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ホンダ、水素事業の取り組みについて発表

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ホンダ(本社:東京都港区)は2月2日、水素事業の取り組みについて記者会見を行った。

■カーボンニュートラル社会の実現に向け、製品の電動化促進に加えて水素活用にも取り組み、水素事業の拡大を目指す

■水素事業のコアとなる燃料電池システムのさらなる開発に取り組み、GMと共同開発している次世代燃料電池システムにおいて、耐久性2倍、コスト3分の1(※1)の実現を目指す。さらに、耐久性2倍(※2)、コスト半減(※2)を実現すべく、引き続き要素研究を進める

■燃料電池システム活用のコアドメインを、燃料電池自動車(FCEV)、商用車、定置電源、建設機械の4つと定め、他社との協業にも積極的に取り組む。特に商用車領域では、いすゞ自動車と燃料電池大型トラックの共同研究を行っている。そのほか、東風汽車集団股份有限公司と共同で、次世代燃料電池システムを搭載した商用トラックの走行実証実験を開始する

■2020年代半ばに年間2,000基レベルで燃料電池システムの社外への販売を開始し段階的に拡大する。2030年に年間6万基、2030年代後半に年間数十万基の販売を目指す

■将来的に宇宙領域での燃料電池技術や高圧水電解技術などの水素技術の活用も視野に入れ研究開発を進める

1. カーボンニュートラル社会に向けた、Hondaの水素活用拡大の取り組み

ホンダは、全ての製品と企業活動を通じて、2050年のカーボンニュートラル実現を目指している。製品だけでなく、企業活動を含めたライフサイクルでの環境負荷ゼロの実現に向けて、「カーボンニュートラル」「クリーンエネルギー」「リソースサーキュレーション」の3つを柱に取り組んでいる。その中で、電気とともに有望なエネルギーキャリアとして位置づけているのが水素だ。

水素の循環サイクルは、再生可能エネルギーを起点とする「つくる」「ためる・はこぶ」「つかう」で構成される。再生可能エネルギー由来の電気は、水電解技術により「グリーン水素(※3)」に変換されることで、季節や天候による発電量の変動が少なくなる。また、陸上/海上輸送やパイプラインにより、需要地へ適した方法での運搬が可能になる。

今後、コア技術である燃料電池システムの搭載・適用先を、自社のFCEVだけでなく社内外のさまざまなアプリケーションに拡大していく。水素を「つかう」領域で、社会のカーボンニュートラル化を促進し、水素需要の喚起に貢献していく。

2. コア技術である燃料電池システムのさらなる進化

カーボンニュートラル社会の実現に向け、ホンダは30年以上にわたって水素技術やFCEVの研究・開発に取り組んできた。2013年からは、GMと次世代燃料電池システムの共同開発にも取り組んでいる。

<燃料電池システムの進化>

次世代燃料電池システム
次世代燃料電池システム

GMとの共同開発による次世代燃料電池システムを搭載したFCEVを、2024年に北米と日本で発売する。一般的に、燃料電池システムの普及・活用拡大に向けて課題に上がるのがコストや耐久性である。両社の知見やスケールメリットを生かしたこの次世代燃料電池システムは、電極への革新材料の適用やセルシール構造の進化、補機の簡素化、生産性の向上などが図られている。燃料電池自動車である「CLARITY FUEL CELL(クラリティ フューエル セル)」(2019年モデル)に搭載していたシステム比で、コストを3分の1まで下げることを目標にしている。また耐食材料の適用や劣化抑制制御により、耐久性を2倍に向上させるとともに耐低温性も向上させている。

GMとの共同開発に加え、燃料電池の本格普及が見込まれる2030年頃に向けて、さらにコストの半減と2倍の耐久性を目標値として設定。従来のディーゼルエンジンと同等の使い勝手やトータルコストの実現を目指し要素研究を開始している。

<水素技術の宇宙領域での活用>

水素技術のさらなる活用先として、宇宙領域を想定した先行研究開発にも取り組んでいる。宇宙で人が生活するためには、水や食料に加え、呼吸のための酸素や燃料となる水素、活動のための電気が必要となる。持続性を保つためには地球からの補給を極力削減することが必要で、太陽エネルギーで水を電気分解して酸素と水素を製造する高圧水電解システムと、酸素と水素から電気と水を発生させる燃料電池システムを組み合わせた「循環型再生エネルギーシステム」の構築が解決策のひとつとなる。

こうしたシステムの実現に向け、ホンダは2020年から2021年度までJAXA(国立研究開発法人宇宙航空研究開発機構)と共同研究を行った。2022年には、月面探査車両の居住スペースとシステム維持に電力を供給するための循環型再生エネルギーシステムについて研究開発契約(※4)を締結した。

この契約により、ホンダはJAXAから委託を受ける形で概念検討を行い、2023年度末までに初期段階の試作機である「ブレッドボードモデル」(※5)を製作する。

3. 燃料電池システムの外販開始と適用先の拡大

世の中の環境動向を踏まえ、コア技術である燃料電池技術の適用先を自社のFCEV以外にも拡大していく。カーボンニュートラル社会に貢献するため、2020年代半ばには次世代燃料電池システム・モジュールの外販を開始。販売当初は年間2,000基レベルを想定し、段階的に2030年には年間6万基、2030年代後半に年間数十万基レベルの販売を目指す。

