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EVだってラジエーターは必要——バッテリーと駆動制御系統を上手に冷やすために

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EVだってラジエーターは必要——バッテリーと駆動制御系統を上手に冷やすために
Honda eの熱交換器

電動車に対する誤解のひとつが「冷却系が不要になる」ということ。電動車は燃焼エネルギーを使用しているわけではないし、掃除機やテレビなど、身近な家電製品に冷却構造が付いているものはないから、誤解されるのもやむを得ないかも知れない。しかし、実際には電気で動かす部品ほど、デリケートな温度管理が必要になり、EVにラジエーターは欠かせない。電動車に対するありがちな誤解を、HONDA eのシステムを通じて、解いていくことにしよう。

TEXT:安藤眞(Makoto ANDO) FIGURE:HONDA

「外観を見ただけで電気自動車とわかるようにしたい」という思惑があるのか、電気自動車(BEV)にはフロントグリルを目立たないようにデザインしたものが多い。しかし、エネルギー源を何に求めようとも、効率が100%にならない限り、損失分が最終的には熱になる。とくに電気の場合、抵抗が発熱に直結する。

しかも電機部品は、内燃機関より熱に弱いものが多い。たとえば電流や電圧の制御に使用する半導体では、150°Cを超える温度が基本的に禁忌とされている。モーターに使用するネオジム磁石は、一般に約320°Cでキュリー温度(磁力が失われ、冷えても元に戻らなくなる“減磁”を生じる温度)に達するとされている。エネルギー源となるリチウムイオン電池も、80°Cを超えると熱暴走のリスクが高まる。

こうしたことから、電気駆動部品にも冷却構造は必須となるのだが、内燃機関より、むしろ厄介な点がふたつある。ひとつめは、最適管理温度がコンポーネントによって異なること。すなわち、それぞれ独立した冷却回路が必要になる。もうひとつは、管理すべき温度が低いこと。熱は温度差が大きいほど効率よく移動するが、大気温と大差のない温度で管理する必要があるリチウムイオン電池は、特に冷やしにくいのだ。

「IPU(Intelligent Power Unit=リチウムイオン電池やECU、ジャンクションボードを一体化したもの)の冷却には、水冷式を採用しています。管理水温は高くても50°Cまで行きません。外気との温度差が小さく、冷やしにくい点については、ラジエーターを通過する冷却風の風速を高めることで対応しています」(BEVシステム研究開発担当:白田規泰氏)

「ラジエーターはコンパクトカー並みのものを付けています。バンパー下の小さな穴から取り込んだ空気を、そこに均等に当てるため、導風ダクトを設けています。ただし条件が厳しくなるのは、気温が高い環境で高出力を出したときや、急速充電を続けたときなので、四六時中、冷却が厳しいということではありません」(Honda e 開発責任者:一瀬智史氏)

バッテリーを冷やせ!
リチウムイオン電池の理想的な動作温度は、15〜25°C。40°Cを超えたあたりから容量低下が顕在化し始め、80°Cを超えると電解液と負極が反応して熱暴走が始まる。大気温と変わらない温度で、かつ狭い温度領域に収め、各セルの温度を均等化しなければならないという点では、内燃機関の冷却より繊細な技術が要求される。しかも、高出力を取り出すほど発熱量は大きくなるから、冷却系設計の巧拙は、バッテリー出力をどこまで使えるかも左右する。

IPUの冷却システム
IPU(主にバッテリー)の冷却には、水冷式を採用する。モジュールごとに冷却水配管を通し、各セルを間接的に冷却している。車載充電器やDC-DCコンバーターの冷却も、この回路で行なっている。また、リチウムイオン電池は氷点下では出力が低下するため、冷却水回路に電熱式ヒーターを加え、低温時にはバッテリーを温める制御も行なっている。
著者
安藤 眞
テクニカルライター

大学卒業後、国産自動車メーカーのシャシー設計部門に勤務。英国スポーツカーメーカーとの共同プロジェクトや、SUVの電子制御油空圧サスペンションなどを担当した後、約5年で退職する。その後しばらくはクルマから離れ、建具屋の修行や地域新聞記者、アウトドアライター兼カメラマンをしていたが、気付いたら自動車技術解説の仕事がもっとも多くなっていた。道路交通法第38条の認知度を高める会会長(会員は本人のみ)。

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