インドの自動車産業はどう動く|タタの市場戦略はいかに
アジアにおいて、自国向けに車を供給するTier2国を脱してポストTier1国入りを窺う国も垣間見える。
三菱とダイハツを頼って自国メーカーを育成したマレーシア、日系メーカーの輸出拠点に成長したタイ、EVの覇権を握りつつある中国。
そして中国と共に無視できないのが、インドだ。
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タタ・ナノという教訓
インドのタタ・ナノは2008年に登場し、2018年まで市販された小型乗用車だ。それまでインドにおける最廉価モデルはマルチ・スズキ800(スズキ・アルト)だったが、その半額の新車を発売したのだ。
一家全員がスーパーカブのような原付一種・二種に乗るのをやめ、車への乗り換えを狙った提案だった。
全長3メートルで4人乗り、最高速は100キロ弱で、エンジンは約600ccの二気筒。これは中型オートバイのエンジンに近い。
コスト削減は徹底しており、履いているタイヤも原付のように小型。ワイパーは1本、フィアット600のように助手席側のサイドミラーは省略され、エアコンもオプション扱いだった。徹底したコスト削減の思想を根底にもつこの車においては、エアバッグやABSも同様だ。
当時の企画段階では約19万円、販売時は約22万円程度と驚くような値段で販売された。
倒的安価で市場に乗り出したナノだが、売るほどに赤字がかさんでしまったようだ。加えて、走行安全性の不足やエンジンからの出火事故などなどの度重なる不測の事態に苦しみ、売れ行きは芳しくなかったようだ。
さらに時速64kmでバリアに車両の前面の40%をぶつけるオフセット衝突テストに失格するなど安全面ではやはり課題が浮き彫りになっていた。
結果としてナノは2018年に生産を終えた。価格提案は斬新だったが、Tier2国からTier1国への昇格は容易ではないことを示した結果となった。
計画的に自動車を製作、販売する力においては、まだまだ欧米に軍配が上がるのかもしれない。