「脱スポーツ」の後輪駆動:次世代BEVは後輪駆動がメインストリームになる?
内燃機関をパワートレーンとして使う自動車では、いまやコンパクトカーからミドルサイズまでエンジン横置きのFF/AWDモデルが主流を占めている。しかし、この常識はBEVでもそのまま踏襲されるわけではない。モーターやインバーター、そしてバッテリーを車体各部に分散して搭載できるBEVでは、後輪駆動が主流となることも考えられる。
Man Maximum/Mechanism Minimum(M/M)思想をブランドコンセプトとして掲げているメーカーといえばホンダだが、その源流は、英国のエンジニア、アレック・イシゴニス卿が開発したモーリス・ミニに求めることができる。エンジンの下にトランスミッションを潜り込ませたパワートレーンをボンネット下に横向きに置き、前輪を駆動することで、キャビンの前だけでドライブトレーンを完結させ、全長3051mm×全幅1410mm×全高1346mmという小さなボディに、大人4人が乗れるマキシマム・スペースを作り出した。
ほどなくして、伊フィアットのダンテ・ジアコーサが現在のFFレイアウトに繋がる“ジアコーサ式(エンジンとトランスミッションを同軸に並べ、その後方にデファレンシャルユニットを配置して前輪を駆動するもの)”を考案すると、フロントエンジン・フロントドライブ(FF)はM/Mを実現する手法として定石となり、今やCセグメント以下のクルマのほとんどがFFレイアウトとなっている。
しかし、空間効率では最大の合理性を発揮するこのレイアウトも、車両運動性能という点では、最善であるとは限らない。坂路発進性能を確保するために、駆動軸にはある程度の荷重をかけておく必要がある。とくにホイールベースの短いコンパクトカーほど荷重移動の影響を受けやすいから、前後重量配分は60:40から大きく動かすことはできないのである。
フロントヘビーであることは、定常的にアンダーステアが得られるという点で、安全性の面からは好ましい。しかし、旋回初期のノーズの入りは重くなるし、駆動と旋回両方のグリップ力を前輪が負担する都合上、立ち上がり加速でアクセルを踏めるタイミングは後輪駆動より遅くなる。FFにはFFの楽しさがあるのを承知で言うと、クルマを自在に操るという点では、FFはベストなレイアウトとは言い難いのだが、空間効率を最優先しなければならないカテゴリーのクルマはFFにならざるを得ず、ノーズの軽い軽快な操舵感や、アクセルを踏んでクルマを曲げる楽しさは、諦めざるを得なかった。
しかしそれは、パワーユニットが内燃機関である場合の話。BEVが当たり前の時代になれば、覆される可能性がある。
BEVのコンポーネントの中でももっとも質量の大きいのはバッテリー。コンパクトカーでも300kg、大きなクルマなら500kg程度ある。しかも体積が大きく、衝突から保護しなければならないから、搭載できる場所はキャビンの床下に限られる。これだけ重いものがクルマの中心にあれば、それだけで前後重量配分は50:50に近くなる。これでは数10kgの重量のモーターをフロントに置いても、前軸重は60%も確保できず、トラクション性能の点で不利であることは否めない。
そうした目で世界のEVを眺めてみると、ICE車から派生したモデルこそFFレイアウトが多いものの、EV用モデルはRRかAWDが主流であることがわかる。BMW i3やフォルクスワーゲンID.シリーズはRRだし、テスラはほとんどのモデルがAWDである。