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オーストリアで世界最大の自動充電プロジェクトが進行中、路面に敷設した給電パッドから接触充電[FOURIN通信]

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オーストリアで世界最大の自動充電プロジェクトが進行中、路面に敷設した給電パッドから接触充電[FOURIN通信]

[FOURIN通信]
1980年創業、自動車産業調査のパイオニア・FOURIN社が刊行する自動車調査月報より、今後の自動車業界を読み解く特別寄稿。毎月末日更新。
全レポートはこちら:https://www.fourin.jp/

世界的にグリーン化(GX)とデジタル化(DX)が進み、エネルギー産業とモビリティ産業に影響を与えている。これらふたつの産業の結節点に位置するのが車の充電である。特に人口とBEVの増加が予想される都市部では、出力変動の激しいグリーン電力(再生可能エネルギー由来の電力)の需給調整に弾力性をもたらすために、Vehicle-to-Grid(V2G)を拡大し、できるだけ多くのBEVを長く送電網に接続することが望ましい。

オーストリアのハイテク企業・Easelinkはこのような考えのもと、タクシーの自動充電プロジェクトeTaxi Austriaを2023年9月に開始した。2024年春までに専用装置を装着した60台のタクシーをウィーンとグラーツで展開して、計7ヵ所の路肩駐車スペースで自動充電の実証実験を行っている。オーストリア政府が2025年以降にタクシーとレンタカーをすべてZEV化する立法を検討していることもあり、プロジェクトには地元自治体も協力している。

このプロジェクトで使用される自動充電システムは、Easelinkが開発したMatrix Chargingである。車両下部に装着されたコネクターが降下し、道路の駐車場所に埋設されたパッドと接触して充電する仕組み。非接触型を選択しなかったのは、コストや車載性などを考慮した結果としている。パッドには加熱機能が備わり雪や氷を溶かせる。コネクターにはエアコンプレッサーが内蔵されており、パッド上の水やゴミを吹き飛ばせるようになっている。パッドには高い堅牢性が要求されるが、車輪荷重約5.9tのフォークリフトが通過しても問題ないという。

超広帯域無線通信(UWB)ベースの測位システムによって、パッドとコネクターの位置関係はコックピットに設置されたスマホにグラフィック表示される。これによりユーザーは充電可能な位置に容易に駐車できる。

過去に例のないプロジェクトであるが、都市化の進む日本にとってもひとつの参考になるかもしれない。

Easelink:自動充電機能のない車は2030年に時代遅れに

オーストリア・グラーツに本拠を置くハイテク企業のEaselinkは自動充電システム「Matrix Charging」を開発している。オーストリアの2都市で自動充電プロジェクトのeTaxi Austriaを地元タクシー会社と協力して進めている。Matrix Chargingは路面に埋設した充電パッドから駐車中の車に接触給電する仕組み。Easelink・COOのGregor Eckhard氏は「自動充電機能のない車は2030年には時代遅れになる」と豪語する。

EaselinkがMatrix Chargingを推す理由はふたつある。

セクターカップリングによるエネルギーの有効利用
世界で進むグリーン化(GX)とデジタル化(DX)は、エネルギー産業とモビリティ産業に影響を与える。このふたつの産業が交わるところにあるのが充電である。充電の自動化はエネルギー産業とモビリティ産業のインターフェースを自動化することであり、理想的なセクターカップリングによる相乗効果をもたらす。

再生可能エネルギー由来の電力は変動が激しく、需給バランスを保つ柔軟な送電網が必要である。BEVをグリッドに繋げばバッファーとして機能する。できるだけ多くのBEVをできるだけ長くグリッドに繋げば、需給バランスを調整しやすくなる。

BEVとグリッドの接続時間を長くするには、充電の利便性を高めなければならない。充電プロセスが完全に自動化されれば、ユーザーの負担が減り、接続しやすくなる。

大都市に人とBEVが増える未来を想定
世界人口の55%は都市に住んでいる。2050年には70%に達するとの予測もある。都市の土地は有限で高価である。路肩に充電器を設置すると、通行スペースを圧迫する。都市に人とBEVが増えることを想定すると、充電インフラは道路に埋設されることが望ましい。

