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【海外技術情報】メルセデスベンツ・トラック:航続距離500km、連結総重量44tの長距離輸送向け大型EVトラック『eアクトロス600』を世界初公開!

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【海外技術情報】メルセデスベンツ・トラック:航続距離500km、連結総重量44tの長距離輸送向け大型EVトラック『eアクトロス600』を世界初公開!

メルセデスベンツ・トラックが2023年10月10日、同社初となる長距離輸送向け大型EVトラックシリーズ『eアクトロス600』を世界初公開して、2023年中の受注開始と2024年末の量産開始を発表した。
TEXT:川島礼二郎(Reijiro KAWASHIMA)

メルセデスベンツ・トラックが大型EVトラックの開発を始めたのは2020年。2022年のIAAトランスポーテーションエクスポでプロタイプが発表されていたが、今般『eアクトロス600』というモデル名が与えられて世界初公開された。この大『eアクトロス600』によりメルセデスベンツ・トラックは、テクノロジーと持続可能性、デザイン、さらに運送事業者の収益性について、新しい標準を定義することを目指す。

『eアクトロス600』は600kWhを超える大容量バッテリー(モデル名にある600の由来)と、自社開発した高効率なeアクスルにより、航続距離500kmを達成した。メルセデスベンツ・トラックによると、同社顧客の長距離移動の約60%は片道走行距離が500km未満であることから、フリートの拠点と積み下ろし地点に充電インフラを用意すれば、ドライバーの休憩中に中間充電を行うことで、1日1,000kmの往復輸送が可能になる。

一方で、すべての用途でEVトラックをヨーロッパ全土の長距離輸送で使えるようにするには、公共充電インフラの継続的な拡張が不可欠である、という。『eアクトロス600』は最大400kWのCCS充電に加えて、将来はメガワット充電(MCS)にも対応する。メーカー間で標準化され次第、MCSテクノロジーは利用可能になる。そうなると、約30分で充電率20~80%まで充電できる。

『eアクトロス600』のセミトレーラー牽引用のセミトラクタ2軸4×2モデルは最大総重量44t。最大積載量は約22t。また単車型とフルトラクタ車型の3軸6×2モデルもラインナップされる。『eアクトロス600』は現行モデル『アクトロス』をベースに開発されが、空気力学的な形状を備えた新しいデザインが採用された。

メルセデスベンツ・トラックは、長期的には『eアクトロス600』が長距離輸送セグメントにおいてディーゼルトラックの大部分を置き換え、新たな基準を確立する、と主張している。2023年中に受注を開始し、量産開始は2024年末を予定。既に約50台のプロトタイプ車両が製造されており、そのうちの何台かは顧客による実用テストにも投入される。

ライフサイクル全体にわたりディーゼルと比較して80%以上のCO2を 削減

CO2排出量は使用される電源構成に大きく依存するが、現在のヨーロッパのエネルギー構成では、『eアクトロス600』は現行の『アクトロス』と比較して約40%のCO2 削減を達成する。完全に再生可能エネルギーを使用した場合、原料採取から10年間の製品ライフサイクル全体で80%以上のCO2削減を実現する。これは約370tまたは775tのCO2節約に相当する。

LFPバッテリーを採用

『eアクトロス600』が搭載するのはLFP(リン酸鉄リチウム)バッテリー。207kWhのバッテリーパックを3つ搭載するから、合計容量は621kWhである。LFP耐用年数が長い。バッテリーの製造元はCATLであると言われている。メルセデスベンツ・トラックのエンジニアは、車両とコンポーネントの耐久性に関して、現行『アクトロス』と同じ要件を満たすように設計した。これは10 年間の稼働で最大120万kmを走行できることを意味する。この期間使用した後でも、バッテリーの健全性状態は80%を維持する。さらに、LFPでは容量の約95%を使用できるメリットもある。これにより同じバッテリー容量で、より長い航続距離を実現した。

革新的な駆動テクノロジー:予測パワートレインコントロール(PPC)

メルセデスベンツ・トラックは『eアクトロス600』を長距離輸送に使用するため、2つの電気モーターと4 速トランスミッションを備えた、新しい800V eアクスルを開発した。電気モーターは400kWの連続出力と600kWのピーク出力を生成。強力な加速と、高い快適性、それに高い動力性能を保証する。もちろんエネルギー回生も可能であり、回収した電気エネルギーはバッテリーにフィードバックされ、駆動システムで再び利用される。オプションとして、デジタルコックピットのタッチスクリーンでワンペダル運転を有効にすることもできる。

また『eアクトロス600』は既に同社製品に搭載している予測パワートレインコントロール(PPC;Predictive Powertrain Control)を搭載する。クルーズおよびトランスミッションコントロールを備えており、電気駆動システムに合わせて特別に調整されている。PPCは地形、コース、交通標識を自動的に考慮して、最も効率的な運転スタイルを実現する仕組み。ナビゲーションシステムからのルート情報も追加され、前方の道路状況をより正確に認識できるようになった。これによりドライバーは不必要なブレーキ、加速、シフトを回避して、バッテリーのエネルギーを可能な限り効率的に活用することができる。

著者
川島礼二郎
テクニカルライター

1973年神奈川県生まれ。大学卒業後、青年海外協力隊員としてケニアに赴任。帰国後、二輪車専門誌、機械系専門書の編集者等を経て独立。フリーランスの編集ライターとして、テクノロジーをキーワードに執筆している。

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