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アクティブサスペンション、電動化に伴い開発が再び活発に、NIOやポルシェはClearMotionと提携[FOURIN通信]

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アクティブサスペンション、電動化に伴い開発が再び活発に、NIOやポルシェはClearMotionと提携[FOURIN通信]
(ILLUST:ClearMotion)

[FOURIN通信]
1980年創業、自動車産業調査のパイオニア・FOURIN社が刊行する自動車調査月報より、今後の自動車業界を読み解く特別寄稿。毎月末日更新。
全レポートはこちら:https://www.fourin.jp/

かつては多くの自動車メーカーがアクティブサスペンションの開発を競っていたが、コストが嵩むことなどを理由に、ここ数年の開発はメルセデス・ベンツやアウディなどの高級車メーカーにほぼ限られてきた。しかし、電動化が進む中国を中心に、このトレンドに変化の兆しが見えはじめている。比亜迪(BYD)は2023年4月、新しい車両制御システムとして雲輦(DiSus)を発表した。NEV(BEV+PHEV+FCEV)専用として普及価格帯にも展開を予定している。

車載電装回路の高電圧化(48V含む)が進むと、瞬間的な大電流を要するアクティブシャシ制御を導入しやすくなる。ポルシェが2023年11月に発表した第3世代のパナメーラはPHEV限定で、各輪の油圧サスペンションを電動ポンプで個別に制御するアクティブライドシステムを採用した。同社はBEV専用のアクティブライドシステムも開発し、順次導入予定である。2024年4月には米国のClearMotionとの開発提携を発表した。

ClearMotionは電動油圧ポンプ制御式アクティブサスペンションを開発し、CM1の呼称で製品化している。この新興企業にはポルシェより先に蔚来汽車(NIO)が出資している。NIOとClearMotionは2023年8月に江蘇省常熟でCM1の工場建設を開始した。CM1は2025年春に出荷開始予定のNIO ET9に搭載される。

CM1はアクチュエーターとその横のスマートバルブで構成される。スマートバルブ内にはモーターと油圧ポンプ、制御モジュールが組み込まれており、アクチュエーターへの油量と油圧を制御する。アクチュエーターの応答周波数は40Hz、従来のエアサスペンションと比較し60倍の高速調整が可能になる。NIO ET9では、ショックアブソーバーに最高出力5kWのモータージェネレーターも装着され、圧縮時の運動エネルギー回生も行う。これにより、4輪に搭載された計4基のCM1は、必要なエネルギーを自給できるとしている。

アクティブサスペンションの開発トレンド

これまでのアクティブサスペンション
量産車で初めてアクティブサスペンションを採用したのは、1989年発売のトヨタ・セリカである。各種センサーで走行状況を検知し、リニア圧力制御バルブによって、独立懸架用油圧シリンダー内の油圧と油量をアクティブに制御するサスペンションであった。

2013年発売のメルセデス・ベンツ・Sクラスは、ステレオカメラによって前方路面の凹凸を認識し、ダンパーをタイミングよく調整する予測型アクティブサスペンション(Magic Body Control)を採用した。ステレオカメラは前方5~15mの路面を精度1~2mmで捕捉する。路面に雪や雨がない良好な視界の日中に、車速180km/h(2016MY以前は130km/h)まで作動する。2014年にはコーナリング傾斜機能も追加された。乗員にかかる横方向の加速度を軽減する。

トヨタ・アクティブコントロールサスペンション(FIGURE:Toyota)

アクティブサスペンションが増える4つの理由
アクティブサスペンション搭載車は今後増える可能性がある。その理由として、次の4つを挙げることができる。

① 高電圧化:400V以上のBEV化や車載電装部品の48V化(Tesla)などで高電圧化が進むと、大電流の必要なシャシ制御を導入しやすくなる。一部のOEMはBEV専用アクティブサスペンションを開発し、導入を始めている。
② ADAS=先進運転支援システム:ADASが普及し、カメラなどのセンサー類の搭載率が上がると、得られた情報をシャシにも活かす開発が進む。ADASとサスペンションの協調制御で、乗員の快適性をさらに高められる。
③ SDV=Software Defined Vehicles:SDVはE/Eアーキテクチャのゾーン化/中央化を促す。これにあわせて、シャシやステアリングなどのバイワイヤ化が進む。
④ インホイールモーター:インホイールモーターは動力伝達損失が少なく、回生力も高い。各車輪の回転速度を瞬時に調整できるため、モーター駆動の利点を最大限に活かせる。実用化の課題はバネ下の重量増とNVHである。アクティブサスペンションを効果的に使えば解消できる可能性があり、世界的に研究開発がなされている。一例として、THKはインホイールモーター向けにMR流体減衰力可変ダンパーを2023年秋に提案した。

最近発表された電動車専用アクティブサスペンション

ポルシェ
2023年11月に第3世代パナメーラを発表した。高級セダンとして運動性と快適性の両立を求められるこの車には最新のアクティブライドシステムが採用された。このアクティブライドシステムは高電圧を要するためPHEVのみの設定。PHEV以外のモデルにはアダプティブエアサスペンションが採用された。

アクティブライドシステムは、各輪の油圧サスペンションを電動ポンプで個別に制御するシステムである。最大13Hz、すなわち1秒間に13回の制御動作を行える。先代パナメーラには48Vの電動アクティブロールスタビライザー(シェフラー製)が装着されていたが、電動油圧ポンプで各輪の個別調整が可能になったため廃止された。

