中国の「現代版アポロ計画」。自動運転を牽引する百度や中国企業の取り組み
近代の自動運転技術開発は2000年代からスタートし、2020年代には自動運転の本格的な実証実験や実用化もはじまっている。
2018年には米国の「Waymo(ウェイモ)」がアリゾナ州フェニックスにて、一部のユーザーを対象に世界初となる自動運転車の有料タクシーサービス「Waymo One」を開始した。ドイツや日本でも各社様々な取り組みを行なっている。
EV、車載電池などの新しい自動車市場を牽引する覇者、中国。同国は自動運転においても前向きな取り組みを行なっている。
「百度(バイドゥ)」は中国の中でも自動運転の展開が早かった。2022年8月に重慶と武漢でドライバーレス自動運転タクシーサービス許可を取得している。
ここで特筆すべきは、中国の自動運転タクシーのサービス拡大速度だ。
ウェイモの場合、特定のエリアで試験利用を開始し、次に従業員の知人や友人、ウェイトリストに登録している利用希望者に順次招待制で利用を解禁。それらの段階を踏んだ後に一般開放する堅実な手法を取っている。
この段階を踏んだ慎重さ故に、サービスの拡大速度はおよそ6年で4地域の見通しと、非常に緩やかだ。安全性が強く求められる自動運転領域においてこの速度はむしろ前向きに捉えるべきだろう。
2018年12月にフェニックスでセーフティードライバー同乗の下でサービス開始して以来、2019年末頃に一部ドライバーレスの運用を開始し、2020年10月頃から一般開放。2021年8月にサンフランシスコでサービスを開始し、2024年6月25日にレベル4の自動運転タクシーサービスの一般開放が発表。
2024年度には、ロサンゼルスとテキサス州オースティンでの一般開放を目標としている。
このウェイモからおよそ4年遅れて自動運転タクシーのサービスを開始したバイドゥ。
2022年8月に重慶と武漢でドライバーレス自動運転タクシーサービスを開始して以来、同年12月に首都の北京、2023年6月に深圳と、およそ1年間で4地域という、なんとも中国らしい驚くべき速度でサービスを拡大した。
中国の自動運転は今後どうなるのだろうか。市況を概観していく。
目次
現代版アポロ計画によって急速にサービスを拡大する中国「百度(バイドゥ)」の自動運転タクシー
中国のインターネット検索サービス大手であるバイドゥがここまで急速に自動運転タクシーのサービスを拡大した背景には「Project Apollo(アポロ計画)」がある。
このアポロ計画は、2017年4月にバイドゥが発表した大規模な自動運転車の開発プロジェクトだ。中国政府が全面的に後押ししていることでも知られている。
かつてNASAが行った月への有人宇宙飛行計画になぞらえて命名されたこの計画では、オープンソース化したソフトウェアプラットフォームを活用する。
車両とハードウェアシステムを結び付け、バイドゥの自動運転システムを構築するAI「アポロ」を、自社のみではなく、他の企業と協業して技術開発に取り組む計画だ。
オープンソースとされるプラットフォームは、ソフトウェアやハードウェアはもちろんのこと、サービスソリューションに至るまで含まれている。他にも環境認識や経路計画、車両制御、オンボードオペレーティングシステムにおける開発・テストツールまで提供する。
2017年7月に開始したこのプロジェクトには、国内外の210社を超える企業が参画する。
中国企業を中心に、日本からはトヨタ、ホンダ、ルネサスエレクトロニクス、パイオニア、米国からはフォード、エヌビディア、マイクロソフト、インテル、ドイツからはBMWやダイムラーなど、錚々たる面々が揃っている。
これだけの企業が共同で開発するとなると、ウェイモのサービス展開速度を上回ったのも当然の結果だと言える。
2021年6月には、中国の大手自動車メーカー「北汽集団」傘下のEVブランド「Arcfox」と共同開発した自動運転サービス向けの量産車「Apollo Moon(アポロムーン)」を発表した。アポロムーンの製造コストは、2021年時点で業界平均コストのおよそ1/3にあたる48万元(約870万円)を実現している。
それからおよそ1年後の2022年7月に発表された「RT6」の製造コストは1台あたり25万元(約500万円)と、アポロムーンからさらに大幅に削減された。車両の普及と共にさらに製造コスト低減は進むだろう。
このようにして生産された車両は、安全管理基地内でオペレーター監視のもと、一部地域で完全無人運転で運用されている。無人の自動運転タクシーは、バイドゥの地図アプリや「Apollo Go」アプリの操作により利用することができる。
2024年時点で、武漢で運用されている無人の自動運転タクシーは、1000台を上回る。バイドゥの運営する各種サービスの累計利用実績は600万回を超え、テスト走行を含めた累計走行距離は1億キロ以上に及ぶ。
現在、本格的な運用が開始しているのは重慶、武漢、北京、深圳の4都市に限られるものの、2022年3月時点で上海、広州、長沙、滄州でもApollo Goの試験運用がはじまっており、2025年までに65都市までサービスを拡大する計画を発表している。