CVTはガラパゴスなのか? 無段変速のメリットとデメリット

日本市場において、販売台数の多くを占めるコンパクトカー/軽自動車のトランスミッションは圧倒的にCVTが多い。MTは言うまでもなく、ステップATでさえ「運転したことがない」層が今後はより多くなることも考えられる。どうしてこのような特異なマーケットが生み出されたのだろうか。
TEXT:安藤 眞(Makoto ANDO)PHOTO:SUBARU/HONDA/NISSAN/NSK/MFi FIGURE:NISSAN
内燃機関を動力に使用するクルマにとって、トランスミッション(変速機)は必須の存在。エンジンの低回転域ではトルクが細いため、減速してトルクを増幅しないと加速できないし、回転数の上限もアイドリングの10倍程度のエンジンがほとんどだから、ギヤが1段だけでは発進時の10倍以下の速度しか出せない。そこで、車速や負荷状態に応じて減速比を変えられる機構、トランスミッションが必要となるのだ。
ではトランスミッションの理想形はどんなものか?といえば、速度も負荷状態も連続的に変化するという性質上、変速比も連続無段階に調整できるものであるべきで、これを英語で書けば、Continuously Variable Transmission、すなわちCVTである。
ところが現実には、自動車用にCVTが普及しているのは日本だけ。欧米のメーカーはなぜ、CVTを採用したがらないのだろうか。それを解明するには、CVTの得失を知るのが近道だ。

日本、欧州、北米の各地域の工場で2019年に生産された車両台数をトランスミッション別でまとめたもの(データ:MPL調べ)。ハイブリッド専用TMとは、トヨタTHS IIや日産e-POWERなど、通常のトランスミッションとは構造が大きく異なるものを指している。数値は地域ごとの生産台数なので、必ずしも販売台数(=支持率)を反映しているわけではないが、こうして比べてみても、日本のCVT比率が突出して高いことがわかる。北米生産分のほとんどは北米で販売されており、それなりに支持が広がっていることが現れている。欧州では依然としてMTが強いが、ATとDCTが拮抗していることに注目したい。
CVTの最大のメリットは、減速比が連続可変であること。だから速度が変化してもエンジンの熱効率が高い領域を維持しやすく、燃費を高めることができる。また急加速時には、まず最高出力発生回転数までエンジン回転が上がるようにプーリー比を落とし、そこから徐々にハイレシオ側に振っていけば、最高出力を維持したまま加速することができる。
ところが、そのような制御を行なうと、エンジン回転数と速度変化の相関が一定でなくなる。こうした特性は、とくに北米で「ラバーバンドフィール」と呼ばれて忌避されており、北米市場にCVTが定着しなかった理由として、いつでも真っ先に挙げられる。
ただし現在では、北米市場でもCVTを搭載した日本車は、スバル車を筆頭に徐々に認められ始めている。これはラバーバンドフィールが目立ちにくくなる制御を開発したことによるもので、急加速時には有段ATのようなステップ制御を行ない、通常加速時でも、エンジン回転数の変化と加速感のズレをドライバーが違和感として覚えないレベルに抑え込むことで、ラバーバンドフィールはほとんど払拭されている。

下の図版は2006年に日産が発表したもの。CVTは減速比が連続無段階であるため、エンジンの熱効率が最大になる負荷領域や、最高出力発生領域を維持したまま、車速を変えることができる。しかしこのとおりの制御を行なうと、車速変化とエンジン回転数の相関が不規則に変わる「ラバーバンドフィール」が生じるため、近年は急加速時には有段AT的な制御を入れるようになった。