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電気の力で流れを整える:駆動力の階段を作らない「やじろべえ」

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電気の力で流れを整える:駆動力の階段を作らない「やじろべえ」
2組のプラネタリーギヤセットをひとつのケースに入れ、直径の異なるリングギヤの歯が内側に刻まれている。この内部で動力分割とMG2の減速を行なうが、通常のステップATのような締結要素(湿式多板クラッチ)は持たない。

ICE(内燃エンジン)とふたつの発電機兼電気モーターをプラネタリーギヤで繋ぐトヨタのハイブリッド・THSの方式は、片方の発電機の負荷増減と正/逆回転を利用して無段変速を行なう機構だ。しかし、突然エンジンが始動しても駆動力に段差が出ないのはなぜ?

TEXT:牧野茂雄(Shigeo MAKINO)
FIGURE:熊谷敏直(Toshinao KUMAGAI)/萬澤琴美(Kotomi MANZAWA)
TOYOTA/Shigeo MAKINO

遊星歯車(プラネタリーギヤ)機構は、現在のステップ(有段)ATにとって必須の部品だ。駆動力伝達効率に優れた機械式歯車を使い、その組み合わせで変速段を作り出すことができる。

直径と歯数が異なる3つの歯車を並べると、必ず真ん中の歯車が逆転する。同時に歯数の違いによって回転速度が変わる。この仕組みを利用し、ひとつの歯車セットの中で「前進2速・後進1速」という変速段を作ることができるのが遊星歯車機構である。

ただし、ここで変速段を作るためには、任意の歯車の動きを止める装置が必要になる。ステップATの内部には、遊星歯車とともにいくつかのクラッチ/ブレーキ(締結要素と呼ぶ)が組み込まれており、その締結/解放の組み合わせで変速段を作っている。
 
いっぽう、トヨタグループが考案し1997年発売の初代プリウスに初採用したTHS(トヨタ・ハイブリッド・システム)は、遊星歯車機構を駆動力のミックス(混合)と分割に使いながら無段階変速を行なうという独創的なシステムだった。その後バッテリー電圧を昇圧するTHS IIへと進化し、現在はふたつのMG(駆動モーターと発電機)を縦に並べて全体を小型化している。

トップのイラストは本誌が作成したものであり、3代目プリウスのTHS IIを再現している。細かい部品は取り除き、中心にあるユニットだけを描いた。下の図はトヨタの作成による3代目プリウス用THS IIである。3ページ目の図は、さらに簡素化しTHS IIのエッセンスだけを抜き出したもので筆者が作成した。

図のように、先代プリウスまでのTHS IIには遊星歯車機構がふたつある。ひとつは動力分割に使い、もうひとつはMG2の減速に使っている。このふたつの遊星歯車機構を共通のリングギヤで囲った全体をトヨタは動力分割機構と呼んできたが、実際にはICE(内燃エンジン)/MG1/MG2という機械式パワープラントを連結しており、動力混合を行なっている。だから混合・分割機構と呼ぶほうが正しい。

THS-IIの全体構成|イラストはトヨタ公式発表のもの。オレンジの部分が動力分割プラネタリーギヤで、これとMG2減速用プラネタリー(青)を一体型リングギヤで囲んだものが赤い部分。その真下の黄色いギヤは回転方向を変えるカウンターギヤ。左ページのイラストとは左右が逆になる。
プラネタリーギヤの仕組み|歯数の異なる歯車を組み合わせると、歯が少ない(直径が小さい)歯車は速く回り、歯の多い(直径が大きい)歯車はゆっくり回る。これが増速と減速。3つの歯車を並べると、そのうちのひとつは必ず入力歯車とは反対の方向に回る。これがプラネタリーギヤの原理。

最大の特徴は、遊星歯車機構なのに締結要素を持たない点だ。通常、遊星歯車は「どこかの歯車またはプラネタリーキャリア(遊星=プラネットをリングギヤの内周に3〜5個等間隔で並べるための保持具)」の動きを止めて変速ギヤ段を作り出す。しかしTHS IIには締結用がなく、「どこかの歯車を止める」という発想がない。つねにICE/MG1/MG2は繋がっていて、クルマを走らせるための動力をリングギヤから出力している。

いま改めてハイブリッドを復習する

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