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2030年まで待ったなし、モータースポーツ界最高峰のF1が持続可能性と技術革新で切り開く未来

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2030年まで待ったなし、モータースポーツ界最高峰のF1が持続可能性と技術革新で切り開く未来
出典元: cristiano barni / Shutterstock.com

モータースポーツ界最高峰と称されるF1。

まもなく75周年を迎えようとしているF1は、世界最速のマシンが競い合うスリリングなレースで長年に渡り人々を魅了してきた。しかし近年、F1は環境問題という新たな課題に直面している。

高速でガソリンを大量に消費するF1マシンでは、CO2排出量が環境汚染の原因であると度々指摘されてきた。しかし、レース用車両のCO2排出量は全体の1%に満たない。その多くは移動や物流によって排出されている状況だ。

2018年のF1全体のCO2排出量は25万6,551tに達し、そのうち約45%はチーム機材や人員の移動によるロジスティクスが占めている。

この問題を受け、F1は2030年までにCO2排出量ゼロを目指す野心的な目標を掲げ、様々な取り組みを進めている最中だ。

環境に配慮したレギュレーションを採用するなど、CO2排出量削減への取り組みや新燃料の導入も計画されている。この取り組みの成否に懐疑的な声も多いが、F1業界はどのように問題と向き合っていくのだろうか。

現在の動向を眺めていく。

F1という舞台で多くのテクノロジーを新たに開発し、市販車に導入し大きな変化を与えてきた過去

そもそもF1の始まりは1950年まで遡る。イギリスのシルバーストン・サーキットでF1世界選手権の最初のレースが開催された。

それから長い年月を経て、数多の名ドライバーを排出し世界各国のサーキットでレースが行われ多くのファンを魅了してきた。それと同時に技術の進歩も手伝い、より高性能なマシンが登場するなど技術者の活躍も見逃せない。

F1は、運動エネルギー回生システムやエネルギー回生システムにおける進歩のパイオニアであり、両システムは現在、ハイブリッド車の設計に不可欠な要素となっている。さらに、F1は軽量素材と効率的な流体力学を開発を繰り返すなど、ロードカーの燃費を大幅に向上させてきた。

これまで、新たなテクノロジーがF1というプラットフォームで誕生し、市販車にも大きな変化を与えてきた。その一部を紹介しよう。

【ダイレクトシフト・ギアボックス】
1984年、ドイツの自動車メーカー「ポルシェ」が発表した「Porsche 962」に初採用されたのがダイレクトシフト・ギアボックスだ。

クラッチレスの変速を可能にしたこの技術は、現代のF1で使用されているパドルシフト式トランスミッションの始祖でもあった。

マニュアル・トランスミッションのパフォーマンスに、オートマチックのシンプルで単純な操作を組み合わせたダイレクトシフト・ギアボックス。そこから派生した様々なシフトゲートを排したセミオートマチックは、その後の市販車にも応用されていった。

現在は、ポルシェなどのハイグレードモデルからホンダが提供する「Fit」などのコンパクトカーにパドルシフトがオプションとして用意されている。

【ディスクブレーキ】
ディスクブレーキが初めて採用されたのもF1マシンだ。ポルシェが「ル・マン24時間」に参戦したマシンで初採用された。

ステアリングをロックさせずに速やかな制動を可能にするディスクブレーキは、パフォーマンスを飛躍的に高める技術で、市販車の安全基準を向上させた。

1980年頃から市販車にも浸透し始め、当初は市販車に採用されるディスクブレーキは鋳鉄製が大半だった。しかし、F1などにインスパイアされた、耐熱性の高いセラミック素材が採用されるケースも現在は増加傾向にある。

【カーボンファイバー製シャシー】
軽量高剛性なカーボンファイバー製のシャシーは鉄の約10倍の強度を持ち、F1マシンを始めとした超音速機までのハイスピードマシンの定番構造素材だ。

ただ、市販車には高価なこともあり、まだまだ浸透しているとはいえない。

市販車のボディに採用されているのは、カーボンファイバー強化プラスチック(CFRP)が主流だ。近年、注目を集めるEVでは、軽量化を目的にカーボンファイバーの採用が進められているようだ。

今後、技術の発展とともに市販車へ普及されていくのではないだろうか。

【リアビューミラー】
現在では一般的ともいえるリアビューミラーもF1マシンが始まり。

初採用されたのは1950年代。ドライバーが後方から接近するライバルを視認し、ラインのブロックやコーナーでのブレーキチェックを行いやすくするために、ドライバーの手に届く位置にミラーを配置したのが始まりだといわれている。

それまでの市販車にもミラーを装着するケースもあったようだが、明確な決まりはなく任意の装備だったようだ。現在では、市販車の最重要安全装備の一つといっても過言ではなく、カメラが装着されるなど進化を遂げている。

【AWD】
平坦路面と悪路の両方で、スムーズなハンドリングを実現するためのAWDが採用されたのは1980年代のことだ。

ドイツに拠点を置くAudiが、ラリーマシン用に開発したことが始まり。

AWDを採用した車は今や世界中に浸透、多くの市販車に導入されている。

このようにF1では多くの新技術が開発され、のちに市販車へと採用され場合によっては進化を遂げている。これからもF1というプラットフォームで新たなテクノロジーが誕生することを期待したい。

CO2排出量削減を目指し、2030年に向けて様々な取り組みを行うF1

Photo by Shutterstock

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