電動化のメリットはCO2削減だけじゃない!みんなに優しい小型船舶用モーター
ホンダが松江城のまわりで進める電動推進機の実証実験
「真夏のクソ暑い時期に観光船ルートを100周する耐久試験をやったんですよ!」と笑うのは、本田技術研究所で小型船舶用の電動推進機プロトタイプ開発を担当した竹重隆正アシスタントチーフエンジニア。ホンダは二輪や四輪だけでなく、水上におけるカーボンニュートラルの実現も目指している。この取り組みもその一環だが、同社としては“異例のプロジェクト”だという。
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ホンダは昨年、出力4kWの電動推進機を開発。島根県の松江市観光振興公社が運営する「堀川遊覧船」(長さ約8m、幅約2m、重さ約900㎏)に搭載し、8月から商品性確認のための実証実験を行っている。現在はホンダのエンジニアが同乗しての試験運行だが、間もなく観光客を乗せた運用が始まる。
過去に例がない試作機の外部提供
松江市で稼働している電動推進機には、電動三輪スクーター「GYRO e:」(ジャイロ イー)に搭載しているモーターとPCU(パワーコントロールユニット)が組み込まれ、船舶用途に最適化されている。電力は、脱着式可搬バッテリーの「Mobile Power Pack e:」(MPP:モバイルパワーパック イー)から供給される。プロペラに回転を伝えるギヤは、パートナーのトーハツとの共同開発だ。
実証実験では、松江城周辺の堀を10人乗りの遊覧船で約1時間かけてまわる。およそ4キロの「ぐるっと松江堀川めぐり」で使用されているこの電動推進機は、試作機の段階だという。ホンダでは、プロトタイプに社外の“お客さま”を乗せたことは過去にないという。同社としては異例のプロジェクトだ。「ホンダにとってはすごく特殊なんです。『万が一』を一つ一つ潰しながら、安全面には本当に気を遣って開発しました」と開発部門のリーダーである竹重氏は言う。
松江市は環境省から「脱炭素先行地域」に選定され、地域全体でカーボンニュートラルの実現に取り組んでいる。観光の目玉である堀川遊覧船の電動化も、以前から検討が行われていた。そんな中、2年ほど前にホンダが電動推進機のコンセプトを発表し、今回の実証実験に発展した。少しでも早い電動化に向けて、既存のユニットを活用しながら異例のスピードで開発を進めたようだ。
課題①駆動ユニットの冷却
通常はエンジンが収まる場所にある筐体の内部に、モーターとPCUから構成する駆動ユニットを設置している。回転はドライブシャフトからピニオンギヤを通してプロペラに伝えられる。基本的な構造はエンジンを使用する船外機と変わらないが、苦労したのは冷却だという。
「船外機って、クルマが1速ギヤで坂道をずっと登っているような使い方をします。負荷が高いので、モーターとPCUの冷却に一番気を遣いました。ジャイロ イーのモーターとPCUは、そのままでは使えません」と竹重氏は言う。