ポルシェは2024年4月、ClearMotionとの開発提携を発表した。予測型シャシ制御ソフトウェアの分野でも協力し、アクティブサスペンションをさらに進化させる。

ポルシェアクティブライド(FIGURE:Porsche)

BYD
NEV専用の車両制御システム(DiSus System、中国語名:雲輦)を2023年4月に発表した。設計から運用までBYDがフルスタックで開発したものである。DiSusは毎秒数千の信号入力を受け付け、サスペンションの減衰力をマイクロ秒単位で高速処理することができる。

 凹凸路面走行時:システムは高周波で小減衰の快適制御に切り替わる。乗り心地はソフトになる。
 高速走行時:システムは低周波で大減衰のハンドリング制御に切り替わる。横揺れやピッチングを抑制する。

Disus-Xのデモンストレーション。3輪状態でも走行が可能とする。(Captured from BYD)

NIO
2023年12月、新型BEVのET9を発表した。この車には米国のClearMotionが開発した電動油圧ポンプ制御式のアクティブサスペンションCM1が搭載されている(量産車世界初)。

アクティブサスペンションCM1は、ステアバイワイヤ、リアホイールステアリングとセットで、NIO ET9のシャシシステムSkyRideを構成している。これらは48Vで作動する。アクティブサスペンションには、1秒で50mmの車高調整が可能な電動油圧ポンプと、マイクロ秒単位で情報を取得/処理するコントローラーが統合されている。

ClearMotionは2008年にマサチューセッツ工科大学(MIT)の学生が設立した新興企業である(当時の社名はLevante Power)。ClearMotionは2017年に音響メーカーBOSEのライドシステムビジネスを買収した。ClearMotionの最高技術責任者は過去にBOSEに在籍しており、そのときからシャシ制御の可能性を探っていたという。

NIOの投資子会社NIO Capitalは2022年にClearMotionに3,900万ドルを出資した。ClearMotionは2023年8月にNIO Capitalの支援を受けて、中国江蘇省常熟市で最初の工場の建設を開始した。2024年第1四半期に稼働、第4四半期に製品を出荷予定である。

NIO ET9は発表当日に予約受付を開始した。販売価格は80万元(約1,700万円)。2025年第1四半期に納車を開始する予定である。

ClearMotion CM1の構造と作動原理

構造
特許情報とClearMotionの公式発表をもとに、CM1の部品構成と動作原理を解説する。

ClearMotionは500件を超える特許を保有しているが、ここでは前身のLevant Powerによる2014年出願/2017年公開の特許に基づく。ClearMotionの公式発表とよく似た構成が示されているが、製品版とは各部品の配置や形状が異なる可能性がある。

CM1は、アクチュエーターとしてのサスペンション本体とその横に装着されたスマートバルブ(特許では直径約200mm/長さ約200mm)によって構成される。アクチュエーターとスマートバルブは互いのオイル流動を円滑にするために、できるだけ近くに配置され、緊密にシールされることが望ましい。スマートバルブの中心には1本の軸が通っている。この軸は油圧ポンプ(内接歯車ポンプ)とそれを作動させるためのモーターの回転軸である。

モーターにはブラシレスDCモーター(BLDCM)を使う。BLDCMはオイル環境での信頼性と耐久性が高い。

スマートバルブの底面には制御モジュール(ECU)が配置される。この制御モジュールは車体側の電装回路に電気的に接続され、モーターの作動を調整する。

油圧ポンプには伸張ポートと圧縮ポートがあり、アクチュエーターの対応チャンバー(伸張チャンバーと圧縮チャンバー)へのオイル流動を管理する。二方向バルブは、予め設定された流量(閾値)で作動するように構成され、オイル流量が閾値を超えた場合には、オイルを迂回させる。これにより、高速のサスペンションイベントが生じた場合にも、油圧ポンプやモーターの許容安全動作速度を超えないように設定できる。

ブローオフバルブは、ピストンにかかる最大圧力を制限する役割を果たす。

アキュムレーターは、内部に浮遊ピストンを有する窒素充填チャンバーであり、圧縮チャンバーと連動している。ピストンロッド進入時の容積増加分を受け容れる。アキュムレータハウジング外側とアクチュエーターハウジングの間には環状ギャップが存在する。アキュムレーター内外の圧力差を解消または低減し、窒素充填の圧力でアクチュエーターハウジングが膨張するのを防ぐ。

作動原理
ピストンが伸張方向に移動する場合、油圧ポンプは伸張ポート側に回転する。ピストンが圧縮方向に移動する場合、油圧ポンプは圧縮ポート側に回転する。

車両には加速度センサー/ポジションセンサーとセットで装着される。これらのセンサーからの情報を制御モジュールが1ms(ミリ秒)で高速処理し、BLDCMを作動させる。BLDCMは毎秒1,000回の頻度で油圧調整が可能である。

アクチュエーターの応答周波数は40Hzで、従来のエアサスペンションと比較し60倍の高速調整が可能になる。

NIO ET9では、ショックアブソーバーに最高出力5kWのモータージェネレーターを装着し、圧縮時に運動エネルギーの回生が可能。これにより、各輪に搭載された全4基のCM1は、作動に必要なエネルギーを自給できる。

FOURIN世界自動車技術調査月報(https://www.fourin.jp/monthly/tech_repo.html)

著者
東 尚史:FOURIN編集部

株式会社 FOURIN (フォーイン)は自動車産業専門の調査研究会社として世界各国の自動車産業に関する各種調査報告書を出版しております。

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