保する仕様検討において結果的に容量は決まるものであり、容量ありきで仕様が決まっている訳ではない。たとえば、ばね定数の静動比などは、ボリュームが大きいと差がつけにくくボリュームが小さいと差をつけやすいなど。
また、必要な特性を得るためのゴム硬度(ゴム材料)の違いに連動してゴムの耐久強度要件から容量も変動する。ブッシュに加わる入力の大小、捩じり・こじり量の大小も関連する。世の中には容量ありきで特性を我慢(性能を妥協)している例もあるかもしれないが……。