中国BYDが日本のEV市場に参入。日本で受け入れられるか?
遂に中国のBYDが日本へ上陸
中国のEVメーカーBYDがATTO3を日本市場に投入する。急成長を続ける同社は日本で受け入れられるのだろうか。
2022年7月、中国の電気自動車(EV)メーカーBYDは、EV「ATTO3(アットスリー)」を2023年1月31日に日本で発売すると発表した。
さらに、コンパクトタイプの「Dolphine」を2023年中頃、セダンタイプの「Seal」を2023年下半期に発売する。12月には、ATTO3の価格を440万円(税込)と発表した。
BYDは、2025年に日本で年間2万台規模の販売を目指している。新設した販売会社のBYD Auto Japan(横浜市)が顧客対応や充電、アフターサービスの拠点となるディーラー網を整える。
「実際に試乗車してもらうことが安心につながる」(新会社の東福寺厚樹社長)として、2025年までに47都道府県に最低1ヵ所、全国に100店以上の販売店を設ける計画だ。
高いコストパフォーマンス
BYD社の性能とデザインは侮れない。
最初に日本市場に投入される「ATTO3」は、ミドルサイズのSUV。EV専用プラットフォーム「e-Platform3.0」にBYD独自開発のブレードバッテリーを搭載している。
モーターの最高出力は150kW、最大トルクは310Nmで、日本向けモデルのバッテリー容量は58.56kWh。航続距離はWLTC基準で485kmと発表されている。
この航続距離は日産アリアの標準モデルと同等だが、アリアの価格が539万円なのに対して約100万円安い。BYDではオプションは設定せず全てが標準装備であるため、実際の価格差はもう少し広がるだろう。
BYDの最大の強みは、EVの車両価格の大部分を占めるバッテリーを社内で製造できることにある。ブレードバッテリーはBYDが独自に開発したリン酸リチウムイオンバッテリーで、以下の特性を備えている。
・バッテリーに釘を刺しても発火しないなど、優れた堅牢性
・表面温度もほとんど変化せず、膨張しにくい
・劣化が少なく、ATTO 3のバッテリーは8年経過、15万㎞走行時点でも、新車時の7割以上の容量を保証
こだわっているのは性能だけではない。
ATTO3のチーフデザイナーはヴォルフガング・エッガー(Wolfgang Egger)氏だ。同氏は、アルファ ロメオやアウディのチーフデザイナーを務めたドイツ人で、アルファ ロメオ在籍時にはスーパースポーツの「8C」を世に出した。
なお、ボディー製造ではBYDが2010年に買収した、日本のタテバヤシモールディングがプレスラインを担当している。インテリアは、メルセデス出身のデザイナーを起用し、独創的な造形を実現している。
ATTO3は、2022年2月に中国で発売された。その後オーストラリア、タイ、シンガポールなどアジア太平洋地域で発売され、販売台数は2022年10月末時点で累計14万3000台に上る。さらに、ドイツやフランスなど、ヨーロッパ9カ国での販売を予定している。
EURO NCAPの安全評価では最高評価の5つ星を獲得し、オーストラリアでも同様の認定を受けている。
急成長するBYD
BYDは、1995年に王伝福氏により中国・深圳市でバッテリーメーカーとして創業した。正式名称は、比亜迪股份有限公司(略称:比亜迪またはBYD)。設立当初は、ノキアをはじめとする携帯電話メーカーへ供給するバッテリーの開発・生産を行っていた。
現在では、自動車のほか、モノレール、IT部品、リチウムイオンバッテリーの生産を行っている。携帯電話用バッテリーのシェアは世界第1位、リチウムイオンバッテリーでは世界第3位という巨大企業に躍進した。従業員は29万人を超え、2023年には2万人の新規雇用を予定している。
BYDが独自開発するバッテリーの特徴は、リン酸鉄系のリチウムイオン電池だ。現在のEVに使われるリチウムイオン電池には、正極にリン酸鉄を使うリン酸鉄系と、ニッケル、コバルト、マンガン酸リチウムを使う「三元系」がある。BYDは、特にリン酸鉄系を得意としている。トヨタが2022年秋に中国で発売した「bZ3」も、BYDのリン酸鉄系電池を採用している。
自動車事業は、2003年に倒産した小規模の国営自動車メーカーを買収することで始まった。2021年の売上高はグループ全体で約4.1兆円。自動車部品メーカーのアイシン精機の3.9兆円を上回る。2022年6月の発表によると時価総額は約20兆円で、フォルクスワーゲンやメルセデス・ベンツを抜いて、自動車メーカーとしてはテスラ(97兆円)、トヨタ(35兆円)に次ぐ第3位だ。
2022年においては、9月までの同社のEVとPHVを合わせた販売台数は20万台を突破し、EVテスラを抜いて世界トップとなった。前年同月比で2.9倍に成長している。
2022年通期の販売台数は約180万台と予想されており、2023年には300万台に達する見込みだ。予想通りであれば、スズキ(販売台数276万台/2021年)を上回り、世界の自動車販売ランキングでトップ10に入ることになる。
なお、EV市場でライバルのテスラは、2022年の販売台数は昨年比40%アップの131万台、2023年も50%以上増加し200万台に達すると予測している。
戦略的な日本のEV市場への参入
BYDは突如日本のEV市場に参入を決めたというイメージがあるが、実際はそうではない。2015年には、日本の自治体やバス会社に電動バスの納入を開始し、累計75台を納入している。
同社によると、日本における電動バスでのシェアは日本で7割を占め、路線バスや観光バス、上野公園や長崎ハウステンボス内の巡回バスとして稼働している。
2020年には、フォークリフトの日本法人を設立し、累計400台を販売している。また、電動のミニバンやタクシーのEVを試験的に導入している。一部の企業に使ってもらいながら、実際の使い心地や日本の急速充電規格であるチャデモ(CHAdeMO)への対応などをテストしている。
アジア自動車メーカーのイメージ払拭
日本国内ではトヨタ、日産、ホンダなど国産自動車メーカーが約95%のシェアを占める。輸入車では、メルセデス・ベンツやBMWなどヨーロッパブランドが人気だ。
アジアメーカーとしては、ヒョンデが2000年に日本市場に参入したが、2010年に撤退した。昨年、EVとFCVで日本への再参入を果たした。販売はオンラインのみというのがBYDとは対照的だ
日本国内のEV市場は徐々にではあるが拡大しつつある。2021年の販売台数ベースでは1%未満だったEV普及率が、2022年9月時点で1.5%に伸びている(乗用車・軽自動車含む)。時代はEVに追い風のようだ。
EV市場は伸びており、韓国や中国メーカーのイメージが向上すれば、今後のチャンスはありそうだ。