自動車業界のAI市場規模は60億ドル(9000億円)以上。世界各国の自動車メーカーや関連企業のAI開発取り組み事例
アメリカのOpenAIが2022年にリリースしたChatGPTは世界中に衝撃を与えた。
高度な文章を生成するだけではなく、要約や翻訳、校正まで行えるAIは僅か2ヶ月間で月間ユーザー数が一億人を突破。
これを皮切りにAIをどのように活用すべきかの議論が繰り広げられてきた。
画像や音声など多種多様な分野で発展を遂げている生成AIは、アメリカ「マイクロソフト」や「Google」なども参入を果たしている。
生成AIの主導権をめぐり大手企業が火花を散らす中、日本勢も開発に乗り出した。多様なビジネスへの活用手段も模索されているが、それは自動車業界も例外ではない。
GMInsightsの「自動車業界のAI市場 2023-2032」リポートによると、2022年における自動車業界のAI市場は60億ドル以上に達し、2023年から2032年までのCAGR(年平均成長率)が55%まで成長すると見込んでいる。
研究・設計からプロジェクト管理、業務サポート機能に至るまで、自動車製造プロセスの様々な側面を変革することが期待できるだろう。また自動運転技術の発展や、エネルギー効率の向上などにも関係している。
AIとEVが融合することで、自動車産業はどのような変化が生み出されるのだろうか。日本や世界の動向を眺めていく。
目次
- テスラ超えとなるか、日本のスタートアップ「チューリング」が自動運転EVで世界を目指す
- タイヤ販売シェア世界5位の「住友ゴム」が需要予測にAIを活用、タイヤ在庫1割減を目指す
- AIを活用し多くの事例を輩出した「テスラ」が1兆5,800億円を投じサービス拡大を狙う
- 世界初となる感情を持つ車載AI「Nomi」を開発し、進化を続ける中国EVメーカー「NIO」
- 2024年、4,000人の新規採用とAIへ35億元の高額出資に踏み切った小鵬汽車(シャオペン)
- プレス加工を行う際に発生する金属板の割れ目や傷などを自動認識できる、AIの機械学習を導入したドイツ自動車メーカー「アウディ」
- AIの発展により期待が高まる完全自動運転化、さらなるイノベーションに期待
テスラ超えとなるか、日本のスタートアップ「チューリング」が自動運転EVで世界を目指す
現在、発展を遂げる生成AIは自動車業界にも大きな影響を与えた。その中でもAIと親和性が高いのがEVだ。
日本でもEVにおけるAI活用事例が登場している。
その代表格が完全自動運転のEV開発を手掛ける、スタートアップのTuring(チューリング)。同社は2021年に創業し、東京都に拠点を置く企業だ。
「We Overtake Tesla(我々はテスラを超える)」という挑戦的な企業ビジョンを掲げており、現在注目を集めている。
CEOを務めるのは山本一成氏。将棋AI「Ponanza(ポナンザ)」を開発し、2017年に名人を相手に初めて勝利を収めたことでも話題を集めた。
活躍の舞台を自動車産業に移し、自動運転を研究してきた青木俊介氏と共同でTuringを設立。同社は自動運転AIの開発はもちろんだが、車体も自社で製造する完成車メーカーを目指す。
これまでTuringでは、AIに必要となる膨大なデータを実証実験で集める作業を続けてきた。ハンドルを動かした際の角度や、アクセルを踏む強弱などのデータを収集しており、取得したデータは2022年末の時点で900時間に相当する。
膨大なデータを活用し、2022年10月に北海道の公道1,480kmのうち、約95%の道のりを自動運転モードで走行させる実証実験を実施している。
2023年2月には、千葉県柏市に「TURING Kashiwa Nova Factory」を立ち上げた。また同年3月、大手自動車メーカーの試作車や展示用の車両などの少量生産を請け負う「東京R&D」と業務提携を締結。
東京R&Dが持つ車両開発に関する豊富な経験と、Turingが強みとするAI技術をかけ合わせることで自動運転EVの実現を目指す格好だ。
将来的には自動運転の開発で培ったAIの技術をベースに、さらに高度なAIの開発につなげる構想を描いているようだ。
そして2025年を目標に市販の車体をベースに組み立て、自動運転レベル2に該当するモデルを100台生産を目指す。また2030年までに、自社工場で自動運転EVを1万台生産する見込みだ。
最終的にはAGI(汎用人工知能)の開発を目指しており、実現すればChatGPTのような生成系AI以上のインパクトを世界に与えるのではないだろうか。
日本のスタートアップ企業が世界を席巻する時代も近いのかもしれない。
タイヤ販売シェア世界5位の「住友ゴム」が需要予測にAIを活用、タイヤ在庫1割減を目指す
兵庫県神戸市に拠点を置く住友ゴム工業。タイヤなどの製造や販売を手掛け、世界販売シェアは第5位。
同社は2025年にタイヤの需要予測にAIを活用するようだ。これまではタイヤ生産に関する年間計画を、人力で調整をしてきた。住友ゴムは、今後デジタル化を押し進め事業環境の変化にデータを活用し、適応できる体制の構築を目指す。
AIを活用することで消費者のニーズを把握し、工場や販売先と調整することで生産計画を細かく組み立てられるようにする。今後は、販売実績などを踏まえた3年先の需要を予測し続け、生産計画に活用される見込みだ。2027年には、タイヤ在庫が2024年比で1割低減すると試算している。
利益優先や販売本数優先といった複数シナリオをAIに用意させることで、新規の設備投資など経営判断においても活用できるだろう。
また2022年にはNECと協業し、タイヤ開発における熟練設計者のノウハウのAI化に成功している。
それまで体系化することが難しく非常に困難な領域だったが、住友ゴムの熟練設計者とNECのデータサイエンティストが共同し実現に漕ぎつけた。
これにより熟練設計者の思考プロセスを見える化し、経験が浅い設計者への改良案考案過程やノウハウなどの技能伝承も可能にしている。
またタイヤ開発に限ったことではないがAI化に成功したことで、製造業の人手不足や、熟練技術者または設計者の技術や経験、ノウハウを次世代に繋ぐことが期待できるだろう。
このように住友ゴムは、様々な領域でAIを活用している。