電動化時代のステップATのありかた:アイシンの1モーターハイブリッドトランスミッション
アイシンがPSAに供給するハイブリッドトランスミッションがAWF8G30h型だ。8速ATにひとつのモーターを組み合わせるという手法はシンプルにも見える。だが、電気により制御されるモーターと油圧制御のATという、応答性などが大きく異なる両者を組み合わせている。双方が持つメリットを最大限に引き出すべく、そこにはさまざまな工夫が盛り込まれていた。
TEXT:髙橋一平(Ippey TAKAHASHI) FIGURE:AISIN PHOTO:MFi/水川尚由
PSAのDS7クロスバックやプジョー3008GTハイブリッド4に搭載されるプラグインハイブリッドシステム、その中核となるのがAWF8G30h型と呼ばれるアイシン製のハイブリッドトランスミッションだ。FF用の8速ステップAT、AWF80G30型をベースに、トルクコンバーターをモータージェネレーター(電気モーター)に置き換えたもので、同社が長年にわたり手がけている2モーター式(トヨタのTHS)ではなく、P2配置の1モーターハイブリッドとしている点が興味深い(AWDモデルではP4配置のリヤeアクスルも併用)。
「1モーターと2モーターのハイブリッドシステムの棲み分けに明確な区切りはありませんが、比較的車重があって出力の大きいものは1モーターのほうが向いているという判断で採用しています。ただし、2モーターのシステムであれば、ふたつのモーター(ジェネレーター)を利用して、ひとつはエンジン回転の変換、もうひとつは駆動アシストという使いかたができますが、モーターがひとつしかない1モーターのシステムでは、エンジンの回転数を変換するための変速機構が必要になります。また、従来ATのダイレクトな変速フィーリングを踏襲することも特徴のひとつであり、AWF8G30h型が8速ATを備えるのはこのためです。」(田島陽一氏)
AWF8G30h型のコンセプトは、このように明快なものだった。同型はトルクコンバーターに代わるモータージェネレーターの搭載により、軸方向(搭載状態における横方向)に35mm、機電一体状態で上面に据え付けられるインバーターユニットにより、高さ方向に119mm、寸法が拡大されているが、8速の変速要素などは各部ギヤ比を含め基本的に共通となっている。
「通常のコンベ(内燃エンジン向け)のトランスミッションですと、(アクセルオフ時には)エンジンのフリクション分のトルクが掛かるだけですが、1モーターハイブリッドでは“回生を取りにいく”ので、この回転方向においても静粛性を確保するためのチューニングを施す必要があります。
基本的にギヤでは両歯面(正逆両方)それぞれで掛かるトルクに応じて(歯面のプロファイルなどを)設定していますので、この設定“狙い値”を変更するだけですが、そのうえで回生時の効率を稼ぐために、従来ですと駆動歯面のみとしていたラッピング処理を回生側にも施しています。工程は増えるぶんコストは嵩みますが、回生時のギヤノイズ対策も含めて2モーターハイブリッドの時代から蓄積してきたノウハウがありますので、これらを生かすかたちで対応しています。」(関祐一氏)
聞けばもともとAWF8G30型、AWF8G45型などの“Gシリーズ”は当初から電動化対応を視野に開発されていたとのこと。モーター走行を多用するPHEV用ということもあり、AWF8G30h型には電動オイルポンプ(EOP)が搭載されるが、それ以外の油圧制御系を構成する技術要素は共通(エンジン〜モーター間のK0クラッチを制御する“フロントモジュール部”はハイブリッド仕様専用だが、バルブボディのそれ以外の部分は油圧回路、リニアソレノイドともに共通)。
一般にEOPを用いてエンジン停止中の作動油圧を確保する機構では、作動油のリーク量を抑えるなどの工夫がともなうことが少なくないが、そもそもGシリーズでは油圧系の効率向上を図るべく、各部のリーク量は最小限に抑えられているとのことで、この部分においてハイブリッド仕様特有とした“作り分け”はとくにないという。
ちなみに冒頭で紹介した車両が搭載する駆動用バッテリーの容量は13.2kWh、電圧は定格347Vとのことで、モーターにはこのバッテリー電圧がそのまま印加される。つまり昇圧はしていない。PHEVであるこれらでは、バッテリーに蓄えられた電力のみで走行する“プラグイン”走行距離を最大限確保することが求められる。
昇圧を用いないのは、それにともなう変換損失を避けるためだ。損失という意味ではステップATに必須とされる油圧系も足枷にもなりそうなものだが、AWF8G30h型ではモーター走行時でも8速ATとしての変速動作をフルに活用しながら、そのメリットを最大限に引き出す。