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電池をボディと一体化するBYDブレードバッテリーの発想【EVの基礎まとめ Vol. 7】

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電池をボディと一体化するBYDブレードバッテリーの発想【EVの基礎まとめ Vol. 7】

LFP(リン酸鉄)を正極に使う2次電池では、BYDは老舗である。一時期、LFPは「容量を稼げない」と敬遠された時期もあったが、現在は事情が変わった。世界初の「プラットフォームとセットになった電池」でBYDは攻めている。
TEXT:牧野茂雄(Shigeo MAKINO) FIGURE:BYD Auto/Shigeo MAKINO

BYDが熱効率46.06%というパワートレインを発表したのは記憶に新しい。PHEVでもキープレイヤーに成長したBYDだが、その真骨頂はやはりバッテリーだろう。同社の「ブレードバッテリー」について、改めてMotor Fan illustrated 198号(2023年4月)から抜粋して紹介する。(情報は当時のもの)

電動車の車両パッケージングでは、電池の置き場所確保が最大のポイントである。設計者諸氏は「もっとも気を使う」という。現在、BEVの場合はホイールベース内の床下に電池パックを配置する方法が一般的だが、床面を平らにするか、それとも室内艤装品に合わせて凸部分を作るかは、車両プラットフォーム設計だけでなく電池形状や製造工程の作り方でも変わってくる。単純に電池を並べているのではない。

比亜迪汽車(BYDオート:以下BYD)は電池メーカーである比亜迪股份有限公司の傘下であり、西安泰川汽車の経営権を取得する形で2003年に発足した。筆者が2006年に同社を初めて取材したときは数あるローカル企業のひとつという印象だったが、2008年に世界初の量産PHEV「F3DM」を完成させ、2010年には同社初のBEV、初代「e6」を発売した。この年にダイムラー(当時)との間で合弁会社を設立しBEVブランド「DENZA」を立ち上げた。

2011年広州ショーで同車を取材したとき、BYD技術部門は「PHEVとBEVでは電池に求める性能要件が違う」と語っていた。現在、同社のBEVとPHEVがどのような電池をそれぞれに搭載しているか、詳細は明らかにされていないが、航続距離が短い(つまり体積効率が悪い)というLFPの弱点を補いながら、長所である安全性を追求し、このブレードバッテリーに至った。BYD広報部門はこう語る。

前後に電気モーター/減速ギヤ/制御系を独立配置し、ホイールベース内の床面に電池を並べるレイアウトは、いまやBEVの標準である。前後のeアクスルは、高さを抑えるか、前後長を抑えるか、搭載車両によりけりだ。上の図はBYDの「eプラットフォーム3.0」であり、現在、同社のBEVはこの方式を共有するが、電池の収容数が多く電池パックの高さを抑えている点がBYDの特徴だ。いわゆる「スケートボード」である。

「ブレードバッテリーは、パワーバッテリーであると同時に構造部品でもある。モジュールを不要とした革新的な設計により、複数のモジュールで構成される従来のバッテリーパックと比較して空間利用率を50%以上向上させた。体積当たりのエネルギー密度を大幅に向上させるとともに、モジュールレス化により構造的な複雑さを解消したことにより、高い安定性と故障率の低下、高い安全性と品質を提供できる」

BYDが言う構成部品とは、車両プラットフォームの構成部品という意味だ。ブレードバッテリーは2021年8月に発表された「eプラットフォーム3.0」とセットであり、ブレードバッテリーがあったからeプラットフォーム3.0が成立し、eプラットフォーム3.0側の性能要求に対しブレードバッテリーは不可欠だった、ということになる。

電動パワーステアリングはラックドライブ式でFR車に多い前引き。モーターより前方の配置だ。
フロントサスペンションはツイステッドナックルを持つダブルウィッシュボーン方式。
床面いっぱいにブレードバッテリーが敷かれる。搭載方向は車両中心線に平行である。
サイドシルはボディ剛性と電池パック保護の両方を受け持つためアルミ押出材を使う。
トヨタ「bZ3」はBYDとトヨタの合作だ。側面視の写真とセダンとしての着座姿勢を想像すると、高さを抑えたブレードバッテリーの採用はまず間違いないだろう。
著者
牧野 茂雄
テクニカルライター

1958年東京生まれ。新聞記者、雑誌編集長を経てフリーに。技術解説から企業経営、行政まで幅広く自動車産業界を取材してきた。中国やシンガポールなどの海外媒体にも寄稿。オーディオ誌「ステレオ時代」主筆としてオーディオ・音楽関係の執筆にも携わる。

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