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電気自動車のCO2排出量の計算は正しいか?[MFi年頭所感2024:前編]
電気自動車のCO2排出量とマージナル電源論


娘のイブを再エネ発電に、両親を化石燃料発電に例えている。両親の負担割合が変わらないと仮定して追加支出を算出すると実際の追加支出とは一致しない。排出係数が変わらないと見なした全電源平均の考え方も同様に、計算値と現実は大きな乖離がある。実際の追加支出・増加量を算出するのがマージナル電源の考え方だ。
IASTEC : Open Letter to EU-Council and Representatives of EU-states, 2022, https://iastec.org/open-letter-2

一般的には全電源平均の排出係数が使われ、BEV(日産リーフ)の100km走行時のCO2排出量は3.9㎏と算出される。専門的にはマージナル電源の排出係数が使われることもあり、9.3kgと2倍以上の値になる。一方、HEV(プリウス)は燃費から計算すると7.1kgになる。

左の棒グラフはBEVがない場合の年間発電量とCO2排出量を示す。上から再エネ、原子力、天然ガス、石炭火力を示しているがCO2排出量は石炭からが半分以上を占めている。BEVの充電需要が追加された場合(右)を考えると、発電量が増加すると同時に電源構成にも変化が起こる。電源構成の変化を考慮するのがマージナル電源の考え方だ。

横軸に電力需要と発電容量を、縦軸に運転コストをとって各種電源を運転コストの順に並べた。経済性原理から、電力需要が増加する場合は左から右に発電量を増加、減少する場合はその逆に運転制御される。結果、需要がMの場合は石炭が調整電源に、Hの場合は天然ガスが、Lの場合は原子力は調整できないので再エネが調整電源になる。各電源のCO2排出係数と、全電源平均とマージナル電源の年間平均の排出係数を破線で示す。
Olivier Corradi : Estimating the marginal carbon intensity of electricity with machine learning, Published in Electricity Map, Jul 3, 2018


電源を化石燃料発電と再エネ・原子力の二つに分ける。上はBEVがない場合、下は充電需要が加わった場合を示す。通常(上)は、運転コストの安い再エネ・原子力はその時の能力一杯の発電をしているため、化石燃料発電が余裕を持って需給調整を行っている。余剰電力が発生する場合(下)は、化石燃料発電はぎりぎりまで発電量を減少して、それでも余る電力は再エネ発電を抑制して需給調整することになる。

全電源平均の排出係数を使って10,000kWhと10,100kWhの排出量の差を算出すると25kgになる。一方、実際は火力発電が発電量を増加するので、火力発電の排出係数を使って計算すると60kgの増加になる。全電源平均の係数を使って求めた「排出量の差」と実際の「増加量」が一致しない。

横軸に電力需要を、縦軸にCO2排出係数をとると、灰色部分が電力系統からのCO2排出量になる。全電源平均の考え方(左)では、100kWhの需要増加によるCO2排出量の増加ΔXは25kgになる。実際は電力需要が増加すると火力発電が発電量を増加するので、全電源平均の排出係数が微増(右)する。排出係数の増加はわずかだが、これを全需要にかけ算するとΔYは有意な値35kgになる。

CO2排出量をF、排出係数をM、電力使用量をDとして、電力需要がΔD変化した場合のCO2排出量の変化分ΔFを関数の積の微分の公式を使って求めた。第1項が全電源平均を使った計算式と一致している。排出係数の変化ΔMは微少でも需要Dは非常に大きいので、第2項はゼロにはならない。

N個の電気機器が系統電力を使っている場合、箇々の電気機器がどの発電所の電気を使っているのか分からないが、仮に各電気機器が利用している発電所を①~N にランダムに割付けている。ここで電気機器をON/OFF(または検討)すると、その電気機器はON時はN+1、OFF時はNのマージナル発電所を選定したことになるので、CO2排出量を算出することができる。

