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「吸気」を明らかにする。さまざまに変化する状況、狙うは「いつでもマキシマム」。

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「吸気」を明らかにする。さまざまに変化する状況、狙うは「いつでもマキシマム」。

無限にある空気、使いたいのはそのうちの酸素。有限の容量であるシリンダーまで、いかに効率よく取り込むか。運転状況が刻一刻と変化するエンジンの上手な呼吸の仕方について、ガスの気持ちから考えてみる。

TEXT:世良耕太(Kota SERA) PHOTO:TOYOTA/遠藤正賢/AISIN

インテークマニフォールド(吸気管)の設計というと、とかくWOT(ウォット=Wide Open Throttle:スロットル全開。そのエンジン回転数での最大トルクを発生する運転状態)での性能に目を向けがちだ。カタログに載る性能曲線図をどのように描きたいと考え、それを達成するために最適な管径なり管長なりを考慮する観点で捉えてしまう。トルクを効率的に発生させるため、吸気の動的効果である慣性過給(各吸気ポートの気柱を利用)と共鳴過給(吸気ポートより上流の吸気管の気柱を利用)を利用するが、その効果を最大限発生させることが吸気管にとって重要なのは事実。だが......。

「空気がたくさん入ることが必ずしも効率がいいとは限りません」と、アイシンで吸気系の開発に携わる伊藤篤史氏は語る。「慣性過給を合わせたからパーシャルスロットルの効率もいいかというと、必ずしもそうではありません」

トルクや出力だけではなく、燃費を考える必要もある。どちらにせよ重要なのは、気筒分配のばらつきを抑えることだ。4気筒なら、1番から4番まで、WOTであってもパーシャルであっても、各気筒に等分配することが重要になる。

「空気の分配が悪いと、A/Fを14.7で揃えたいのに、ある気筒は14になって、別の気筒は15.5になってというようなことが起きて最適な点火時期で運転できず、効率が悪くなります。空気をたくさん流したときも、パーシャルでスロットルが半開きのときでも、EGRも含めて各気筒に等分配になるような三次元的な流れ解析をし、吸気系を設計します」

定常流で確認するだけでなく、ピストンの上下運動にともなう脈動があるなかで空気はどうふるまうのか。綿密に検証しつつ諸元を決めていくことになる。吸気管にまつわるさまざまな疑問について、伊藤氏に回答いただいた。

Question;
エンジンが空気を吸うという現象について、究極を考えれば直管形状がいちばん効率がいいと考えてよろしいでしょうか。かりにそうだとすると、エンジンルーム内で折り合いをつけるために曲率を持たせる管の設計は、どのように折り合いをつけているのでしょうか。

各気筒での吸気量ばらつきを最小にする

直管形状がいいかと問われればそのとおりで、直管が空気抵抗ミニマムという考えは正しいと思います。ただ、当然のことながら実際のエンジンルームにはスペースの制約があります。前にはラジエーターがあり、上にはエンジンフードがある。いろんな物に囲まれているので、限られたスペースの中でレイアウト可能な吸気管をどうやって曲げたら一番性能が出るのか、エンジン全体を見るようなシミュレーションで流れを解析したり、インテークマニフォールド単独で圧力損失を確認したりします。各種CFDを使って吸気流量の最大化を図りつつ、気筒間のばらつきがあってはいけないので、それぞれの気筒で最小の吸気量ばらつきになるような設計をします。

製品事例:セルロースナノファイバー使用の樹脂マニフォールド
樹脂材料の補強繊維をグラスファイバー(GF)からセルロースナノファイバー(CNF)に置換することで、従来品に対し10%以上の軽量化を達成する軽量インテークマニフォールドの提案。

Question;
共鳴過給と慣性過給について、たとえば2000ccの4気筒エンジンで3000回転にトルクピークを定めるとした場合、管径と管長はどのように設計しているのでしょうか。また、そのエリアを外れている運転状況では、ガスの流れは非効率的なものになっているのでしょうか。

吸気管だけを見ても効果は予測できない

著者
世良 耕太
テクニカルライター

1967年東京生まれ。早稲田大学卒業後、出版社に勤務。編集者・ライターとして自動車、技術、F1をはじめとするモータースポーツの取材に携わる。10年間勤務したあと独立。モータースポーツや自動車のテクノロジーの取材で欧州その他世界を駆け回る。

部品サプライヤー・自動車メーカーのエンジニアへの数多くの取材を通して得たテクノロジーへの理解度の高さがセリングポイント。雑誌、web媒体への寄稿だけでなく、「トヨタ ル・マン24時間レース制覇までの4551日」(著)「自動車エンジンの技術」(共著)「エイドリアン・ニューウェイHOW TO BUILD A CAR」(監修)などもある。

興味の対象は、クルマだけでなく、F1、建築、ウィスキーなど多岐にわたる。日本カー・オブ・ザ・イヤー2020-2021選考委員。

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