ソニー・ホンダモビリティ・川西泉氏に訊く「ソニーがクルマをつくるということ」
TEXT:本田雅一(Masakazu HONDA)
PHOTO:Sony Honda Mobility
PORTRAIT:山上博也(Hiroya YAMAGAMI)
目次
“ソニーがEVを作る”と初めて聞いた時、あなたはどのようなクルマになることを想像しただろうか。
長年、ソニーという企業を取材してきた筆者だが、2020年1月に米ラスベガスでVISION-Sコンセプトが発表された時は、車内でのデモンストレーションを受けた後にも、ソニーがどこまで本気でEVを作ろうとしているのか。まだ半信半疑だったことを思い出す。
もちろん、第一線で魅力あるエレクトロニクス製品を開発してきたソニーだ。
フロントエリアの両端にまで広がるパラノミックスクリーンを用いたユーザーインターフェイス、飛行機の操縦桿を想起させるステアリング、最新の360度立体音響を再生できるサウンドシステム、プレイステーションと5G接続してのリモートプレイなど、パッセンジャーを楽しませる術に長けていることは当然。
さらには、スマートフォンと連動しながら、ドライバーを迎え入れる際の演出にこだわるなど、さまざまな点で“コンシューマエレクトロニクス”におけるトップ企業としてのアイディアが盛り込まれていた。
時を経て、VISION-Sは公道でのテストを重ねつつ開発が続けられ、最終的にはホンダとの提携でソニー・ホンダモビリティが誕生。わずか3ヶ月後の2023年1月、ホンダとの新しい組織を作りながら、量産試作機第一号を作り上げ「AFEELA」ブランドが発表された。
ホンダとの提携を模索し始めたのは、2022年に入ってからというから、驚くばかりのスピードでプロジェクトが進んできたことになる。
このプロジェクトをソニーグループで推進してきたのが川西泉氏だ。ソニー・ホンダモビリティ(SHM)社長兼COOであり、ソニー・モビリティ社長も兼務する川西氏は、“困難なプロジェクトを短期でまとめ上げる”スペシャリストである。
現在でいう“スマホ”の要素を先取りした携帯型プレイステーション(PSP)を作り上げ、ソニー技術の集大成としてスマートフォンXperiaブランドを構築し直した。かつて事業終了となっていたAIロボティクス事業のリブートも担当して第二世代aiboも生み出している。
半導体、OS、ソフトウェア開発ツールなどをプラットフォームとして提供し、コンシューマ向けにAI、ロボティクス技術を応用して製品に組み込んでいく。多様な技術を洗練された製品へと落とし込む術に長けた川西氏が、どのような視点で“次世代EV”を見つめているのか。
AFEELAの受注開始は2025年とまだ先の話だ。“SHMのAFEELA”ではなく、ソニーのEVプロジェクトを率いてきたエンジニアとしての川西氏が考えるEV像について迫ってみた。
“EVプラットフォーム”としての基礎体力を鍛え上げる.
ソニーは家電業界においても“プラットフォーム”を築き上げることに長けた企業である。川西氏自身、PSPでその経験を積み、近年はaiboにおいてハードウェア販売だけにとどまらないプラットフォーム事業の形を作り上げた。
“売り切り”の製品ではなく、ハードウェア、ソフトウェア(OS)、それらの上で動作するアプリケーションや連動するサービスも含め、常にアップデートを繰り返し、成長していく。
5Gネットワークに接続された次世代のEVでは、当然、求められるメンタリティだが、だからこそ“自動車としての基礎体力”が重要だと川西氏は話す。
「電気モーターになり電気で動くようになったとしても、自動車を構成する要素や価値は変化しません。内燃機関とトランスミッションが置き換わったとしても、ドライバーが受け取る自動車の価値は大きくは変化しません。では何が“最も大きな価値”なのか。それは“安全性と信頼性”です」
川西氏が挑戦しようとしているのは“業界トップクラスの自動車”を、次世代EVとして継続的に成長するプラットフォームとしてまとめ上げることだ。自動車の中で“プラットフォーム”といえば車体設計基盤を想起するだろうが、ここで話題にしているのはEVを取り巻くサービスやソフトウェアで実現する機能などを含んだものだ。
「業界トップの安全性、信頼性を“発売時”に実現するだけではなく、その品質を維持し続けることを目指して開発しています。我々が優先していることは“突飛なアイデアで驚かせる”ことではありません。現実的で実用的なアプローチで、安全性と信頼性を届けます。それこそが自動車におけるすべての基本、スタート地点になるからです」
川西氏の話の中に出てきた“最高品質を維持し続ける”ことが、実はもっとも大きなテーマだ。製品としてのEVを開発・販売するSHMとしても、EV向けの基礎技術を開発しているソニー・モビリティとしても、それぞれの存在意義を問う大きなテーマと言える。