LFPバッテリーによって進むEVの低価格化と、合成燃料が切り開くエコカーの未来
近年、世界各国でカーボンニュートラルへの取り組みが行われている。中でも世の二酸化炭素排出量の多くを占める自動車の脱炭素化は現代社会の大きな課題だ。
その解決策としてEVが推し進められているものの、ガソリン車と比べて高額な車両価格が普及を妨げる足枷となっているのは言うまでもない。
しかしながら、2020年BYDが独自開発したLFP(リン酸鉄リチウムイオン)バッテリーの登場により、これまでEVの製造コストの大部分を占めていたバッテリーのコスト低減を実現。これによりEVの低価格化がはじまった。
そして2023年、EUが合成燃料の使用を条件にエンジン搭載車容認へと方針転換したことにより、内燃自動車が存続する可能性も生まれたのだ。
現時点でこれからの自動車の在り方として有力なのは価格競争が進むEVと合成燃料の二つと言えるだろう。EVと内燃自動車、一見すると異なる両者が共存する可能性はあるのだろうか。
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世のEV市場を牽引するBYD、LFPバッテリーを搭載した「DOLPHIN(ドルフィン)」を発表し低価格化を先導
近年中国市場は低価格EVの隆盛により、世界のEV業界をリードする立場にある。その流れを先導するEVメーカーがBYDだ。同社は2023年に日本市場に参入し、9月20日補助金適用込みの実質200万円台を実現したコンパクトEV「DOLPHIN(ドルフィン)」を発売したことでも知られている。
BYDの低価格EVの実現は、企画・開発から主用部品の製造までを一貫して自社で担う垂直統合型のビジネスモデルはもちろんのこと、親会社が2023年にEVバッテリーのシェア世界2位を獲得した有力なバッテリーメーカーというアドバンテージが大きく貢献している。
そもそもEVに使われるバッテリーの主流となっているのは正極材料にNMC(ニッケル、マンガン、コバルト)を用いた三元系バッテリーだ。軽量でありながら自動車を動かすのに充分なエネルギー密度を持ち、発熱量が少なく低温時の放電特性にも優れる特性を持つ。航続距離の点で優れていることから、現在流通しているEVは三元系を採用しているモデルが大半だ。ところがニッケルやコバルト等のレアメタルを必要とするため生産コストが高いこと、それらの原料が今後不足する可能性があるなど、まだまだ課題は残っている。
一方でBYDが得意とするのはLFPバッテリーだ。これまで 同バッテリーは生産コストの点で優れているものの重量あたりの蓄電容量は少く、航続距離において三元系に劣るためEVメーカーは採用に消極的だった。ところが2020年、BYDが独自開発した新設計のLFPバッテリー「ブレードバッテリー」を発表したことによりその劣勢は覆る。このバッテリーは薄く細長い形状により、高エネルギー密度を実現、LEPバッテリーの欠点を克服した。それに加え、安全性においても三元系に勝るのが特徴だ。レアメタルを原料に用いないため資源不足の心配もない。
このバッテリーの技術進歩を受け、LFPバッテリーは競合メーカーからの注目も集めた。2021年10月、テスラが「Model 3」「Model Y」に同バッテリーを採用していることを明らかにしたのだ。今になって考えると2023年1月にテスラがに行った値下げへの伏線とも言えるだろう。そして2023年にはトヨタも次世代型車載電池「バイポーラ型LFPバッテリー」をEVに採用し、2026~2027年に実用化する方針を明らかにした。
アメリカの総合情報サービスを提供する「ブルームバーグ」のエネルギー経済環境のリサーチ部門「BNEF(ブルームバーグ ニュー エナジー ファイナンス)」が2017年5月29日に発表した内容によると、バッテリーコストの低減により、早ければ2025年にEVの価格はガソリン車よりも低くなる可能性があるとの見解を示している。