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ステアリングシステムに不可欠なラック&ピニオンとウォームギヤとはどんなギヤ?〈基礎からわかる自動車のギヤ講座④〉

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ステアリングシステムに不可欠なラック&ピニオンとウォームギヤとはどんなギヤ?〈基礎からわかる自動車のギヤ講座④〉

ステアリングシステムにも歯車は不可欠だ。現在の自動車ほぼすべてが採用するラック&ピニオン+電動パワーステアリングの歯車はどうなっているか?

ILLUSTRATION:熊谷敏直(KUMAGAI Toshinao)

現代のほぼすべてのクルマのステアリングシステムに使われる「ラック&ピニオン」

 自動車のステアリングシステムは、1970年代半ばからは、「ラック&ピニオン式」の採用例が増えてきた。現在はほぼすべてが「ラック&ピニオン式」だ。ラック&ピニオン式とは、ギヤ機構に、ステアリングシャフトと同軸の小径歯車(ピニオンギヤ)と、それに対応するピッチの歯を刻んだ棒(ラックバー)を用いる、非常にシンプルなステアリングシステムである。ステアリングシャフトとピニオンギヤの回転数は完全に一致し、それに応じた量だけラックバーが左右に移動、ナックルを押し/引く力を伝えることでホイールを操舵する。

 ラック&ピニオン式のステアリングシステムでは、ドライバーがステアリングホイールを操作してタイヤに角度を付けようとする力、その反力としてタイヤ接地面から伝わってくる力、さらにはサスペンションアームの動きに連動するタイロッドからの入力、すべてがピニオンギヤとラックバーの噛合い面にかかってくる。当然、相当の強度が要求され、余裕を見込んだ設定が望ましいが、様々な制約のなかでそれを実現するのは難しい。また、噛合い面の精度は操舵フィールを大きく左右する要素だが、操舵フィールが商品力だけではない重要な要素との認識が低い場合には、コストや作りやすさ優先の構造が見受けられるのが残念である。

ラック&ピニオン(rack and pinion)

ラック&ピニオン(rack and pinion)
遊星歯車機構のプラネタリー(小さい方の歯車を意味するピニオン)ギヤと、リングギヤ(内歯車)を平面展開したラックを組み合わせたのがラック&ピニオンだ。平面展開した内歯車をラックバーと呼ぶ。ピニオンギヤとラックバーの組み合わせにより、回転運動を直線運動に変換することができる。ピニオンギヤとラックバーは、平歯車とすぐばラックの組み合わせに加え、はすば歯車とはすばラックの組み合わせがある。

ラックバーの全容。鋼製の丸棒の一部に歯が切ってある。このラックバーは展示用にめっき処理を施したもの。実際に車両に装着されているものは鋼の地色または表面の熱処理の色のままだ。
歯部分のクローズアップ。これは中立付近とストローク端の間でギヤレシオが変化するタイプ。このラックバー上の歯はコスト削減と生産効率向上のため、切削等ではなく、プレス加工によって成形されたものだ。サプライヤーごとにさまざまな工夫を用いて、必要な精度を確保している。

電動パワーステアリングの減速用で使われるウォームギヤ

ウォームギヤ(worm gears)

ウォームギヤ(worm gears)
ウォームギヤは大歯車と小歯車のペアを指し、大歯車をウォームホイール、小歯車をウォームと呼ぶ。大きな減速比をとることができるのが特徴だ。歯はねじのような連続形状をしており、実際、ねじを切るように作る。ウォームギヤは歯面のすべりが大きく焼き付きが起こりやすいので、ウォームとホイールの両方を鋼製にするのは難しく、ウォームホイール側に柔らかい材料を用いるのが一般的。焼き付かないようにする特殊な潤滑油の配合も欠かせない。

ラック&ピニオン+電動パワーステアリング :コラムアシスト式電動パワーステアリングの場合、アシスト用モーターからの駆動力は減速機構を介してステアリングシャフトに伝わるが、その減速機構にウォームギヤを使うのが一般的。ピニオンアシスト式やデュアルピニオンアシスト式も同様。ホイールは一般的に樹脂だ。ステアリングシステムは、最もウォームギヤが使われる分野か。他の分野と同様、製造コストの観点が重要視される。

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