和紙技術が支える阿波製紙のリチウムイオン電池用断熱材「M-thermo断熱材」EVの火災リスク低減と軽量化を目指す|第3回 オートモーティブ ワールド【秋】-クルマの先端技術展-
電気自動車(EV)の普及にともない、各メーカーはバッテリー火災のリスク軽減を目指し、様々な角度からの技術開発に取り組んでいる。そんな中、和紙の技術を応用した「特殊紙」で、自動車の安全性を高める取り組みを行う企業がある。リチウムイオン電池用断熱材「M-thermo断熱材」などを手掛ける、阿波製紙株式会社だ。同社の事業創造部 事業創造課 チーフ 郡崇志さんに、特殊紙の製造方法やその特徴について話を伺った。
TEXT&PHOTO :夏野久万(Kuma Nathuno)
主催:RX Japan株式会社
高い耐熱性で火災リスクを軽減する「M-thermo断熱材」
阿波製紙は、1916年(大正5年)に設立され、藍商人の支援を受けながら和紙メーカーとして始まり、書道用半紙やチリ紙の製造を行ってきた。その後、紙の可能性を追求し続け、現在では特殊紙や機能材料の製造にまで事業を広げている。
同社は、さまざまな原料を混ぜ合わせてリチウムイオン電池用断熱材「M-thermo断熱材」やオイルフィルター用濾材といった付加価値の高い機能材を開発している。
今回注目した「M-thermo断熱材」は、無機物からできた無機繊維と無機粉体を主原料とし、リチウムイオン電池セルの間に挟んで使用するものである。この断熱材は、セルが異常発熱した際に隣のセルへの熱連鎖を遅らせる効果を持ち、1000度のガスバーナーに10分間さらしても貫通しないという高い耐熱性を誇る。また、プラスチック材料の燃えにくさを示す「難然グレード(UL94 V−0相当)」にも対応している。
郡氏によれば、「耐熱性の高い紙は以前から製作しており、マフラーなどに使用されていましたが、リチウムイオン電池の断熱材への需要が高まり、耐熱・耐火性に優れた無機粉体を封じ込めた特殊なシートを開発しました。触っていただけると、質感が他のシートとは異なると思います」とのことだ。勧められる通り触ってみると、たしかに繊細なパウダーのような質感があった。
高圧プレス加工をして滑らかな質感にしたシートも用意されているそうだ。このシートは、薄さを保ちながら折ったり曲げたりできるのが特徴だ。
シリコーンフォームを使用した複合断熱材の開発
リチウムイオン電池は収縮や膨張などが伴うため、それに追随する必要がある。これに対応するため、阿波製紙はパートナー企業と連携し、シリコーンフォームを挟み込んだリチウムイオン電池用複合断熱材「I-HPI SIF」を開発した。
展示会場ではI-80Fを3枚重ねたものと、シリコーンフォームを間に入れた「I-HPI SIF」との比較表が掲載されていた。I-80Fを3枚重ねたものの圧縮率は10%だが、シリコーンフォームを入れたタイプは68%と大幅に向上させている。実際にシリコーンフォーム入りの製品を触ってみたところ、指先がやさしくフィットする感覚がある。この厚みや柔らかさは、顧客の要望に応じてカスタマイズ可能だ。
特殊紙を支える「抄紙技術」
阿波製紙の「M-thermo断熱材」を含む特殊紙製品は、高度な抄紙技術により生み出されている。抄紙技術の流れについて教えていただいた。
まず原料の調整を行う。さまざまな原料を加え混ぜ合わせていく。原料の配合次第で、紙の特徴が変化する。