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開発期間3年、薄さ70μmの「薄フィルム型探りコイル」による磁束計測でEVモータの静粛性が向上 - JFEテクノリサーチ|第3回 オートモーティブ ワールド【秋】-クルマの先端技術展-

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開発期間3年、薄さ70μmの「薄フィルム型探りコイル」による磁束計測でEVモータの静粛性が向上 - JFEテクノリサーチ|第3回 オートモーティブ ワールド【秋】-クルマの先端技術展-

EV開発においては、モータの低振動化や低騒音化は重要な課題の一つ。計測機器メーカーであるJFEテクノリサーチは、2024年9月に開催された第3回 オートモーティブ ワールドで新しい検査技術「薄フィルム型探りコイル」を公開した。この技術により、モーター内部の「磁束計測」が可能となり、従来の手法よりも詳細な解析が実現した。開発期間3年を費やしたこの特殊計測技術の背景と可能性に迫る。



TEXT&PHOTO :石原健児
主催:RX Japan株式会社

難易度が高い開発端子のスリム化、開発期間3年の「新技術」

JFEテクノリサーチ株式会社は、JFEスチールのグループの一員として、分析・評価・解析・調査の受託を行う企業である。2024年9月のオートモーティブ ワールドでは、バッテリーの試作・特性評価やモータの磁気特性調査・評価、カーエレクトロニクス製品の各種環境耐久性試験など様々な手法を展示した。

展示ブースでは、基本的にパネル展示とスタッフの説明が中心であったが、モータ解析のエリアの一角に実物展示があることに気付いた。モータ内部と何かの端子が展示してある。担当スタッフに聞いてみると「新技術」であることが判明した。開発までは3年の月日を要したとのことだが、展示パネルではこれらのことに一切言及していない。最新技術でありながら控えめに紹介されている様子に、むしろ強い興味を惹かれた。この技術がもたらす可能性について、さらに深く掘り下げていく。

モータ振動・騒音の原因を探る新技術「薄フィルム型探りコイル」

技術名は「薄フィルム型探りコイル」。先端が薄いフィルム状になった計測端子をモータ内部に貼り付け「磁束(磁力の強さ)」の計測を行うことができる。この技術開発の背景には、EVモータにおける低振動化・低騒音化のニーズがある。「開発のきっかけは、EVのモータ開発時の低振動化・低騒音化への要求に応えるためでした」と話すのは、JFEテクノリサーチ営業本部倉敷材料評価センター主査の中田崇寛氏。今回のバッテリー展示の担当者だ。

従来、モータの解析は大きく分けて「振動計測」と「電磁力計測」の2つの方法しかなかった。仮にモータに何か不具合があったとしても、これらの方法では詳細な解析は困難で「どこかに」異常がある事しか分からない。例えば、振動解析では異音が発生していることは分かっても、それがどの部分から起こっているのかは推測の域を出なかった。

モータ内部への端子コイル取り付けの様子(画像は公式資料より抜粋)

しかし、今回の新技術「薄フィルム型探りコイル」の登場で、これまで手探りだったモータ内部の磁束を可視化し、特定箇所ををピンポイントで解析することが可能となった。さらに、薄いフィルム型のコイルはモータ内外のあらゆる場所に装着できるため、必要な部位の解析を的確に行うことができる。この結果、モータ試作段階で以上箇所を迅速に特定でき、開発効率の大幅な向上が期待される。

「業界で見ても先行する技術がなく、全く新しいニーズでもあるので開発に着手しました」と開発の背景を田中氏は語る。開発において大きな壁となったのは、従来の銅線コイルをフィルム状に薄く形成する技術であった。研究を重ねた結果、厚さ1mmほどの銅線をフィルム状に薄く作り上げることに成功。JFEテクノリサーチが開発に3年を費やしたのも、この技術的な難しさを克服するためであり、その成果は大きいと言える。

狭いエアギャップの騒音・振動の原因解析も可能に

著者
石原健児

取材ライター。
1966年東京生まれの北海道育ち。大学卒業後、イベント関連企業、不動産業を経て印刷業へ。勤務先のM&A・倒産をきっかけに2016年からライター業を始める。医療系WEB媒体、ビジネス誌「クオリタス」などで活動。医師、弁護士、企業経営者、エンドユーザーなどを対象に取材してきた。総取材人数はだいたい1500人。就学前までに自動車や転落事故で「九死に二生」位は得ていると思う。最近好きな言葉は「生きてるだけで丸儲け」。

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