<4つのコアドメイン>

水素はエネルギーを高密度で貯蔵・運搬することができ、短時間で充填ができる。したがって燃料電池システムはバッテリーが苦手な稼働率の高い大型モビリティや大型インフラの電源、短時間でエネルギー充填が必要なモビリティにおいて特に高い有用性が見込まれる。

また複数基の燃料電池システムを並列接続することで高出力化が可能となる。参入初期は自社のFCEVに、商用車、定置電源、建設機械を加えた4つを主な適用領域として設定し、BtoBユーザーに向けた事業開発も進めている。

FCEV

・昨年北米で発売したCR-Vをベースに、次世代燃料電池システムを搭載した新型FCEVを2024年に北米と日本で発売予定。短い燃料充填時間で長距離を走行できるFCEVの特長に加え、プラグイン機能により家庭で充電できるEVの利便性も兼ね備える。

商用車

・日本では、いすゞ自動車との共同研究による燃料電池大型トラックのモニター車を使った公道での実証実験を2023年度中に開始予定。
・中国では、東風汽車集団股份有限公司と共同で次世代燃料電池システムを搭載した商用トラックの走行実証実験を、2023年1月より湖北省で開始している。

定置電源

・近年、クラウドやビッグデータ活用の広がりによりデータセンターの必要電力が急伸し、BCP(Business Continuity Planning:事業継続計画)の観点でも非常用電源へのニーズが高まっている。発電領域においては、クリーンで静かな非常用電源として燃料電池システムの適用を提案していく。

まずカリフォルニア州の現地法人アメリカン・ホンダモーターの敷地内に「CLARITY FUEL CELL」の燃料電池システムを再利用した約500kWの定置電源を設置。今月下旬よりデータセンター用の非常用電源として実証運用を開始する。その後、世界の工場やデータセンターへ適用していくことで、自社で排出した温室効果ガスの低減も図る。

建設機械

・建設機械市場で大きなセグメントを占める、ショベルやホイールローダーから燃料電池システムの適用に取り組むことで、この領域でもカーボンニュートラル化に貢献する。
・従来の固定式水素ステーションだけでは対応が難しいとされる建設機械への水素供給について、業界団体や関係者と連携して課題解決を図る。

<バリューチェーンの拡大>

BtoBユーザーに燃料電池システムを積極的に活用してもらうためには、導入への開発投資や工数の削減、トータルコストの抑制、安価で安定的な水素の供給といった課題解決が重要となる。ホンダは、納入先企業の完成機に燃料電池システムを適合するための開発サポートだけでなく、メンテナンスや水素の安定供給といった運用面のサポートも提供し、納入先企業のカーボンニュートラル化にワンストップで貢献する。

4. 水素エコシステムの構築に向けた取り組み

燃料電池システムの普及拡大には、水素供給を含めた水素エコシステムの形成が重要だ。ホンダは、国内では日本水素ステーションネットワーク合同会社(JHyM:ジェイハイム)に参画。北米では、水素ステーション事業を行うシェルやFirstElement Fuelなどへの支援を通じて、水素ステーション網の拡充をサポートしてきた。

新たな領域として、定置電源を中心に水素の需要があるところを起点とした水素エコシステムの形成にも取り組む。政府や地方自治体が主催する港湾などでの大量輸入水素を活用したプロジェクトにも積極的に参画し、関連する企業各社とのパートナーシップの構築を図る。

日本では、水素エコシステムの構築に向けて丸紅および岩谷産業とともに水素供給や商用車導入に向けた検討を開始した。欧州では、再生可能エネルギーと水素を組み合わせた、エネルギーエコシステムの構築実証を計画している。

ホンダは、今後も水素バリューチェーンのさまざまな企業との協業・連携を強化しながら、水素の活用拡大に向けたチャレンジに取り組んでいくという。

※1 燃料電池自動車「CLARITY FUEL CELL(クラリティ フューエル セル)」(2019年モデル)の搭載システムに対して
※2 GMとの共同開発による次世代燃料電池システムに対して
※3 再生可能エネルギーなどを使って水を電気分解して生成される、製造過程で二酸化炭素を排出しない水素
※4 「有人与圧ローバー再生型燃料電池システムの概念検討および機能要素試作」についての契約。再生型燃料電池システムとは、水を電気分解して水素と酸素を作る「水電解システム」と、水素と酸素から電気を作り出す「燃料電池システム」を合わせたもの。ホンダのシステムは独自の高圧水電解システムを採用しているため、循環型再生エネルギーシステムと呼んでいる。
※5 宇宙で使用するシステムは、開発段階に応じて「ブレッドボードモデル」→「エンジニアリングモデル」→「フライトモデル」等と段階を踏んで試作機を製作し、開発を進める。

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