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電装回路の高電圧化、TeslaがCybertruckで48Vを採用、Ethernetで新たなE/Eアーキテクチャ構築[FOURIN通信]

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電装回路の高電圧化、TeslaがCybertruckで48Vを採用、Ethernetで新たなE/Eアーキテクチャ構築[FOURIN通信]
(FIGURE:Tesla Motors)

70年以上続く12V時代に、Teslaは終止符を打とうとしている。2023年末発売のCybertruckでTeslaは48Vを採用し、次は全量48V化する方針である。

[FOURIN通信]
1980年創業、自動車産業調査のパイオニア・FOURIN社が刊行する自動車調査月報より、今後の自動車業界を読み解く特別寄稿。毎月末日更新。
全レポートはこちら:https://www.fourin.jp/

車載電装部品の電圧は今も12Vが支配的である。車の多機能化に伴うワイヤーハーネスの重量増を克服すべく、1990年代には42Vの標準化が議論されたがやがて消滅し、2010年代に登場した48Vも主として燃費/排ガス規制対応のMHEV関連部品での採用にとどまる。

70年以上続く12V時代に、Teslaは終止符を打とうとしている。2023年末発売のCybertruckでTeslaは48Vを採用し、次は全量48V化する方針である。

電圧が4倍になれば、電流は4分の1になり、ワイヤーハーネスは細く、部品は小さくできる。ピックアップトラックのCybertruckでは、ワイパーの全長が1.2mになるなど、部品も大きい。作動に必要な電力も増えるため、48V化は有効である。オイルポンプ(前後eAxle)やステアリングアクチュエーター、ウィンドウレギュレーターなども48Vで作動する。フロントトランクとルーフにも48V対応のアクセサリー用コンセントが付いている。

48VはPower over Ethernet (POE)規格に適合している。Ethernetケーブルを通して特定の機器に電力を供給でき、信号伝送と電力供給を1本のケーブルに統合できる。これによりTeslaは既存のCAN-Busも排除する。Ethernetであれば、デイジーチェーン接続(複数機器を数珠繋ぎにして一つの環で接続)も可能であり、設計や生産の自由度が上がる。ECUの中央化など、新しいE/Eアーキテクチャに移行しやすくなる。

一方で、BEVにはすでに高電圧の駆動用電池が搭載されており、48V化の恩恵を受ける部品はそれほど多くはない。48Vに対応していないか、今後もその必要がない部品も依然として多く、全部品の48V化は決して容易ではない。部品メーカーが今後どこまで12V/48Vの両対応部品を増やすかもカギになる。Teslaは市場にない部品の一部を内製する方針を示しており、また、他のOEMにも48V化への協力を呼びかけている。

Tesla、電気系統を48Vに変更

Teslaは2023年末に発売したCybertruckで、電気系統の電圧を12Vから48Vに切り替えた。オイルポンプ(前後eAxle)、ステアリングアクチュエーター、ワイパーモーター、ウィンドウレギュレーターモーターなどが48V電源で作動する。フロントトランクとルーフにはアクセサリー用コンセント(出力400W)があり、これらも48V電源で作動する。なお、駆動用電池の電圧は816Vで、容量は123kWh。

Teslaは今後計画している次世代車(Model 2等)の電気系統もすべて48Vにする方針である。

Tesla Cybertruckにおける48V化のメリットと付随効果

(FIGURE:Tesla Motors)

Cybertruckは全長5,682mm、全幅2,032mm、重量2,995kgと巨大で重い。そのため補機類も大きい。例えばワイパーブレードは全長1.2mである。また、Teslaのステアリング機構はステアバイワイヤとなっており、高出力のステアリングアクチュエーターを搭載している。これらの部品の作動には大電流が必要であるが、48V化によりワイヤーハーネスを細くできる。これにより、銅の使用量を75%削減できる。

また、既存の鉛電池をリチウムイオン電池に置き換え、電池の 重量を87%削減した。従来の鉛電池は4年に一度交換する必要があったが、リチウムイオン電池は車両寿命まで交換する必要がない。

48VシステムはPower over Ethernet(POE)規格に適合している。Ethernetケーブルを通して特定の機器に電力を供給でき、信号伝送と電力供給を1本のケーブルに統合できる。これによりTeslaは既存のCAN-Busを排除する。Ethernetであれば、デイジーチェーン(複数機器を数珠繋ぎにして一つの環で接続)も可能であり、配線を簡素化できる。

加えて、Teslaは48V化と新E/Eアーキテクチャの構築にあたり、車載コントローラーを自社で独自設計した。コントローラー全体に占める独自設計比率はCybertruckですでに85%に達しており、次世代車では100%にする方針である。

さらにTeslaは従来のヒューズ+リレーから電子ヒューズ(eFuse)に切り替える。eFuseにより、可動部品(リレー)を排除できるのはもちろんのこと、過電流時の反応速度を秒単位からミリ秒単位に短縮できる、制御や診断の精度を緻密化できる、ファームウェアーのリセットが可能になる、などのメリットがある。

48V化の良し悪しと今後についての考察

12Vのワイヤーハーネスは車1台で50~80kgと言われる。48Vに変更すると3分の1程度に減らせる可能性がある。小型化により、有効なスペースも増える。ただし、Model 3の電池パックが450kgであることを考えると、ワイヤーハーネスを25kg軽量化することによるメリットは相対的に小さい。

BEVの場合、消費電力の大きい部品のほとんどは、すでに高電圧の駆動用電池で作動している。12Vで作動する部品の消費電力はたいてい小さく、48Vの恩恵は少ない。むしろ、48V化の恩恵はエンジン車のほうが大きい。スターターモーターや電動スーパーチャージャー、電気加熱式触媒など、消費電力が大きい部品を低電流で動かせる。

