トヨタと豊田自動織機が開発したバイポーラ電極|クルマの電動化にもたらすインパクトとは?【EVの基礎まとめ Vol. 10】
新型アクアで初めて搭載されたバイポーラ型バッテリーは、サイズを縮小しつつ内部抵抗を抑え、さらに大きな電力を供給する能力を持つ。ストロングハイブリッドの性能をより後押しするこの構造のメリットを探る。(MotorFan illustrated 198号より転載。情報は当時のもの)
TEXT:世良耕太(Kota SERA) PHOTO&FIGURE:TOYOTA/LEXUS/豊田自動織機
車種ごとの戦略によって使い分けるHEV用バッテリー
電気自動車(BEV)の駆動用電池はリチウムイオンと相場は決まっているが、ハイブリッド車(HEV)の場合は機種によってリチウムイオンとニッケル水素を使い分けている。トヨタ自動車は2021年7月に発売したアクアで、駆動用車載電池としては世界で初めて「バイポーラ型ニッケル水素電池」を採用した。従来のモノポーラ型に比べ、バッテリー出力を高められるのが特徴で、アクセル操作に対する応答性が向上するなどさまざまなメリットが得られる。
2022年1月にはミニバンのノア/ヴォクシーが新型に移行した。それまではプリウスの世代交代に合わせてハイブリッドシステムをアップデートしていたが、その法則を破り、第5世代と呼ぶより高効率なシステムに進化した。第5世代ハイブリッドシステムは、23年1月に発売された新型プリウスにも適用された。
プリウス(3月発売のPHEVを除く)の月販基準台数は4300台なのに対し、ノアとヴォクシーの月販基準台数は合わせて1万3500台である(ガソリン車の設定もある)。カーボンニュートラルの実効性の観点では、プリウスの発売を待たずにノア/ヴォクシーから新世代に切り換えたほうが高い効果が期待できる。それが、受け継いできた法則を破った理由だ。
従来型のノア/ヴォクシーはニッケル水素電池を搭載していたが、新型は最新世代のリチウムイオン電池とした。20年2月に発売されたヤリスから適用が始まり、その後、ヤリス・クロス、レクサスNXに適用が広がっている電池だ。出力を従来比で15%向上させたのに加え、セルとケースのアッセンブリー構造を刷新することで小型化を図ったのが特徴。結果、新型リチウムイオン電池は前型ニッケル水素電池比で、体積で30%、質量で18kgの低減を実現した。
開発担当者はノア/ヴォクシーの開発にあたり、「バイポーラ型の選択肢があったのは確か」だと認めた。「(ノア/ヴォクシーで)リチウムイオン電池を選んだのは適材適所です。決め手のひとつは質量。リチウムイオン電池はバイポーラとの比較で15kg軽い。セダンやハッチバックに比べるとミニバンは質量面で不利なので、パワートレーンを軽くしたかった。(出力はともかく)燃費面ではバイポーラにしたところで変わりません。そして、コストです」
アクアはハイブリッド専用車なので問題は生じないが、ノア/ヴォクシーはガソリン車との併売なので、購入を検討する際に車両価格を比較される。作り手の思いとしてはHEVを選んでもらいたいので、ガソリン車との価格差を抑えたい。電動化戦略上の思惑も絡み、バイポーラ型よりコスト面で有利なリチウムイオン電池の選択に至ったというわけだ。
コンパクトで高出力なバイポーラ型
いっぽうで、性能の訴求が上位にくるレクサスRXの高性能機種やクラウンでは、バイポーラ型が選択された。クラウンにバイポーラ型を採用したのはなぜ? との問いに技術者は「出力が欲しかったから」と即答。小さく、軽くできるためパッケージング面で恩恵が受けられるのも採用の理由だという。
バイポーラ型ニッケル水素電池は、豊田自動織機とトヨタ自動車が共同で開発した。豊田自動織機は来たるべく電動化の波を見据え、2007年に電池開発をスタートさせた。同社のフォークリフトにリチウムイオン電池を載せたのが最初だ。電池メーカーとしては後発のため、他社と似たような技術では勝負にならない。飛び道具が必要で、従来型アクアが搭載するニッケル水素電池の2倍の出力を目標に設定した。