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レヴォーグのサスペンションを正確に動かすために:スバルのエンジニアにきくボディ/シャシー設計の妙

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レヴォーグのサスペンションを正確に動かすために:スバルのエンジニアにきくボディ/シャシー設計の妙

2016年にインプレッサで登場したスバルのプラットフォーム、SGP。そのSGPがレヴォーグで大きく進化を遂げた。ボディ/シャシーの高剛性化もさることながら、進化を支える要素として見逃せないのが、サスペンションに対する新たな取り組みだ。

TEXT;髙橋一平(Ippey TAKAHASHI) PHOTO;山上博也(Hiroya YAMAGAMI) FIGURE;SUBARU

【CONCEPT】ボディ/シャシーの高剛性化で見えてきたこと

レヴォーグにおける大きなトピックのひとつが、STI Sportグレードに採用された電子制御ダンパーだ。そのシステムはZFによるもので、このところ国内の他メーカーでも採用が広がっているものだが、この電子制御ダンパーが採用されたレヴォーグ(STI Sport)で印象的だったのが、制御の存在を感じさせない極めて自然な乗り心地だ。というのも、この電子制御ダンパーは単なるセレクト機構ではなく(速度などの走行条件に応じて減衰力を自動で切り替えるものを含む)、サスペンションへの入力に対して瞬時に減衰力を変化させるという制御で、乗り心地と安定性の両立を可能にするというアクティブサスペンション。つまり、走行中は常に制御が介入しているはずなのだ。

かつては違和感を拭い去ることが難しいとされていたアクティブ制御を、ここまで手懐けることが可能になった背景には、電子制御技術の進歩があるわけだが、じつはそれ以上に重要ともいえるのがボディ/シャシーの高剛性化と、サスペンションを正確に動かすという技術。ボディ/シャシーについては、すでにSGP(スバルグローバルプラットフォーム)が素地としてあったが、スバルがレヴォーグのサスペンションで目指したのは、ミリ単位で動き始める際の微小な動作を手中におさめるという新たな領域に足を踏み入れるものだった。電子制御ダンパーはもとより、ハンドリング、さらにはアイサイトXにおける制御品質の向上まで、レヴォーグを読み解くうえでカギとなる部分である。

【BODY】重要なのはボディ剛性の連続性

レヴォーグのボディ/シャシーはSGPを基にしながらさらに大きく進化を遂げている。その代表的なひとつがフルインナーフレームと呼ばれる新構造で、従来モデルと比べ大幅に剛性が向上していることはもちろん、後部に大きな開口部を持つワゴンボディであるにもかかわらず、インプレッサのセダンボディを上回る剛性が確保できているという。

フルインナーフレーム構造は、パイプのような閉断面の部材で構成される立体的なフレームを持つボディ構造で、レヴォーグではあらかじめ組み立てたフレームにボディパネルを接合していくという工法が新たに採用された。これまでもフレーム状の構造は盛り込まれてはいたが、フレーム部の部材同士の接合が完全とはいえない部分があった。フルインナーフレーム構造ではすべての部材を強固に接合、フレーム部分だけでも“自立”できる一体構造としている。目指したのは、おもにサスペンションからの入力を吸収や減衰、そして遅延を最小限に伝達するための、連続性を持った剛性の確保だ。

こうした構造があらゆる面でメリットとしてはたらくことは、SGP以前から基礎研究を通して認識していたが、フレーム部を構成する部材を分割された状態でボディパネルと接合してから、最後にすべての部位を集めて接合するというこれまでの工法では、フレームの接合部まで溶接機が届かない場所も少なくないという制約があった。フルインナーフレーム構造に採用された新工法は、この制約を解決するためだったわけだが、それには大きな投資のともなう生産設備の変更という決断が必要だった。

「インプレッサでSGPという骨格をしっかり作っていこうという取り組みを始めたことで、開発の現場だけでなく、社内全体でその効果が実感できた、きちんと理解できたというのが大きいと思います。(ボディ/シャシーは)基本的に減衰項を持っていない部品なので、剛性はあったほうが良いんです。世間には剛性が高すぎると良くないという意見もありますが、確かに補強などで局部的に剛性を高めても周りに弱い(剛性が低い)ところが残っていると、弱いところに集中してしまうということが起きて違和感に繋がります。大切なのは剛性の高い低いよりも連続性です」(車両開発統括部・中路氏)

動剛性の比較
静剛性の比較
SGP(スバルグローバルプラットフォーム)を基に、フルインナーフレームと呼ばれる新構造を採用したレヴォーグのボディ。その名のとおりパイプ状の部材を張り巡らせ、フレーム構造を形成するというもので、基本的なコンセプトはこれまでのSGP採用モデルと同様だが、同車ではすべてのフレーム部をしっかりと繋げることで、より完全で連続的な構造を実現。これにより静的な剛性はもちろん、動的な剛性(≒共振周波数)も大きく向上している。

【SUSPENSION】ブッシュの振る舞いを手中におさめる

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