一般に12Vで作動する部品は、照明(消費電力の少ないLED)、ワイパー、インフォテインメント、パワーウィンドウ、ドアアクチュエーター、シートアジャスターなどである。48Vに対応していない部品も依然として多い。Teslaは市場にない48V部品を自社で内製する方針を示している。また、他のOEMにも48V化への協力を呼びかけている。

POEは信号伝送と電力供給の統合とデイジーチェーン接続を可能とし、設計や生産の自由度を上げる。ECUの中央化など、新しいE/Eアーキテクチャに移行しやすい。

欧州勢はMHEVで48Vを採用した際、鉛電池の排除を今後の目標の一つに挙げていた。Teslaの影響で、鉛電池を排除する機運が世界的に再び高まる可能性がある。

車載電装部品の高電圧化の歴史

車の電装回路の電源電圧は、黎明期には6Vであったが、1950年代に12Vが登場し、それが現在も続いている。車の多機能化により、電装部品が増え、大電流を必要とする部品も増えると、接続するワイヤーハーネスも増えるため、1980年代には重量が課題として意識されるようになった。

1994年にMassachusetts工科大学(MIT)の呼びかけで、日米欧の自動車メーカーと部品メーカーによるコンソーシアムが結成され、42Vの標準化に向けた議論が始まった。装置や配線に大電流を供給しやすくし、同時に50V未満で感電の危険性を回避することが42Vの狙いであった。2000年代に入っても42Vの議論は続いたが、高電圧化によるメリットの一部は認められたものの、追加投資と価格上昇に見合うだけの価値を見いだせないまま、折からの世界的不況も影響し、議論は2009年までにほぼ消滅した。その後、42Vの高電圧が必要と当初考えられていた部品(電動パワーステアリング等)は、12Vで実現された。

(FIGURE:Renault)

2011年にVW、BMW、Daimler(現Mercedes-Benz)、Audi、Porscheが48V電源で充電コネクターやCAN-Busインターフェースなどを共通化したアーキテクチャを確立すると発表した。欧州主要サプライヤーもこの動きに従った。一段と強化される燃費/排ガス規制に対応するため、48Vはエンジン車を比較的安価にマイルドハイブリッド(MHEV)化する手段として議論された。2017年にはRenaultがMPVのScenic(第4世代)に世界で初めて48V MHEVを設定した。他の欧米OEMも追随し、2024年1月までにRenaultのほか、VW、Mercedes-Benz、BMW、Stellantis、Ford、Volvo Carが48V MHEVを採用した。GMも中国向けモデルで採用している。

日系OEMではマツダとスズキ(欧州向け)が48V MHEVを採用している。日系はストロングハイブリッドに強みを持つOEMが多く、欧州ほどは採用に積極的ではない。そして2023年3月、Teslaは車載電装回路を将来的にすべて48V化する方針を発表した。

高電圧化のメリットとデメリット

電力を同値としながら高電圧化すると、オームの法則により、同じ電力を送電するための電流が少なくてすむ。理論的には、抵抗を変えずに電圧を4倍にすれば、必要な電流は4分の1になる。

 ・ 同じ電力量を細いワイヤーハーネスで送電できる
 ・ 同じ出力の部品(モーター等)を小型化、軽量化できる
 ・ 電流値に比例する送電損失を低減できる
 ・ エンジン車の場合、エンジン作動に依存していた部品(エアコン等)がエンジン停止中も動かせるようになる

一方で、高電圧化のデメリットとしては、高電圧化には追加投資が必要で、コスト増要因である。12Vでしか作動しない部品は、48V対応部品に取り替えるか、降圧して使用しなければならない。

高電圧化の現状と今後

(FIGURE:Porsche)

車載電装部品の電源は、2024年に入ってもなお、12Vが主流である。より高電圧の駆動用電池を搭載するBEVでも状況はほとんど変わっていない。12Vの完全排除が難しいため、複数の電圧システムが混在している。例えば、Porsche Taycanには12V、48V、400V、800Vの電圧システムが混在している。

欧州OEMはエンジン車の48V MHEV化を進めたが、48V対応として実際に量産採用された部品は少ない。スタータージェネレーター、電動スーパーチャージャー、電動ウォーターポンプ、電動アクティブスタビライザー、エアコンコンプレッサー、電気加熱式触媒(EHC)などが48V対応としてこれまでに量産採用された。12Vの電源を使いDC/DCコンバーターで昇圧して、これらの48V部品を作動させているOEMが多い。部品メーカーレベルでは、12Vと48Vの両方に対応可能として開発された部品が増加傾向にある。

(FIGURE:Schaeffler)

Teslaの全量48V化方針を受けて、48V対応部品は今後も増加することが予想される。鉛電池の排除、eFuseへの切替、POEなどの付随的価値が意識されるようになれば、48Vが急速に普及する可能性もある。

FOURIN世界自動車技術調査月報(https://www.fourin.jp/monthly/tech_repo.html)

著者
東 尚史:FOURIN編集部

株式会社 FOURIN (フォーイン)は自動車産業専門の調査研究会社として世界各国の自動車産業に関する各種調査報告書を出版しております。

先進国市場の多様化、環境・安全問題への社会的関心の高まり、新興市場における市場明暗、国境を越えた業界再編の波、21世紀の今日ほど、事業環境情報の正確な把握と分析が必要とされている時はありません。FOURINは全ての経営資源を挙げて情報の分野から日本のひいては世界の自動車産業の発展に貢献していきたいと考えます。

FOURIN:https://www.fourin.jp/

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