自動運転車を導入・解禁しない方針を示すインドは、政府主導で諸外国と連携し自動運転技術の発展を図る
人口世界一、GDP世界5位と経済成長を続けるインド。
自動車市場も成長を続け、2023年度の二輪、三輪を含む自動車販売台数は前年度比12.5%増加を記録した。諸外国と比べると自動車販売台数は中国、アメリカに続く世界3位。
IT・テクノロジー分野の成長も目覚ましく、GoogleのCEOスンダー・ピチャイ氏のような優秀な人材を多数輩出している。
このような急速な経済成長と技術革新の背景から、インドは自動運転技術の分野でも大きな潜在力を持つと考えられているが戦略は異なるようだ。
2023年12月18日、ニティン・ガッカーリ道路交通大臣は自動運転車の導入・禁止を行わない方針を発表した。その理由は、自動運転車の導入により約7万〜8万人のドライバーの雇用が失われることを防ぐためだという。
そのため、現段階ではインド国内で自動運転導入は想定されてはいないが、今後どのような対応を行なっていくのだろうか。現在地とその先を探っていく。
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世界各国が自動運転車を展開する中、インドはベル1〜2の機能を搭載した自動車の展開にとどまる
インドにおける自動運転の導入状況だが、韓国の「現代自動車(Hyundai)」やインドの自動車製造企業である「マヒンドラ&マヒンドラ(M&M)」、日本の「ホンダ」などが、自動運転レベル1〜2の機能を搭載した自動車を展開している。
自動運転レベル1〜2は「運転支援」レベルであり、機能としては自動緊急ブレーキや車線逸脱防止機能、アダプティブクルーズコントロールなどにとどまる。つまり、現在は部分的な自動運転と言えるレベル3以上が搭載された車両が展開されていない状況だ。
ニティン・ガッカーリ道路交通大臣の方針が続くのであれば、インドでは自動運転レベル1〜2の車両しか展開できないことになるだろう。
日本の自動車メーカー「ホンダ」やドイツを代表する自動車メーカー「メルセデス・ベンツ」がすでにそれぞれの自国などでレベル3を展開しているが、インドに上陸させることは少なくとも当面は難しそうだ。
また人口の多さと道路インフラの脆弱さや複雑な道路事情なども自動運転車の導入を阻んでいる。
インドの人口は14億4,170万人。2024年に中国を抜き世界トップに躍り出た。
未整備な道路が多く、歩道との境目もあいまいだ。車線を守らず走行する車が多く、逆走や割込みなども日常茶飯事だ。交通事故における死亡者数は年間10万人以上で推移しており、交通事故は年間40~50万件発生しているという。
この状況下で自動運転システムを構築しても、周囲がルールを守っていれば事故は避けられない。明確なルールとそれを順守する環境があって初めて成立すると言えるだろう。
そんな中、インド政府は国道をはじめとする道路整備に注力している。多くの高速道路プロジェクトが推進されており、社会問題である道路渋滞の緩和を目指す。
しかしながら土地の不足、土地売買費用の大幅な増加、開発業者の資金不足、資金調達コストの上昇、交通量の配慮による維持費の不足など、多くの課題が指摘されている。
本来のルール通りに自動運転システムを構築しても、周囲がルールを守っていなければもらい事故は避けられない。可能な限り事故を避けようとすれば、恐らく自動運転車は前に進めないだろう。
バスやタクシーなど公共交通に対し自動運転技術を採用する動きも見られるが、インドではそちらの展開も難しそうだ。当面は自動運転レベル1〜2の機能を搭載した自動車の普及にとどまるだろう。
また自動運転技術に関する専門人材が不足している点も課題の一つだ。自動運転技術特有の知識やスキルを持つ人材は十分ではない。企業が教育プログラムや育成人材育成に取り組んでいるが、まだ時間がかかるようだ。
これらの課題を克服するには、長期的なアプローチが必要だ。 インド政府は自動車産業の競争力強化と安全性の確保のバランスを取りながら、段階的に自動運転技術の導入を推進する続いていくと見られる。
自動運転に関する明確な法的枠組みを構築するために、日本企業とも連携しながら推し進めるスマートシティプロジェクト
インド政府は自動運転に関する明確な法的枠組みを構築するために、関連法の改正や新法の制定を進めている。
自動運転車のテスト走行に関する規制を緩和し、実証実験の促進や高精度な地図データの整備や、通信インフラの拡充を推し進めている状況だ。また2015年に開始された「スマートシティプロジェクト」を通じて、都市の近代化と生活の質の向上を目指している。
当プロジェクトは選ばれた100の都市が快適で持続可能な環境を提供することを目標に掲げており、電気水道、都市交通、公衆衛生などの基礎インフラの整備が進められてきた。
日本企業の参画も見られ、アーメダバード、チェンナイ、ヴァラナシの都市開発に協力している。
ITS関連事業を手掛けるゼロ・サムはインドのグジャラート州アーメダバード市と契約を交わし、2018年にパナソニックなどとともに世界標準規格のUHF帯V2X通信技術を応用した緊急車両優先システムの実証を行った。
2021年には、名古屋電機工業がカルナタカ州都市交通局から受注したベンガルール都市圏のITS導入事業においても、交通情報システムを供給することを発表している。
その他にも富士電機は電力損失を削減するために、アンドラプラデーシュ州ビジャヤワダでスマートグリッドパイロットプロジェクトを行う。さらに、ハリヤーナ州パーニーパットのスマートエネルギーグリッドに関する実現可能性調査についても実施している。
またNECでは2017年に高度道路交通管理システム(ITMS)ソリューションを実装。
2019年にはスマートシティ実現に向けた交通監視システムや市中監視システムなどの構築プロジェクトを開始し、首都デリーの衛星都市であるグルグラムと近接するマネサールの200箇所以上の交差点などを監視対象としている。
その他にもホンダは2023年3月、インドのソフトウェア開発企業「KPIT Technologies」とパートナーシップ締結に向け基本合意したと発表。
自社のソフトウェアアーキテクチャーや制御・安全技術と、KPIT Technologiesのソフトウェア開発力といった互いの強みを持ち寄り、ソフトウェアがもたらす新たな価値の実現を目指す方針だ。
協業分野は、次世代電子プラットフォームのオペレーティングシステムや電動パワートレーン、先進安全、自動運転、IVI、コネクテッドの各領域としている。
ソフトウェア開発をインド企業にアウトソーシングする例は多いが、今後はこうした協業も加速していくのかもしれない。このように日本企業との連携も見られ、日本の技術がインドの道路交通の近代化に大きく貢献しているようだ。