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THS+4速ATで10速ハイブリッド:トヨタ・マルチステージハイブリッドの仕組み

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THS+4速ATで10速ハイブリッド:トヨタ・マルチステージハイブリッドの仕組み

トヨタのハイブリッドシシテムといえば電気CVT的な連続無段階変速が定番である。そのなかに登場したFRプレミアムカー用ユニットは、まるで正反対のステップAT的制御が信条である。


TEXT&PHOTO:牧野茂雄(Shigeo MAKINO) FIGURES:TOYOTA/AISIN AW

いまから20年前の1997年に市販された初代プリウスは、世界初の量産ハイブリッド車(HEV)だった。その登場は世界を驚かせ、翌98年早々のNAIAS(デトロイト・ショー)では各社首脳に「あのクルマにどう対抗するのか」という質問が浴びせられ、会場をプリウスショックが包んだことを思い出す。GM、ダイムラー、BMWが3社連合を組み「2モード方式」でトヨタ対抗を宣言したのはすでに昔のことだ。

以降、トヨタ自動車はHEV技術を熟成させながら同時にバリエーション展開も進めてきた。いっぽうアイシングループは、フォード向けHEVシステムの開発からこの分野に参入し03年以降はトヨタ自動車との共同開発を手掛けている。今回トヨタ自動車とアイシン・エィ・ダブリュ(当時)は、後輪駆動車向けの第3世代に当たるマルチステージハイブリッドトランスミッション(以下=MSHT)を開発しレクサスLC500hに搭載した。

HEVの20年間を振り返ると、その改良の過程にドライバビリティと燃費というテーマがあった。THS(トヨタ・ハイブリッド・システム)は、発電機/エンジン/電気モーターを遊星歯車セットで連接し、発電機の負荷で連続無段階の変速を行なう「電気無段変速機」として生まれた。日本市場ではそのシームレス変速が受け入れられ、トヨタ自動車のHEVというジャンルを確立した。しかし、シームレスを許容しない市場もあり、そこではラバーバンド・フィール(ゴム紐が伸びるような感触)と揶揄されている。

MSHT開発の狙いは、これを積むFR車の燃費向上だった。THSの電気的効率はギヤ比がハイになるにつれて向上し、発電機(MG1)の回転がゼロになるギヤ比のときに理論上ではもっとも良くなる。そこからギヤ比がさらにハイになると効率は落ちる。エンジンを止めることができず、車両停車によるエネルギー回生も使えない高速域では、たとえ一定速巡航でも燃費が伸びない。MSHTはハイ/ローの2段減速を廃止し、THS出力軸の後段に4段変速機構を追加したものだ。MG2及びエンジンの回転数を下げて駆動力伝達効率を上げようという手段である。

前段が発電機/遊星歯車セット/モーターで構成されるTHS、後段が遊星歯車2セットを使う4段変速機構。THSの出力を4段階に「変速」するという仕組みである。モーターとエンジンの出力を合流させたあとで変速させるためエンジン出力にもギヤ比が乗る。ローギヤ側ではトルクを増加させ、ハイギヤ側ではOD(オーバードライブ)の効果を得る。

「最大のねらいは高速巡航燃費の向上です。発進停止が多い市街地ではエネルギー回生によって燃費を向上させていますが、高速ではそれができません。MSHTはLHD(レクサス・ハイブリッド・ドライブ)に変速幅の広い4段変速機構を合体させたものです。0.650〜3.538の変速比を取りました。これによりMG1の回転がゼロになるように制御し、駆動力伝達効率を向上させています」

注目はこのギヤ比だ。0.650~3.538を4段で刻んでいる。最小部品点数で燃費最大の効果を狙った結果だと言う。同時に搭載車種がレクサスLCであるため、この4段をさらに電気的に変速させ、適度なステップ比を持った10速にしている。「HEVでも走りのリズム、操る楽しさを味わえなければいけないという意図です」とレクサス。レクサスLC500への10速AT搭載が決まったとき、HEVのLC500hも新しいHEVのドライバビリティを追求するという開発目標が与えられた。

変速比
 1st:3.538
 2nd:1.888
 3rd:1.000
 4th:0.650
駆動力分配機構変速比:0.436

著者
牧野 茂雄
テクニカルライター

1958年東京生まれ。新聞記者、雑誌編集長を経てフリーに。技術解説から企業経営、行政まで幅広く自動車産業界を取材してきた。中国やシンガポールなどの海外媒体にも寄稿。オーディオ誌「ステレオ時代」主筆としとてオーディオ・音楽関係の執筆にも携わる。

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