Matrix Charging:部品構成と充電プロセス

Matrix Charging(MC)は以下の部品で構成される。

MCパッド:道路の駐車スペースに埋設される送電器
MCコネクター:車体下部に装着される受電器
スイッチボックス:MCとケーブル充電の切替器
ユーザーインターフェース:駐車支援とMC起動
オンボードチャージャー:高圧充電インターフェース
充電インレット(Type 2):ケーブル充電用

eTaxi AustriaプロジェクトではタクシーにMCコネクターを後付けしている。将来的にはEaselinkがOEMや部品サプライヤーにMCのライセンスを付与し、車の生産段階でMCを組み込むことを想定している。

自動充電は以下のプロセスで行われる。

 ① 車がMCパッドの上に停車する。
 ② 車のフロア下にあるフラップが開き、側面をラバーに覆われたMCコネクターが回転しながら下降する。
 ③ MCコネクター先端とMCパッドが磁気的に接続する。

アクチュエーターひとつのシンプルな設計により、MCは非接触型よりコストや車載性などの点で優れている。

 コスト:非接触型の30%
 車載ユニットの重量:非接触型の45%
 車載ユニットの体積:非接触型の65%
 導電効率:非接触型90%、接触型(MC)95%
 導電効率(双方向):非接触型80%、接触型(MC)90%

MCコネクターにはエアコンプレッサーが内蔵されており、下降中にMCパッド上の水分や障害物を吹き飛ばす。さらにMCコネクター接続面にはベーン状の薄板が複数装着され、接続する際にパッド表面の異物を除く構造としている。エアコンプレッサーは充電中も作動し、ラバー外部からの水分等の進入を防ぐ。

MCパッドには加熱機能があり、雪や氷を溶かすことができる。溶けた水分はエアコンプレッサーで吹き飛ばす。

Matrix Charging:ユーザーインターフェース

eTaxi Austriaプロジェクトでは、ダッシュボードに設置されたスマホでMCを起動する。スマホの画面には、超広帯域無線通信(UWB)ベースの測位システムがグラフィック表示される。駐車スペースへの進入時にMCパッドは運転席から見えなくなるが、スマホ画面を通じて、ドライバーはMCパッドとMCコネクターの位置関係を把握しながら、駐車位置を決められる。パッドとコネクターの間で送受信されるUWB信号情報を処理することで、正確な位置関係を把握できる。

eTaxi Austriaプロジェクトでは6個のUWBモジュールを使用した。4個がパッド側、2個がコネクター側に装着される。この数はデータ収集を意図したもので、量産時には数を減らすことが可能である。データ収集の結果、9割以上がパッドのほぼ中央で充電していることがわかった。

自動充電プロジェクト・eTaxi Austria

オーストリアの「国家エネルギー/気候計画2021-2030」によると、政府は2025年以降のタクシーとレンタカーをゼロエミッション車に限る特別交通法の制定を検討している。

eTaxi Austriaはオーストリア2都市で行われるタクシーの自動充電プロジェクトである。Easelinkと地元自治体、エネルギー企業などが協力して2023年9月に開始された。ウィーンで6ヵ所(MCパッド計38基)、グラーツで1ヵ所(MCパッド計2基)を運用中。さらに、ウィーンで2ヵ所、グラーツで1ヵ所を2024年内に運用開始予定。VW ID.4とHyundai Ioniq 5にMCコネクターを装着した60台のタクシーを展開している。(2024年5月末時点)。

多くの車両が通行する公道ではMCパッドには高い機械的堅牢性が要求される。プロジェクト開始にあたり、ウィーンとグラーツの道路管理当局をまじえて、動的および静的な荷重試験が実施された。動的試験では、重量物を載せたフォークリフトが約5.9t(ホイールあたり)の荷重で上を通過しても、MCパッドには損傷が生じないことが確認された。

道路清掃車によるブラッシングの影響も確認された。スチールワイヤーブラシによる計28回のブラッシングで表面に小傷は付いたが、充電性能にはまったく影響がないことが確認された。

FOURIN世界自動車技術調査月報(https://www.fourin.jp/monthly/tech_repo.html)

著者
東 尚史:FOURIN編集部

株式会社 FOURIN (フォーイン)は自動車産業専門の調査研究会社として世界各国の自動車産業に関する各種調査報告書を出版しております。

先進国市場の多様化、環境・安全問題への社会的関心の高まり、新興市場における市場明暗、国境を越えた業界再編の波、21世紀の今日ほど、事業環境情報の正確な把握と分析が必要とされている時はありません。FOURINは全ての経営資源を挙げて情報の分野から日本のひいては世界の自動車産業の発展に貢献していきたいと考えます。

FOURIN:https://www.fourin.jp/

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