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ロボットになった変速機|トルクコンバーターのないステップAT

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ロボットになった変速機|トルクコンバーターのないステップAT
SKYACTIV 8 Speed AT with 48V Motor|8速ATと電気モーターをひとつのパッケージとし、ICE/モーターとモーター/変速機の断続クラッチを内蔵する。これだけでHEV駆動系が成立する。

「滑らかで効率良く、同時に"ICE+電気モーター"というふたつの動力源を気付かせずに走る」。このねらいのためにマツダがやったことは、トルコンをなくし機械式クラッチを徹底的に制御することだった。

TEXT:牧野茂雄(Shigeo MAKINO) FIGURE:MAZDA/Shigeo MAKINO

遊星歯車(プラネタリーギヤ)を使ったステップ(有段)ATは通常、発進機構としてトルクコンバーター(以下=TC)を使う。液体を満たした密閉空間にICE(内燃機関)と同軸で回るプロペラで渦を起こし、それと向き合った変速機側のプロペラに動力を伝えるシステムだ。流体を使ってICE(内燃機関)と変速機をつなぐ。また、ほとんどのTCは向かい合ったプロペラの間にステーターと呼ばれる水車状の羽を入れて渦を強くし、トルクを増幅させている。

マツダのスカイアクティブ・ドライブもTCを使っていた。向かい合うプロペラとステーターは発進するときだけ使い、発進後間もなくICE側と変速機側のプロペラを直結状態(ロックアップ)とし、TCの「滑り」による動力伝達ロスを回避している。TCを使ったステップATとしては高い伝達効率を持っている。

しかし、スカイアクティブ・ディーゼル(以下=SKY-D)3.3ℓ直6には、まったく新しいステップATが採用された。TCを使わず摩擦式クラッチを使う。ドライバーがクラッチペダルを操作し、アクセルペダルを踏みながらちょうどいいタイミングでICEと変速機を繋いでスムースに発進させる動作を機械にやらせる。おそらく日本で初めての試みだろう。

段数は8速。ギヤ比は低いほうから5.258/3.303/2.129/1.705/1.300/1.000/0.822/0.628、レシオカバレッジ(最ローギヤ比÷最ハイギヤ比)は8.37。実用上十分なワイドレシオだ。最終減速比はモデルによって変わる。そして、どのモデルと組み合わせる場合もTCを使わない。完全1仕様だ。

「初期検討でTCレスという案が出てきた。ダイレクトな発進を機械式クラッチで行ないMT同等の伝達効率にする。熟達ドライバーの発進操作は、ニュートラルから素早くクラッチをミートポイントへ持ってくる。アクセルをジワッと踏みながらクラッチをつなぐ。これができればいい」

ステップATの内部では、遊星歯車の組み合わせでギヤ比が変わる。回転しているギヤを止め、同時に止まっているギヤを動かす。この動作切り替えは油圧作動の湿式多板クラッチで行なう。そのための油圧機構を備えている。この油圧を利用すれば発進クラッチを動すことはできる。しかし、熟達ドライバーのような絶妙な操作はできるのか。

モーターとICEのミックス|MHEVでのICEとモーターのふるまいが上段・右のグラフ。発進と定常走行はICEで行ない減速時には回生。アクセルペダルを戻して全閉にしても、走行抵抗と釣り合うくらいはモーターが力を出している。それよりもペダルを戻せば回生に入る。そこでアクセル操作が入り燃料効率が悪いところに入りそうになったらモーターで走る。グラフはWLTCモード試験でICEを切るケース。赤い線はすべてICE切り離しだ。これだけで燃費改善効果は約6%を確保する。

「AT内のクラッチは通常『解放』と『締結』だけだが、その中間に『待機』という状態を作った。クラッチ締結に時間がかからないよう、ほぼゼロタッチ、しかし微小に当たっている……という弱クリープの状態で待機する。油圧の制御は油圧センサーからの信号を使い、ドライバーのアクセルペダル操作に応じてクラッチ締結力を精度よく、応答性よくコントロールする。アクセルをそろっと踏んでも一気に踏んでもうまく同期させる。こういう制御を作り込んだ」

つまり発進&変速を適宜行なうロボット。ドライバーがどのような操作をしてもうまく追従するロボット。そんな印象だが、この8ATはマツダのラージ・プラットフォーム商品すべてに対応するような性格のはずだ。ということは、ギヤ比の選定がむつかしい。現在はAT設計用のシミュレーションソフトで何億通りもの組み合わせを試し、ギヤ選定は楽になったといわれるが、決定を下すのはスタッフだ。

いま改めてハイブリッドを復習する

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