総務省「SCOPE」採択研究｜環境負荷低減に貢献する「車載ワイヤーハーネスレス統合技術」を開発

車両内の無線通信は、電波干渉による通信速度の低下や途絶などに課題があり、信頼性を担保する必要がある。その解決策として、短パルス（※1）で電波干渉に強い無線通信方式であるUWB（Ultra Wideband ※2）を使用。さらに電波干渉を防ぎ、無線通信間の混線を低減するために独自の無線通信アルゴリズムを開発した。

無線で正しく通信できなかった場合には、各電子機器が正しく連携し動作できるよう有線でバックアップする冗長システムを構成した。有線通信は、車にとって必須である電源線に通信データを載せる電力線通信方式PLC（Power Line Communication）によって、有線の資源を有効活用している。

従来のワイヤーハーネス（※3）をこの「車載ワイヤーハーネスレス統合システム」に置き換えることで、車両の軽量化による走行時のCO2排出量削減や省スペース（車室空間の確保）、省資源、生産コストの低減、ワイヤーハーネス取り回しのための設計工数削減など多くの効果が期待できる。

【背景】

車の電子化・高機能化に伴い、電子機器同士をつなぎ合わせるワイヤーハーネスが年々増加。今後は自動運転化への対応により、配線量・重量が劇的に増加すると予想されている。車両重量増によるCO2排出量の増加や、配線スペースが増えることによる車室空間の圧迫が懸念される。

この技術は自動車に留まらず、航空機、宇宙航空機、船舶など様々なモビリティへの応用が期待できるという。

【研究概要】

テーマ：車載ワイヤーハーネスレス統合システムに関する研究
実施時期：令和3年5月から令和5年3月まで
実車評価の対象範囲：ヘッドランプやワイパーなどのボディ系ワイヤーハーネスを対象に無線への置き換えを検討。車両への搭載が想定される位置で、UWB/PLCの性能評価を実施。
実車評価の成果：屋内の試験室で、路面走行環境を再現するシャーシダイナモを利用し、様々な走行状態で通信状況を計測。UWB/PLCとも、車載化で想定される通信品質を達成できることを確認。
今後の見通し：飛行機や船舶など、広くモビリティへの応用も視野に入れ研究を継続。

【3者の役割】

神戸大学：有線／無線連携パケットスケジューリングアルゴリズムを開発。混線を防ぐために、制御に影響を与えない範囲でデータを集約し、通信量を減らすスケジューリング(パケットの優先順を制御)を実現。送信パケット数16％削減を達成。

国際電気通信基礎技術研究所（ATR）：車両の電源線に適したPLCを開発し、通信速度2Mbpsを達成。走行状態に応じて車内の電圧が目まぐるしく変化する難しい環境下、データの伝搬状況に応じて適切な周波数を選択できる機能を実装した。

デンソーテン：車載環境に適したUWB干渉評価・対策技術を開発。様々な走行状態でノイズによる影響を測定し、通信品質を評価。ノイズ干渉に耐える通信技術を開発することで、強力なUWB干渉下におけるデータ損失率0.1%以下を達成。


本研究開発は総務省SCOPE（※4）（受付番号JP215007006）の委託を受けたものである。

※1 短パルス：パルス幅が1ns以下の短い信号
※2 UWB（Ultra Wideband）：比帯域幅が中心周波数の20％以上、または500MHz以上の極めて広い帯域幅を利用して送受信を行なう無線通信方式
※3 ワイヤーハーネス：電源供給や信号通信に用いられる複数の電線を束にして集合部品としたもの
※4 SCOPE：総務省の戦略的情報通信研究開発推進事業

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